外交青書・白書
第2章 地球儀を俯瞰する外交

各論

1 ロシア

(1) 日露関係

ア アジア太平洋地域における日露関係

近年、ロシアは、極東・東シベリア地域の開発を重視し、世界経済の成長センターであるアジア太平洋地域との関係強化を積極的に推進している。日本にとっても、日露両国がアジア太平洋地域のパートナーとしての関係を発展させることは国益に資するものであり、安全保障、経済、人的交流等あらゆる分野における協力の進展に努めている。その一方で、日露関係の飛躍的発展への制約となっているのが北方領土問題である。政府は、この問題を解決して平和条約を締結すべく精力的に取り組んでいる。

イ 北方領土と平和条約交渉

北方領土問題は日露間の最大の懸案であり、北方四島は日本に帰属するというのが日本の立場である。政府は、日ソ共同宣言、東京宣言、イルクーツク声明などのこれまでの諸合意及び諸文書や法と正義の原則に基づき、北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するとの一貫した方針の下、ロシア政府との間で精力的な交渉を行っている。

2013年は、4月のG8外相会合の際に安倍政権発足後初めての日露外相会談が行われた(於:英国)。同月末には安倍総理大臣が日本の総理大臣として10年ぶりにロシアを公式訪問し、プーチン大統領との首脳会談を行った。この中で、両首脳は、戦後67年を経て日露間で平和条約が締結されていない状態は異常であるとの認識を共有した。その上で、両首脳の議論に付すため、双方に受入れ可能な解決策を作成する交渉を加速化させるとの指示を両国外務省に共同で与えることで合意した。その後、G8サミットの際の日露首脳会談(6月、於:英国)、次官級協議(8月、於:ロシア)、G20サミットの際の日露首脳会談(9月、於:ロシア)、APEC首脳会議の際の日露首脳会談(10月、於:インドネシア)、ラヴロフ外相の訪日を得ての日露外相会談(11月)が行われ、本問題を含むハイレベルの対話が積極的に行われている。

また、日本は、北方領土問題の解決のための環境整備に資する事業などにも積極的に取り組んでいる。具体的には、四島交流、元島民による自由訪問及び墓参を実施すると同時に、北方四島を含む日露両国の隣接地域において、防災や生態系保全などの分野での協力を進めている。

日露首脳会談に臨む安倍総理大臣(右)とプーチン・ロシア大統領(4月28日、ロシア・モスクワ 写真提供:内閣広報室)
日露首脳会談に臨む安倍総理大臣(右)とプーチン・ロシア大統領(4月28日、ロシア・モスクワ 写真提供:内閣広報室)
ウ 日露経済関係

日露経済関係は、貿易額が2013年には過去最高の約348億米ドルとなるなど着実に拡大している。4月の安倍総理大臣の訪露には約30人の社長級を含む総勢約120人から成る経済ミッションが同行し、両国は、農業、医療、都市環境といった新たな分野での協力推進に一致した。また、企業などの間でも協力覚書などが署名された。その後、日露経済関係推進のため、政府としても日露交流促進官民連絡会議を設置するなど体制を強化している。10月には、「ロシアの経済近代化に関する日露経済諮問会議」の第3回会合を東京で開催した。その際、省エネ、医療、農業、都市環境等の分野に焦点を当て、企業の取組を支援するとともに、今後の協力の方向性について意見交換を行った。

ロシアの貿易投資環境については、2012年8月のWTO加盟などにより一定の改善は見られるが、日本企業からは依然として多くの問題が指摘されている。日本政府として、様々な場でロシア側に改善を働きかけている。

エネルギー分野では、日本企業が参加する石油・天然ガスプロジェクトとしてサハリン・プロジェクトが順調に進んでいるほか、極東及び北極海に面するヤマル半島で進行中のLNGプラント建設プロジェクトにも日本企業が関与している。また、オホーツク海北部や東シベリアにおける共同探鉱・開発も行われている。

そのほか、ロシア国内の6都市にある日本センターが両国企業へのビジネス活動や地域間経済交流を支援している。同センターは、日露経済交流分野で将来活躍する人材の発掘・育成のため、経営関連や日本語の講座、訪日研修などを実施している。これまでに約6万人のロシア人が受講し、そのうち約4,300人が訪日研修に参加した。

エ 様々な分野における日露間の協力

安全保障分野では、11月に日露間で初の外務・防衛閣僚による「2+2」を開催し、テロ・海賊対処共同訓練の実施などで一致した。これは、両国間の信頼の増進や日露関係全体の底上げ、東アジアの平和と安定の促進の点で意義がある。防衛当局間では、7月に東部軍管区地上軍代表が陸上自衛隊北部方面総監部を訪問し、8月に海上幕僚長が訪露した。このほか、12月にはロシア海軍艦艇が舞鶴を訪問し、海賊対処訓練の一環としての立入検査訓練や捜索・救難共同訓練を実施した。治安分野では、7月にモスクワで海上保安庁長官とロシア連邦保安庁国境警備局長官との会合が行われた。また、10月にサハリンで海上保安庁とロシア連邦国境警備局による日露6海上警備地方機関実務者会合が行われた。

人的交流に関しては、日露青年交流事業の枠組みによる交流が高い水準で行われた。文化面においても、伝統文化から現代文化に至るまで活発な交流が図られた。特にスポーツ分野では、武道を通じて日露両国民の相互理解を深めるとともに、両国民の交流の更なる活性化を図るため、2014年を「日露武道交流年」とすることが4月の首脳会談で合意された。

日・ロシア捜索・救難共同訓練の際、舞鶴港に入港した「アドミラル・ヴィノグラードフ」号(12月)
日・ロシア捜索・救難共同訓練の際、舞鶴港に入港した「アドミラル・ヴィノグラードフ」号(12月)

(2) ロシア情勢

ア ロシア内政

9月、統一地方選挙が実施され、各種選挙の大半で与党「統一ロシア」が勝利した。最も注目が集まったモスクワ市長選挙では、現職のソビャーニン市長が得票率51.4%で再選されたが、反政権のナヴァリヌィ候補が27.2%と健闘した。中央政府の主な人事としては、5月に解任されたスルコフ副首相兼政府官房長官が9月に大統領補佐官として復帰したほか、8月、イシャーエフ極東連邦管区大統領全権代表兼極東発展相が解任され、トルトネフ同全権代表兼副首相とガルシュカ極東発展相が新たに任命された。治安面では、10月及び12月末に、ロシア南部ヴォルゴグラード市でイスラム過激組織構成員による自爆テロが発生した。

イ ロシア経済

原油と天然ガスの輸出に大きく依存するロシア経済は、前年から引き続き最大の輸出相手である欧州経済の低迷による輸出の減少を受け、工業生産や設備投資が落ち込んだ。また、これまで景気を下支えしてきた個人消費も低迷した。第3四半期にようやく景気減速に歯止めがかかったが、依然として輸出の回復ペースは緩慢であり、2013年の経済成長率は1.3%にとどまった。

ウ ロシア外交

米国との間では、8月にロシアがスノーデン元CIA職員に一時亡命を認めたことを契機に、オバマ米国大統領が9月に予定されていた米露首脳会談を延期するなど、関係が冷却化した。欧州との関係でも、ロシアがウクライナのEU統合路線を阻止し、欧州がロシア国内の人権問題への批判を強めるなど、あつれきが強まっている。一方で、ロシアはシリアの化学兵器廃棄に向け国際社会の議論をリードし、米国によるシリア攻撃を回避させることで、外交上の存在感を示した。

中国との間では、3月に習近平中国国家主席が就任後初の外遊先としてロシアを訪問するなど、両国首脳間の相互訪問を通じて戦略的パートナーシップを引き続き発展させた。また、上海協力機構、BRICS1首脳会合などの多国間の枠組みでも連携が見られた。

対外政策の優先地域と見なすCIS2諸国に対しては、ロシアとの経済統合を促しており、関税同盟3へのアルメニア及びキルギスの加盟に向けた動きが見られた。また、2015年1月に「ユーラシア経済同盟」の発足を目指している。

また、ロシアは9月にサンクトペテルブルクで、議長国としてG20首脳会合を主催した。

1 ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカが構成国。

2 独立国家共同体。旧ソ連構成国のうち、アゼルバイジャン、アルメニア、ウクライナ、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ベラルーシ、モルドバ、ロシアの10か国で構成(トルクメニスタンが準加盟国)。

3 2010年にロシア、カザフスタン及びベラルーシにより発足。

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