1 イラク
2003年のイラク戦争後、イラクは新たな国づくりを進めてきているが、現在はテロとの闘い、国内各勢力を包含した国民融和の実現及び油価下落に伴う財政難への対処が優先課題となっている。
ISILは、引き続きイラク北部及び西部地域に領域を確保している。アバーディー政権はISILとの闘いを継続し、3月から4月にかけてティクリートを奪還したが、5月にはラマーディーをISILに占拠されるなど、戦況は一進一退の状況が続いていた。しかし、2015年後半に入り、イラク政府は10月末にベイジを奪還し、また、11月にはペシュメルガを中心とする部隊がシンジャールを解放し、2016年2月にはラマーディーを奪還するなどISIL掃討を進展させている。

アバーディー首相は、ISIL侵攻の原因ともなった宗派・民族間の不和を解消し、国民融和に向けた取組を進めようとしている。しかし、スンニ派による治安部隊の創設を促す国家警備隊法案などの重要法案の成立が先延ばしされるなど、国政レベルでの国民融和は、いまだ目立った成果を上げていない。また、アバーディー首相は、国民の支持に応え政権の求心力を高めるため、行・財政分野等の改革に係る首相勅令を8月に発出し、汚職に関与する者の訴追や監査の徹底、政府機関の統廃合を通じたスリム化を図ることなどを目指しているが、改革の実施に時間を要している。
歳入の約9割を石油収入に依存するイラクは、油価下落と膨大な戦費支出により、深刻な財政難に直面しており、電力や水といった基礎的な行政サービス提供に支障を来している。しかし、石油収入に強く依存する経済構造下にあって、政府は有効な対策を打ち出せないでいる。
日本は、2003年のイラク戦争後も、イラクとの間で良好な関係を維持・強化してきている。2月から3月にかけて、薗浦外務大臣政務官が、バグダッド、バスラ及びエルビルを訪問し、政府関係者などと意見交換を行い、過激主義と対峙するイラクに対する日本の支援が揺るぎないことを伝達した。

10月には、日イラク友好議連関係者(会長:小池百合子衆議院議員)が、バグダッドを訪問し、イラク議会関係者及び政府関係者などと会談し、議員間交流の強化に努めた。さらに、11月、イラク国内での和解及び復興を促進すべく、日・イラク第6回知見共有セミナーを実施し、イラクの異なる宗派に所属する国民議会議員6人を日本に招き、政府要人との会談に加え、京都や広島での視察などを通じて、日本の民主化、平和、復興の経験を共有した。
11月のジャアファリー外相訪日時には、岸田外務大臣との間で、日・イラク外相会談が実施され、両大臣は、ISILとの闘い、シリアなどの地域情勢について率直な意見交換を行うとともに、岸田外務大臣から、テロとの闘いの最前線に立ち国内融和や国内改革に向けた取組を着実に進めようとしているイラク政府を支持することなどを述べるとともに、日本はイラクに対する人道支援及び国づくり・人づくり支援などを継続していくことを伝えた。