外交青書・白書
第4章 国民と共にある外交

2 領事サービスと日本人の生活・活動支援

(1)領事サービスの向上

外務省は、海外における日本人に良質な領事サービスを提供できるよう、領事窓口・電話対応などの職員の応接態度や、情報発信及び領事出張サービス(実施公館のみ回答)などの領事サービスについてのアンケート調査を毎年実施し、海外における日本人の声を在外公館が提供する領事サービスの向上・改善に反映させている。2015年には149在外公館を対象に調査を行い、約1万5,000人からの回答を得た。その結果、領事窓口・電話対応はもとより、在外公館が提供する領事サービス全般についても、おおむね高い満足感が示された。その一方で、否定的な回答も少数ながら見受けられた。外務省としては、引き続き利用者の声に耳を傾け、在外公館におけるより一層利用者の視点に立った領事サービスを提供できるよう、今後とも改善に努めていく考えである。

(2)旅券(パスポート)の発給と不正取得等の防止

日本国内では2015年1年間に約325万冊の一般旅券が発行された。2015年12月末時点では、約3,058万冊の旅券が有効であり、IC旅券3は、全ての有効な日本旅券の約99%を占めている。

日本国内における旅券発行数の推移
日本国内における旅券発行数の推移

IC旅券の発行により偽変造など旅券の不正使用が困難となる中、他人になりすますなどの方法によって旅券を不正取得する事案4が引き続き発生している。日本人又は不法滞在外国人が不正取得した他人名義旅券を使って出入国する例が見られるほか、名義人の知らないところで金融機関に借金をしたり、他の犯罪をたくらむ者に売り渡す目的で銀行口座が開設されたり、携帯電話が契約されるなどの事例が報告されている。こうした2次・3次の犯罪を助長するおそれのある旅券の不正取得を未然に防止するため、各都道府県にある旅券窓口において、なりすましによる不正取得防止のための審査強化期間を設けるなど、旅券の発給時における本人確認審査の強化に一層の力を入れている。

一方、諸外国では、国際民間航空機関(ICAO)の勧告に従い、世界中のほとんどの国で機械読取式旅券(MRP)が発給され、ICAOは、非MRPの流通期限を2015年11月24日までと定めた。また、旅券にICを搭載し、顔画像以外に指紋などの生体情報を追加するなど、セキュリティを向上させたIC旅券の普及が進む中、ICAO及び国際標準化機構(ISO)において、ICチップ機能のより効果的な利用が検討されている。

2006年以降、都道府県から市町村への申請の受理や交付などの旅券事務の再委託が可能となり、2015年12月末現在、その数は、798市町村に達している。これにより、全国の約4割の市町村で旅券事務を行っている状況である。

(3)在外選挙

在外選挙制度は、海外に在住する有権者が国政選挙で投票するための制度である。2007年6月以降の選挙では、衆議院と参議院それぞれの比例代表選挙に加え、衆議院小選挙区選挙及び参議院選挙区選挙(これらの補欠選挙及び再選挙を含む。)も対象となっている。2014年12月には、第47回衆議院議員総選挙が実施され、2016年夏には、第24回参議院議員通常選挙が実施される予定である。なお、憲法改正に関する国民投票についても在外選挙同様に投票できることになっている。

在外選挙制度により投票するためには、事前に市区町村選挙管理委員会が管理する在外選挙人名簿への登録を申請し、在外選挙人証を入手する必要がある。有効な在外選挙人証を持っていれば、在外公館投票、郵便投票又は日本国内における投票のいずれかを選択して投票することができる。在外公館では、管轄地域での在外選挙制度の広報や遠隔地での領事出張サービスなどを通じて、制度の普及と登録者数の増加に努めている。

在外選挙

(4)海外での日本人の生活・活動に対する支援

ア 日本人学校、補習授業校

海外で生活する日本人にとって、子女教育は大きな関心事項の1つである。外務省では、海外でも義務教育相当年齢の子女が日本と同程度の教育を受けられるよう、文部科学省と連携して日本人学校への支援(校舎借料、現地採用教員謝金、安全対策費などへの一部援助)を行っている。また、主に日本人学校が存在しない地域に設置されている補習授業校(国語などの学力維持のために設置されている教育施設)に対しても、支援(校舎借料や現地採用講師謝金などへの一部援助)を行っている。近年、海外在住の日本人の子女の数は増加傾向にあり、今後もこうした支援を継続・強化していく考えである。

イ 医療・保健対策

外務省は、医療事情の悪い国に滞在する日本人に対する健康相談を実施するため、国内医療機関の協力を得て巡回医師団を派遣(2015年度は1か国7都市)している。また、感染症や大気汚染が深刻となっている地域に専門医を派遣し、健康安全講話を実施(2015年度には11か国18都市)している。

さらに、海外で流行している感染症などの情報を収集し、海外安全ホームページや在外公館ホームページなどを通じ、広く提供している。

ウ その他のニーズ

外務省は、海外に在住する日本人の滞在国での各種手続(運転免許証の切替え、滞在・労働許可など)の煩雑さを解消し、より円滑に生活できるようにするため、滞在国の当局に対する働き掛けを継続している。

外国の運転免許証から日本の運転免許証の切替えについては、日本は外国運転免許証を持つ全ての人に対し、自動車等を運転することに支障がないことを確認した上で、日本の運転免許試験の一部(学科・技能)を免除している。

一方、例えば北米・南米諸国では運転免許証切替えの際に取得試験を課している国・州もある。そのような国・州に対しては、運転免許切替えに関して日本と同様に手続が簡素化されるよう働き掛けている。

また、日本国外に居住する原子爆弾被爆者が在外公館を経由して原爆症認定及び健康診断受診者証の交付を申請する際の手続の支援も行っている。

3  IC旅券は、旅券の偽変造や第三者による不正使用を防止するため、生体情報である顔画像を電磁的に記録したICチップを搭載した旅券。2006年から発行

4  2011年43冊、2012年26冊、2013年13冊、2014年12冊、2015年10冊のなりすましによる不正取得事案を把握

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