外交青書・白書
第2章 地球儀を俯瞰する外交

4 南アジア

(1)インド

インドは、東南アジアと中東の中間、ユーラシア大陸の中央という地政学的に重要な地域に位置し、世界第2位の人口を擁する巨大な市場と膨大なインフラ需要を有するアジア第3位の経済規模の新興経済大国である。

2009年に発足した第2次シン政権は、社会開発と経済成長の両立を目指した包括的成長を目標に掲げ、貧困層・弱者救済などに取り組み、経済改革・自由化の前進に全力を挙げている。外交面では、高い経済成長を促す平和な国際環境の構築を目的として、南アジア諸国だけでなく、日本や米国、国境紛争を抱える中国など主要国との関係促進に尽力している。経済面では、2008年から2012年までは年率平均約7%の成長を遂げたが、欧州債務危機や高インフレへの対応のための利上げの結果、成長が減速し、2012年のGDP成長率は5%、2013年7~9月期のGDP成長率は4.8%にとどまった。インド経済の安定化のため日本は、2013年9月、インド政府の要請に基づき、日本・インド間の通貨スワップの交換限度額を150億米ドルから500億米ドルに拡充することに合意した。

日本とインドとの関係については、2006年に安倍総理大臣とシン首相が「戦略的グローバル・パートナーシップ」及び年次首脳会談の実施に合意して以来、ほぼ毎年、両国首脳が相互訪問し、政治・安全保障、経済面での緊密な連携・協力関係を構築してきている。2013年5月には、シン首相が訪日し、政治・安全保障面での協力、デリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)、高速鉄道などの経済面での協力関係強化が確認された。2013年11月30日から12月6日の間、53年ぶりに天皇皇后両陛下が御訪問になり、両国の親密な友好親善関係が一層深められた。

スワップ協定に署名するシン・インド首相と安倍総理大臣(5月29日、東京 写真提供:内閣広報室)
スワップ協定に署名するシン・インド首相と安倍総理大臣(5月29日、東京 写真提供:内閣広報室)

(2)パキスタン

パキスタンは、アジアと中東を結ぶ要衝にあり、その政治的安定と経済発展は地域の安定と成長に重要な意義と影響力を有する上、国際テロ対策にとって最重要国である。また、1億8,000万人の人口を抱え、その6割以上が若年層であるなど、経済的な潜在性も高い。

2013年3月、議会下院が任期満了に伴い解散され、同国の憲政史上初めて文民政権が5年間の任期を全うすることとなった。5月の総選挙により、「ムスリム連盟ナワズ派(PML-N)」が勝利し、シャリフ首相の下で新政権が誕生した。パキスタンは、外貨準備高の激減、財政赤字の拡大、電力不足などの課題に直面しており、シャリフ新政権は、経済と財政の立て直しに集中的に取り組んでいる。9月のIMF理事会では、3年間で66.4億米ドルの新規融資が承認されたが、今後、更に改革を推進することが求められている。また、治安については、2009年をピークとしてテロ発生件数は減少傾向にあったが、2013年は総選挙を起因とするテロ事案の発生もあり、テロ発生件数が増加した。シャリフ新政権は、テロ対策として「パキスタン・タリバーン運動(TTP)」との対話を打ち出しているが、大きな進展は見られていない。

2014年末に隣国アフガニスタンから国際治安支援部隊(ISAF)が撤収する予定であることもあり、アフガニスタンの安定のために重要なタリバーンとの和解などについて、パキスタンが果たす役割は引き続き重要となっている。インドとの間にはカシミールをめぐる領土問題があり、カシミールの管理ライン付近での銃撃戦が散発的に発生しているが、両国の対話プロセスは継続されており、2013年9月にインド・パキスタン首脳会談が実施された。

日本とパキスタンとの関係については、2013年9月の国連総会の機会に安倍総理大臣とシャリフ首相による首脳会談が行われ、新たなパートナーシップを構築することが合意された。

(3)スリランカ

スリランカでは、ラージャパクサ大統領の下、安定した政権運営が行われており、経済面でも近年6%以上の経済成長率を維持している。2009年の内戦終結後40、国民和解が課題となっている。この点については、2013年9月に初の北部州議会選挙が実施される一方で、民族問題の政治解決など「過去の教訓・和解委員会」報告書の勧告の着実な実施が課題となっており、国際社会もスリランカにおける国民和解に高い関心を有している。

日本とスリランカとの関係については、2013年3月、ラージャパクサ大統領が訪日し、安倍総理大臣との首脳会談で、海洋協力、経済・経済協力、国民和解について意見交換を行った。5月には、麻生副総理兼財務大臣がスリランカを訪問した。9月にはラージャパクサ経済開発相が訪日した。また、8月には承子女王殿下が日本の皇族として21年ぶりにスリランカを御訪問になった。

ラージャパクサ・スリランカ大統領と共同宣言署名式に臨む安倍総理大臣(3月14日、東京 写真提供:内閣広報室)
ラージャパクサ・スリランカ大統領と共同宣言署名式に臨む安倍総理大臣(3月14日、東京 写真提供:内閣広報室)

(4)バングラデシュ

人口1億5,000万人以上を抱えるバングラデシュは、後発開発途上国ではあるものの、繊維品を中心とした輸出が好調で約6%の経済成長率を維持し堅調に成長している。安価で質の高い労働力が豊富な生産拠点、インフラ整備の需要のある潜在的な市場として注目を集め、進出日系企業数は61社(2005年)から135社(2013年)に増加している。

一方、電力・天然ガスの安定した供給やインフラ整備が外国企業の投資に当たり、引き続き課題となっている。経済については、海外移住者や出稼ぎ労働者からの海外送金が多く、名目GDPの1割弱を占めるのが特徴である。

内政については、過去20年以上にわたりアワミ連盟とBNP(バングラデシュ民族主義党)が約5年ごとに政権交代を繰り返す二大政党の対立が特徴である。2009年に発足したハシナ政権は物価対策や外交などで一定の成果を上げたが、2013年は次期総選挙をめぐり与野党間の対立が高まり、ハルタル(交通封鎖を伴う抗議ゼネスト)が頻繁に行われるなど内政・治安が流動的な状況となっている。

(5)ネパール

ネパールは、南アジア地域における最貧国の1つであり、低成長からの脱却が課題となっている。日本とネパールは、日本が長年主要援助国であることに加え、皇室・旧王室関係や登山などの各種交流を通じ、伝統的に友好関係を有している。

ネパールでは、2006年の包括的和平合意41を受けて、2008年に制憲議会が招集42されて以来、憲法制定の取組が行われていた。しかし、主要政党間の対立により憲法策定作業が難航し、2012年5月、任期内に憲法が制定されないまま議会が解散した。主要政党の協議の結果、制憲議会を開くための選挙を再度実施することで合意が成立し、2013年11月、第2回制憲議会選挙が実施された。

日本はこれまで、国連ネパール政治ミッション(UNMIN)への要員派遣、選挙支援、法制度整備などを通じて、ネパールにおける民主主義の定着を支援している。

(6)ブータン

ブータンは2008年に王制から立憲君主制に平和裏に移行した。2013年7月の第2回総選挙により政権交代が行われ、現在はトブゲー政権の下で民主化定着のための取組が行われている。政府は国民総幸福量(GNH)を国家運営の指針とし、第11次5か年計画の課題である経済的な自立、食料生産、若者の失業率低下などに取り組むとともに、GNHの国際社会での普及・発展にも力を入れ、2013年2月に幸福に関する国際的な専門家作業部会をティンプーにて開催した。

近年、日・ブータン間の交流は様々な分野で一層活発になっており、2012年はブータンを訪れた外国人観光客の人数において、日本が第1位となった。

(7)モルディブ

日本が長年にわたり経済協力を行っているモルディブは、漁業と観光業を中心に経済成長し、2011年には後発開発途上国を卒業した。モルディブでは、2008年に民主的な憲法下で初めて大統領選挙が実施された。その後、5年間の大統領任期が終了したため、2013年11月、2度目となる大統領選挙が実施され、ヤーミン大統領が新たに選出された。

日本とモルディブとの関係については、2013年6月、新藤総務大臣が日本の閣僚として初めて公式にモルディブを訪問した。また、同月、温室効果ガスの排出に関する二国間クレジット制度の二国間文書への署名が行われた。

40 スリランカでは1983年から2009年まで25年以上にわたり、スリランカ北部・東部を中心に居住する少数派タミル人の反政府武装勢力であるタミル・イーラム解放の虎(LTTE)が、北部・東部の分離独立を目指し、政府側との間で内戦状態にあった。

41 ネパールは、1990年の民主化運動を経て国王親政から立憲君主制に移行したが、マオイスト(ネパール統一共産党毛沢東主義派)が武装闘争を開始した。ネパールの政党はマオイストと連携し、2006年5月、国王の政治・軍事に関する諸権限の廃止を決めた。同年11月、ネパール政府とマオイストは、約10年に及んだ紛争の終結を含む包括的な和平合意に署名した。

42 2008年4月の制憲議会選挙でマオイストが第一党となり、同年5月の制憲議会初会合では王制が廃止され、連邦民主制に移行することが決定された。

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