外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

第3節 経済外交

総論
〈経済情勢認識と日本の経済外交〉

2015年の世界経済は、米国の金融政策正常化に向けた動きや中国を始めとする新興国経済の先行きに注目が集まる中、原油価格下落の影響、中東その他の地政学リスクなどが懸念されたものの、全体としては緩やかな回復を続けた。日本経済も、企業業績が改善し雇用情勢の改善を後押しするなど、緩やかな回復基調が続いた。

日本政府は、かかる経済情勢認識の下、2015年6月、「デフレ脱却に向けた動きを確実なものとし、将来に向けた発展の礎を再構築する」ことを目指し、「日本再興戦略」(以下「成長戦略」)を改訂した。「成長戦略」では、日本の企業や人が積極的に海外市場に打って出るとともに、「世界のヒト、モノ、カネ」を日本に惹(ひ)き付けることで世界の経済成長を取り込み、日本の成長につなげていく道筋を示している。

日本経済の成長を後押しする経済外交の推進は、日米同盟の強化及び近隣諸国との関係推進と並んで、日本外交の三本柱の1つとして位置付けられており、積極的に取組を進めてきた。2015年は、「成長戦略」も踏まえつつ、①日本経済の成長への貢献、②安心して住める魅力ある国づくり及び③国際的なルール作りの3つの側面から経済外交を進めた。

〈日本経済の成長への貢献〉
(1)経済連携の推進

高いレベルでの経済連携の推進は、「2018年までにFTA比率70%を目指す」ことを掲げる「成長戦略」の柱の1つである。10月、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉が大筋合意に至り、2016年2月、署名された。TPP協定はアジア太平洋の12か国で、新しい貿易・投資ルールを構築するものであり、同協定が発効すれば、世界の国内総生産(GDP)の約4割、人口の1割強を占める巨大な経済圏が誕生することとなる。そのほか、日豪経済連携協定(EPA)が1月に発効し、2月には日・モンゴルEPAが署名に至るなど、2015年は、日本経済の成長に貢献する経済連携の取組が着実に前進した。このような成果を踏まえ、今後も日本は、TPP協定の早期発効及び参加国・地域の拡大を図るとともに、日EU・EPA、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日中韓自由貿易協定(FTA)などの経済連携協定の交渉に同時並行的に取り組むことで、世界全体の貿易・投資ルール作りに貢献していく考えである。

(2)日本企業の海外展開支援

日本経済再生の兆しを着実な成長へとつなげていくためには、日本企業の海外展開を通じて、新興国を始めとする諸外国の成長を取り込んでいくことが重要である。外務省では、岸田外務大臣を本部長とする「日本企業支援推進本部」の指揮の下、在外公館では公館長が先頭に立って、官民連携で日本企業の海外展開を推進しており、9月には、こうした業務を総合的に担う「官民連携推進室」を設置した(P186特集参照)。

また、「2020年に約30兆円のインフラシステムの受注を実現する」(「成長戦略」)という政府の目標に向け、要人往来の機会を最大限活用したトップセールスにより、日本のインフラや技術を海外に売り込んでいる。

外務省では、「2020年農林水産物・食品の輸出額1兆円目標の前倒し達成」(「成長戦略」及び「統合的なTPP関連政策大綱」)に向けて、在外公館を活用し、日本産品の魅力を積極的に発信している。さらに、11月の「総合的なTPP関連政策大綱」の決定等を受け、日本企業支援担当官(食産業担当)を計58の在外公館等に設置した。東日本大震災・東京電力福島第一原発事故を受けた輸入規制については、各国政府等に正確な情報を迅速に提供するとともに、科学的根拠に基づき、規制を可及的速やかに緩和・撤廃するよう働き掛けてきている。

〈安心して住める魅力ある国づくり〉

エネルギー、鉱物資源、食料の多くを海外からの輸入に頼る日本において、これらを安定的に確保し、国民の安心した暮らしを守るために、外務省では以下の取組を推進している。

(1)エネルギー・鉱物資源・食料安全保障

多くの資源を海外に依存し、東日本大震災以降、火力発電への依存度を9割まで高めている日本にとって、資源の安定的かつ安価な供給確保に向けた取組が引き続き重要である。外務省としても様々な外交手段を活用し、資源国との包括的かつ互恵的な関係の強化に努め、供給国の多角化を図るなど戦略的な資源外交を行っている。特に、2015年には、安倍総理大臣が中東、アジア太平洋、中央アジアなどの主要な資源国を訪問し、積極的な資源外交を展開した。また、2013年以降設置されている「エネルギー・鉱物資源専門官」制度を活用し、引き続き情報収集などの体制強化を図った。

食料安全保障については、世界的な人口増加と食料不足が予想される中、日本としても世界の食料生産の促進を通じて、世界の食料需給の緩和を図ることにより、日本の安定的な食料確保に資する取組を進めている。

(2)海洋生物資源の持続可能な利用

また、日本は海洋生物資源の適切な保存管理及び持続可能な利用に積極的な役割を果たしている。7月に「北太平洋における公海の漁業資源の保存及び管理に関する条約」が発効し、同条約に基づき設立された北太平洋漁業委員会の事務局が東京に設置された。また、南極海の鯨類科学調査については、国際捕鯨委員会(IWC)科学委員会から指摘された追加作業の完了を受けて、新南極海鯨類科学調査計画(NEWREP-A)を最終化し、2015年度から調査を実施することとした。

〈国際的なルール作り〉

国際経済における法の支配を確保し、世界経済の安定的発展を図るべく、日本は、世界貿易機関(WTO)においてルール作りに積極的に参画しているほか、経済協力開発機構(OECD)、アジア太平洋経済協力(APEC)、G7・G20サミットなどの場において、経済・社会を始め様々な分野で国際的な議論を主導している。

(1)多数国間の貿易自由化(WTO)

多数国間の貿易自由化をめぐる交渉については、長年にわたり膠着(こうちゃく)状態が続いてきているものの、WTOを中心とする多角的貿易体制は、新たなルール作りや紛争解決を含む既存のルールの運用面において重要な役割を果たしている。新たなルール作りについては、12月の第10回WTO閣僚会議(MC10)における情報技術協定(ITA)の品目拡大交渉や輸出補助金を含む輸出競争等の農業分野における合意が達成されたことは、WTOの交渉機能が完全に不全となっているわけではないことを示している。その一方で、WTOにおける昨今の最大の議論であるドーハ・ラウンド(DDA)交渉の継続の是非を含む今後のWTO交渉の在り方については、先進国と開発途上国の間で意見が収斂(しゅうれん)せず見通しがついていない。時代によって変化する課題への対応を含め、WTOの交渉機能をいかにして再活性化・強化するかとの観点から、従来とは違った新しいアプローチを検討する必要があり、日本としても積極的に議論に参加していく考えである。既存のルールの適切な運用確保に当たっても、日本は積極的に参画している。

(2)国際的な議論を主導

先進国首脳が集まって政策協調のための議論を行うG7については、6月に開催されたG7エルマウ・サミット(於:ドイツ)において、本年が戦後70年、ランブイエ・サミット(第1回サミット、於:フランス)から40年に当たる年であることも踏まえ、安倍総理大臣から、G7は自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値に立脚し、国際社会の秩序を支えてきたことを指摘した上で、グローバルな視点から対応できるのはG7であり、G7の責任は大きく、G7の連携がますます重要になっていると発言した。

また11月のG20アンタルヤ・サミット(於:トルコ)では、強固で持続可能かつ均衡ある経済成長の実現に向けた具体的な取組につき首脳間で率直な意見交換を行い、各国の個別のマクロ経済政策や成長戦略の現状と今後の計画を記載した「アンタルヤ行動計画」を発表した。また、サミット直前に発生したパリにおけるテロ事件を強く非難するとともに、G20が協調してテロ対策を行うことで一致し、「テロとの闘いに関するG20声明」を発出した。

アジア太平洋地域の21の国と地域が参加する経済協力の枠組みであるAPECでは、11月に開催されたフィリピンAPECにおいて、「包摂的な成長」を全体テーマとして、地域経済統合や強靱(きょうじん)で持続可能なコミュニティづくりについて活発な議論が行われた。安倍総理大臣から、「経済面での法の支配」の強化の重要性を強調するとともに、「一億総活躍社会」の実現や女性の活躍推進などの取組を説明した。

経済、社会の広範な分野を扱う「世界最大のシンクタンク」であるOECDでは、日本が議長国を務めた2014年の閣僚理事会で立ち上げた「東南アジア地域プログラム」の第1回運営グループ会合(於:ジャカルタ(インドネシア))が3月に開催され、日本が共同議長に就任するなど、OECDと東南アジアとの関係強化に貢献した。また、6月、「持続可能な成長と雇用のための投資の解放」をテーマに開催された2015年の閣僚理事会では、気候変動に係る日本の貢献策をアピールするとともに、「質の高いインフラ投資」の重要性を訴えた。

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