今日、多くの新興国が位置し、世界の成長のけん引役となっているアジア・大洋州地域は、世界における存在感を更に増大させている。豊かで安定したアジア・大洋州地域の実現は、日本の平和と繁栄にとって不可欠である。経済面では、この地域は豊富な人材に支えられ、引き続き高い成長率を誇っている。世界の約70億人の人口のうち、米国、ロシアを除く東アジア首脳会議(EAS)参加国(1)には約34億人が居住しており、世界全体の49.2%を占めている(2)。東南アジア諸国連合(ASEAN)、中国及びインドの名目国内総生産(GDP)の合計は、過去10年間で4倍に増加(3)(世界平均は2倍)しており、今後、中間層の増加により購買力の更なる飛躍的な向上が見込まれる。また、米国、ロシアを除くEAS参加国の輸出入総額は、10兆米ドルであり、欧州連合(EU:12兆米ドル)に次ぐ規模である。域内輸出入総額がそのうちの44.2%を占めており(4)、域内の経済関係は非常に密接で、経済的相互依存が進んでいる。近年では、日本主導による投資を原動力に、この地域全体にまたがる緊密なサプライチェーンが成立している。この地域の力強い成長を促し、膨大なインフラ需要や巨大な中間層の購買力を取り込んでいくことは、日本に豊かさと活力をもたらすことにもなる。
その一方で、アジア・大洋州地域では、北朝鮮によるミサイル発射や核実験などの挑発行為、地域諸国による軍事力の近代化や海洋活動の活発化、南シナ海を始めとする海洋をめぐる問題における関係国・地域間の緊張の高まりなど、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。また、発展途上の金融市場、環境汚染、食糧・エネルギーの逼(ひっ)迫(ぱく)、高齢化など、この地域の安定した成長を阻む要因も抱えている。
このように、この地域の戦略環境が変化する中、日本が地域諸国との協力を強化することが一層重要になっている。日本としては、地域の平和と繁栄のために積極的な役割を果たすべく、日米同盟を強化しつつ、近隣諸国との協力関係を強化していく。そのために、二国間のみならず、日中韓、日米韓、日米豪といった三国間の対話の枠組みや、日・ASEAN、ASEAN+3(5)、EAS、APECなどの枠組みを活用し、地域協力を推進していく。
上述のとおり、アジア・太平洋地域の平和と繁栄を確保する上で外交の基軸としての日米同盟を強化することの重要性は、一段と高まっており、この観点から、日本は、米国のアジア太平洋地域重視政策を歓迎している。この地域を力ではなくルールが支配する地域にすべく、日米が協力していくことが重要であり、地域の平和と繁栄のため、日本も責任を果たしていく。
中国は、これまで文化や人的交流など幅広い分野で日本と深いつながりを有してきた重要な隣国であり、近年、その急速な経済成長を背景に、様々な分野で国際社会における存在感を一段と増している。中国との関係は、日本にとり最も重要な二国間関係の一つであり、具体的な協力・交流を通じて、大局的観点から「戦略的互恵関係」を進めてきている。
2012年は日中国交正常化40周年であり、670近い記念事業が実施された。しかし、9月の日本政府による尖閣諸島三島の取得以降、中国側は独自の主張に基づく言動を強め、度重なる公船の領海侵入や政府航空機による領空侵犯が発生した。また、ハイレベルの交流や民間交流、政府間協議が中止・延期されるなど、日中関係に大きな影響が生じた。さらに年が明けた2月には、中国海軍艦艇による火器管制レーダーの照射といった事案も発生した。
尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本固有の領土であり、現に日本はこれを有効に支配している。したがって、尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題はそもそも存在しない。尖閣諸島をめぐる情勢については、引き続き冷静かつ毅然として対応し、中国側との間で粘り強く対話を行い、事態をエスカレートさせないよう自制を求めていく。
台湾は、日本との間で緊密な経済関係を有する重要なパートナーであり、人的往来も活発に行われている。1972年の日中共同声明に基づき、台湾との関係を引き続き非政府間の実務関係として維持しつつ、経済関係を緊密化させるための実務的協力を進めていく。
モンゴルとの間では、2012年の外交関係樹立40周年に際して行われた頻繁なハイレベル対話を契機としつつ、両国共通の外交目標である「戦略的パートナーシップ」の構築に向け、経済関係を含む幅広い二国間関係、地域・国際場裏における協力など、互恵的・相互補完的な関係の強化に努めていく。
韓国は、日本にとって民主主義や市場経済などの基本的な価値と利益を共有する最も重要な隣国である。8月の李明博(イミョンバク)韓国大統領の島根県の竹島への上陸があったが、日本は、竹島問題を国際法にのっとり平和的に解決する考えである。日本は引き続き、現下の東アジア情勢も踏まえ、大局的観点から、未来志向で重層的な日韓関係を構築するために努力していく。
北朝鮮では、2011年12月の金正日(キムジョンイル)国防委員長の死去後、金正恩(キムジョンウン)国防委員会第一委員長を中心とした後継体制の構築が進められてきた。北朝鮮は、2012年4月と12月には、国連安全保障理事会(国連安保理)決議に違反してミサイル発射を強行し、2013年2月にも安保理決議に違反して核実験を実施するなど、北朝鮮の核・ミサイル開発は、依然として、地域のみならず国際社会全体にとっての脅威である。日本は、引き続き米国、韓国、中国、ロシアを始めとする関係国と連携し、北朝鮮に対し、六者会合共同声明や安保理決議に基づく非核化などに向けた具体的行動を求めていく。日朝関係については、11月に開催された日朝政府間協議において、拉致問題を含む双方が関心を有する諸懸案について幅広い議論が行われたが、12月のミサイル発射の予告を受けて、日本は、2回目の協議を延期することを北朝鮮に伝達した。日本は、拉致・核・ミサイルといった諸懸案の包括的な解決に向けて、引き続き関係国と緊密に連携しつつ取り組んでいく。
ASEAN諸国は、高い経済成長などを背景に、地域における存在感を高めており、日本もASEANの対話国(6)として、長い友好関係の歴史を背景に各国との関係強化に努めている。中でも、インドネシアは、ASEANで唯一のG20メンバーであり、ASEANの中核として地域の安定と繁栄のためにますます重要な役割を果たしている。日本にとっても資源の供給元・市場・投資先として重要であるほか、近年は、地域・国際社会の諸課題に共に取り組む「戦略的パートナー」として、二国間の枠組みを超えて連携している。
ミャンマーについては、テイン・セイン大統領を中心とした現政権下で民主化・国民和解・経済改革に向けた動きが進んでいる。ミャンマー自身の改革の努力を後押しすべく、①民生の向上、②人材育成・制度整備、③インフラ分野を中心とした支援を実施するとともに、2013年1月31日には延滞債務の解消措置を実施した。今後も、長年のミャンマーの友人として、改革努力の進捗を見守りつつ、少数民族支援も含め引き続き幅広い支援を行っていく。
また、オーストラリアとニュージーランドは、アジア・大洋州地域において日本と基本的価値を共有する重要なパートナーであり、地域や地球規模の課題にも協力して取り組んでいる。オーストラリアとの間では、深化を続ける貿易・投資を始めとする相互補完的な経済関係に加えて、国際社会の平和と安定のために共に取り組む戦略的パートナーとして、安全保障の面での関係が着実に深まってきている。また、ニュージーランドとの関係では、両国の外交関係樹立60周年を迎えて両国の絆(きずな)を再確認するとともに、オープンスカイ化(7)の推進や租税条約改正に合意が見られるなど、両国関係が更に進展した。
太平洋島嶼(しょ)国は、日本に友好的な国が多く国際社会での協力や水産資源・鉱物資源の供給の面で、日本にとって重要なパートナーである。2012年5月には、3年ぶりに第6回太平洋・島サミット(PALM6)が開催され、開催地・沖縄に集まった首脳は、防災など5つの分野を中心とした協力を確認する「沖縄キズナ宣言」を発表した。
南アジア地域は、約16億の巨大な域内人口を擁し、地政学的要衝に位置し、多くの国が高い経済成長を続け、国際場裏においてもますます重要な存在となっている。日本としては、伝統的に友好・協力関係にある域内国との経済関係を更に強化するとともに、国民和解や民主化の定着などの各国自身の取組への協力などを継続していく。2006年に「戦略的グローバル・パートナーシップ」を構築したインドとは、民主主義や法の支配などの価値を共有しており、安全保障、経済、人的交流など幅広い分野での更なる関係の強化に努めている。また、テロ対策の重要国であるパキスタンについては、地域、ひいては国際社会全体の平和と安定のために、同国自身の前向きな取組を促しつつ、協力を継続していく。
以上のような二国間の協力強化に加え、様々な多国間協力や地域協力の枠組みを活用することも重要である。中国や韓国との間では日中韓協力を推進しており、5月に中国が主催した第5回日中韓サミットでは、貿易・投資、環境・エネルギー、人的・文化交流、海洋協力など幅広い分野で三国間の協力関係を強化していくことで一致した。
また、日本は、統合の進むASEANが地域協力の中心となることが東アジア全体の安定と繁栄のために極めて重要であるとの考えの下、地域協力における日・ASEAN関係を重視している。2013年が日・ASEANが協力を開始して40周年であることから、2012年7月に開催された日・ASEAN外相会議では、本年日本において日・ASEAN特別首脳会議を開催することが合意された。また、同年11月に開催された日・ASEAN首脳会議では、同特別首脳会議において、日・ASEAN協力の強化に向けた中長期的なビジョンについて議論することで合意した。
2013年1月には、安倍総理大臣や岸田外務大臣が最初の外国訪問先としてASEAN諸国を訪問し、本年の日・ASEAN友好協力40周年を機に一層協力関係を強化すると確認した。また、安倍総理大臣は、訪問先のインドネシアにおいて、「対ASEAN外交5原則」を公表した。
2012年11月に開催された第7回EASには、地域の共通理念や基本的ルールを確認し、政治・安全保障分野を含めた具体的協力につなげていく首脳主導のフォーラムとして、EASを力強く発展させるとの方針で臨んだ。同会議では海洋、連結性、低炭素成長及び災害管理時の協力に加え、北朝鮮や南シナ海をめぐる問題を含む地域・国際情勢について議論した。著しく成長するメコン地域は、域内格差などの課題も抱えている。2012年4月の第4回日本・メコン地域諸国首脳会議では、「メコン連結性強化」、「共に発展する」、「人間の安全保障・環境の持続可能性確保」を柱とする新たな協力方針「東京戦略2012」を策定し、2013年度以降3年間で合計約6,000億円の政府開発援助(ODA)による支援実施を表明した。次いで同年7月の第5回・日メコン外相会議では、「『東京戦略2012』の実現のための日・メコン行動計画」を採択した。
東南アジア諸国の地域間格差是正の観点から、日本は、「ビンプ・東ASEAN成長地域(BIMP-EAGA)(8)」を支援している。
また、2008年からインドネシアが主催するバリ民主主義フォーラム(BDF)は、これまで閣僚級会合として毎年開催されていたが、2012年に初の首脳級会合が開催された。参加国も年々増加し、2012年は12人の首脳級出席者を含め80を超える国・地域の代表が出席するなど、地域の民主化を促進する重要な国際フォーラムとしての地位を固めつつある。日本は、民主化支援セミナーの開催支援などを通じてインドネシアの取組を積極的に支援している。
さらに、南アジア地域協力連合(SAARC)との間でも域内の連結性強化や人的交流を促進していく。
1 ASEAN(加盟国:インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジア)、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランド
2 世界銀行(WB)
3 IMF Direction of Trade Statistics May 2012
4 IMF Direction of Trade Statistics May 2012
5 ASEANと日本、中国、韓国による地域協力の枠組み。
6 ASEANは、広範な分野にわたって恒常的な協力関係を有する対話国との間で、地域情勢、重要な協力分野などについて意見交換を行っている。ASEAN対話国は、9か国(日本、米国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、韓国、インド、中国、ロシア)・1地域(EU)。
7 日・ニュージーランド間の二国間輸送の自由化に加え、以遠地点への輸送(相手国で旅客・貨物を載せ、第三国へ輸送)についても自由化を可能とする枠組みの構築等で合意。
8 ブルネイ(B)、インドネシア(I)、マレーシア(M)、フィリピン(P)が、開発の後れた島嶼部の発展のために進める取組。