外交青書・白書
第2章 地球儀を俯瞰する外交

2 シリア

シリア・アラブ共和国では、シリア政府軍、いわゆる穏健な反体制派、ISILやヌスラ戦線等のイスラム過激派勢力及びクルド勢力間の衝突が継続した。2014年9月以降、米国などによるシリア領域内のISIL等に対する空爆が継続される一方、2015年9月末には、シリア政府の要請を受けてロシアがシリア領域内への空爆を開始した。

日本としては、シリア情勢の安定化には、「ジュネーブ・コミュニケ1」を通じた政治的解決が基本であり、同時に継続的な支援を通じて情勢の悪化に歯止めをかけることも重要であると考えている。この観点から、日本は、シリア情勢が悪化して以降、2015年までに12億米ドル以上のシリア・イラク及び周辺国に対する支援を実施してきており、2016年の国連安保理非常任理事国入り後は国連安保理における議論で貢献を行うとともに、引き続き、日本の強みである人道支援を中心に、そのほかの国連安保理理事国を始めとする国際社会と緊密に連携しながら、シリア情勢の改善及び安定のために取り組んでいく考えである。

人道支援については、2015年3月31日にクウェートで開催された第3回シリア人道支援会合(「クウェート3」会合)において、日本はシリア及び周辺国支援として、シリア難民の影響を受けているトルコの地方自治体のインフラサービス改善のための約3億7,000万米ドルの円借款を含む総額約5億900万米ドルの支援を実施すると表明した。また、5月には、同じくシリア難民の影響を受けているヨルダンの経済・財政安定化のための約2億米ドルの円借款を実施したほか、7月半ばにシリア国外に流出した難民数が400万人を突破する中、日本は9月までに主として国際機関及び日本のNGOを通じたシリア難民・国内避難民、ホストコミュニティ等に対する総額約1,200万米ドルの支援を実施することを決定した。さらに、2016年2月にロンドンで開催されたシリア危機に関する支援会合では、日本は新たにシリア・イラク及び周辺国に対し約3億5,000万米ドルの支援を実施することを表明した。日本は、シリア危機が長期化する中、保健・衛生、食糧支援といった短期的に必要な支援だけではなく、難民が帰還した際の自立に向けた教育・職業訓練や、難民及びホストコミュニティの生活環境整備、インフラ整備といった中長期的に必要な支援も実施してきている。今後は、9月末の国連総会の一般討論演説で安倍総理大臣から表明したように、人道支援機関と開発支援機関の連携による支援にも取り組んでいく。

シリア危機に関する支援国会合でステートメントを発表する武藤外務副大臣(2016年2月4日、英国・ロンドン)
シリア危機に関する支援国会合でステートメントを発表する武藤外務副大臣(2016年2月4日、英国・ロンドン)

停滞していたシリアの政治プロセスについては、2015年に入り、シリア難民を含む大量の難民・移民等の欧州への流入やロシアによるシリア領域内への空爆開始などを受け、シリア危機の政治的解決の必要性が改めて認識され、10月から11月にかけて、ウィーンでシリアに関する外相級会合が相次いで開催された。11月14日の会合では、国連の下でのシリア人主導の政治プロセス等を内容とする「国際シリア支援グループ(International Syria Support Group(ISSG))」の声明が発出されたことを踏まえて、12月18日にはニューヨーク(米国)でISSG会合が開催され、続いて同日、シリア危機が始まって以来初の政治プロセスに関する決議である国連安保理決議第2254号が全会一致で採択された。同決議は、国連事務総長に対し、公式交渉のために2016年1月初旬に協議を開始することを目標にシリア政府と反体制派の代表を招集することを要請したほか、停戦監視、検証及び報告メカニズムの候補について同決議採択の1か月以内に国連安保理に報告することを要請するなど、2012年6月の「ジュネーブ・コミュニケ」及び2015年11月14日のISSGの声明に従って、今後国連の下でシリア人主導の政治プロセスが実施されることを呼び掛けている。

化学兵器の問題については、2013年9月の化学兵器禁止機関(OPCW)の決定及び9月27日の国連安保理決議第2118号に基づいて、2014年6月にシリア国外への搬出が完了した化学剤及び化合物については廃棄作業がほぼ完了し、また、シリア国内の化学兵器生産施設についても廃棄作業が完了に近づいている。シリア国内で引き続き発生している塩素ガス等の使用事案については、2015年8月の国連安保理決議第2235号に基づいて、使用者等の責任特定のための国連・OPCWの共同調査メカニズムが設置された。

1 2012年6月30日のシリアに関するアクション・グループ会合(「ジュネーブ1」会合)で採択された文書で、移行的な統治主体の設立を含むシリアの政権移行プロセス等が盛り込まれている。

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