1 情勢認識

(1)高まるアジア太平洋地域の重要性

アジア太平洋地域の安全保障環境は、厳しさを増している。アジア諸国の軍事費の増加傾向は顕著であり、また、各地において海洋をめぐる緊張が高まっている。東シナ海の尖閣諸島周辺海域においては、2012年9月の日本政府による尖閣三島の不動産の所有権の取得以降、中国公船による度重なる領海侵入や中国政府航空機による領空侵犯、中国海軍艦艇による火器管制レーダーの照射事案などの事案が発生している。

南シナ海においても、中国とASEAN諸国との間の緊張は続いている。紛争解決にも資する実効性のある行動規範(COC)の作成を始め、問題解決に向けた地域各国の一層の協力が求められている。

北朝鮮は金正恩(キムジョンウン)体制へ移行したが、依然として核・ミサイル開発を継続している。2012年には2度にわたって「人工衛星」と称するミサイル発射を強行し、2013年2月には3度目の核実験を実施するなど、朝鮮半島をめぐる情勢は一層緊張が高まっている。

そのような中、米国が引き続きアジア太平洋地域を重視する政策を推進した。これは、この地域の重要性の高まりを象徴するものであろう。米国政府が2012年1月に公表した新たな国防戦略指針の中でも、アジア太平洋地域重視の戦略が改めて明らかにされており、米軍の兵力(航空機、艦船等)の比重を太平洋地域に移すなど、具体的な取組を進めている。ロシアは、エネルギー戦略の観点からアジア太平洋地域を重視している。域内経済が低迷する欧州などにおいても、躍動するアジア太平洋地域への注目は、更に高まっている。

アジア太平洋地域は存在感を更に増している。世界の成長センターたるこの地域において、中間層1の拡大は、目覚ましいものがある。日本の国内市場が長期的に縮小傾向にある中、この地域の経済成長は日本経済の繁栄にとって極めて重要である。アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)など、地域経済の統合に向けた動きも進んでいる。2012年11月には、日中韓自由貿易協定(FTA)の交渉開始が宣言され、また、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉立上げも宣言されたが、これらは、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定とともに、FTAAPの実現に向けた地域的な取組である。

一方、経済発展に伴って、各国では社会問題も顕在化している。高い成長を誇る新興国でも環境汚染、汚職・腐敗、沿岸部と内陸部や都市と農村との経済格差拡大などの問題が深刻になってきている。

アジア太平洋地域の目覚ましい経済発展は、エネルギー消費の増大を必然的に伴う。国際エネルギー機関(IEA)のWorld Energy Outlook 2012(WEO2012)の予測によれば、世界のエネルギー需要は、2035年までに2010年比で3分の1以上増加することが見込まれる。その増加分のうち50%以上は中国とインドで占められるとされている。アジア太平洋地域におけるエネルギー消費の増大は、同地域はもちろんのこと、国際経済及び世界全体の情勢にも大きく影響する。

2012年は、エネルギー供給面でも新たな動きが注目された年であった。米国では、従来は採掘が困難であった非在来型石油・天然ガスの生産が技術革新により可能になり、その生産量は大幅に増加した(「シェール革命」)。IEAのWEO2012によると、2015年から2020年代後半において、米国の天然ガス生産量は天然ガス生産量世界第1位のロシアを上回り、2020年頃には、米国は天然ガスの純輸出国となる見込みである。

2012年は、日本と一部の国との人的交流の機会は減少したが、それでもアジア太平洋地域との人的交流の機会は総じて増加傾向にある。例えば、2007年の「21世紀東アジア青少年大交流計画(JENESYS)」開始以来、5年間で5万4,000人を超える青少年の交流が実施された。2013年1月には、JENESYSの後継として「JENESYS2.0」が発表され、新たに3万人規模の青少年交流事業を実施することとなった。また、看護師や介護福祉士の候補者の日本への受入れも促進されている。

日豪外相会談における岸田外務大臣(左)とカー・オーストラリア外相(2013年1月13日、オーストラリア・シドニー)
日豪外相会談における岸田外務大臣(左)とカー・オーストラリア外相(2013年1月13日、オーストラリア・シドニー)

(2)流動的な中東・アフリカ情勢

2011年始めに中東・北アフリカ諸国を席巻したいわゆる「アラブの春」と呼ばれる変革を受け、これら諸国では新たな体制の構築が模索される一方、依然一部では混乱も続いている。

特にシリアにおいては、2012年にアサド政権と反政府勢力との衝突が激化し、2011年1月以降2012年末までの死者は全土で6万人以上ともいわれる。2012年には、「シリア・フレンズ会合」が4度にわたって開催された。こういった会合を通じ、国際社会はシリア当局による暴力の停止を繰り返し要求していたが、事態は改善していない。また、シリア国内の人道危機は極めて深刻であり、シリア国外に流出する難民は、今後も増加すると予測されている。また、シリア人主導の政権移行を実現するための国際的な努力が続けられているが、前向きな展望は開けていない。

「アラブの春」後の混乱は、中東・北アフリカ地域におけるテロの脅威の拡散にもつながった。リビア情勢の混乱に乗じて大量の武器が地域に拡散したことから、国境管理が困難な砂漠を介してテロリストが活動範囲を拡大させているとされる。2012年4月、マリではイスラム過激派などが北部地域を実質的に支配する事態が発生し、2013年1月にはフランスが軍隊を派遣する事態にまで発展した。また、2013年1月にアルジェリアで発生したテロ事件は、日本から遠く離れた北アフリカ情勢が、日本や日本国民にとっても決して無関係ではないことを改めて認識させるものであった。

イランにおいては、2002年に秘密裏のウラン濃縮関連活動が判明して以来、度重なる国際社会の非難にもかかわらず、核計画が着実に推進されてきた。日本を含む国際社会は、「対話」と「圧力」のアプローチの下、イランの核問題の平和的・外交的解決に努めてきた。イランと欧州連合(EU)3+32、国際原子力機関(IAEA)との協議が行われてきたが、問題の解決に向けた実質的な進展が見られず、国際社会は「圧力」を強化してきた。特に、米国やEUは、イラン中央銀行、原油に対する制裁を実施した。

アフガニスタンで治安確保などの任務に当たっている国際治安支援部隊(ISAF)は、2014年末までにアフガニスタンから撤収する予定である。アフガニスタンが2015年以降の「変革の10年」において持続的開発・成長を達成することが、アフガニスタンの長期的な自立と繁栄達成のために不可欠である。国際社会はそのための取組を続けている。

イスラエル・パレスチナ間では、2010年9月以降和平交渉が中断している。2012年1月には双方の和平交渉担当者が直接協議の機会を持ったが、交渉再開には結びつかなかった。11月にはイスラエルとハマスの衝突が発生し、また、国連総会において、パレスチナに「非加盟オブザーバー国」に格上げする決議が賛成多数で採決された。日本を含め国際社会は双方に対して交渉再開を働きかけているが、事態打開の見通しは立っていない。

(3)グローバル化に伴う課題の深刻化と既存の国際社会の意思決定システムの限界

(ア)地球規模の課題の深刻化

グローバル化が叫ばれて久しい。国際的な自由貿易体制などにより私たちは大いにその恩恵を享受しているが、同時に、グローバル化に伴う課題も深刻化している。

国際テロ組織は、グローバル化の特性を最大限利用して国境を越えて活動している。グローバル化に伴い多くの日本人が海外渡航する現在、テロや犯罪の被害を受ける危険性も高まっている。2013年1月にアルジェリアで発生したテロは、何の罪もない日本人10人が犠牲となった痛ましい事件であったが、これは日本と世界の経済の一体化が進み、ヒトやモノの流れが国際化した時代ゆえの惨事であろう。テロは、いかなる理由であっても決して許されるものではない。テロ対策に国際社会が一体となって取り組むことが必要である。

グローバルな経済環境においては、各国の経済は緊密かつ複雑に結びついており、様々な影響を互いに及ぼし合っている。欧州債務危機は、2012年においても、欧州、ひいては世界が克服すべき重要課題であった。本質的な解決には、短期的な金融市場安定化への対応のみならず、財政規律や金融監督の強化なども含めた中長期的な構造的課題への対応が不可欠である。また、欧州経済危機を一因として中国やインドの実質国内総生産(GDP)成長率や成長率見通しが鈍化するなど、2012年は新興国経済の減速感も強まった。また、「財政の崖」を始めとする米国の財政問題についても国際社会の注目が集まった。

2012年には米国のハリケーン・サンディ、フィリピンの台風などにより多くの人々が自然災害の被害を被った。気候変動問題は、国境を越えて人間の安全保障を脅かす地球規模の課題である。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書(2007年)によると、温室効果ガスの排出量増大のため、世界の気温は2030年までに0.4℃、21世紀末までに1.8~4.0℃上昇し、21世紀末の平均海面水位上昇は18~59cmともいわれる。また、極端な高温、熱波、大雨などの頻度も引き続き増加することが予測されている。地球温暖化と異常気象の因果関係には諸説あるが、毎年2億人が被災するという自然災害が国境を越えた脅威であることに変わりはない。

近年、サイバー攻撃は急速に高度化・多様化している。2012年には政府関係機関のウェブサイトにサイバー攻撃によるものと思われる障害が発生し、また、いくつかの攻撃には国家の関与が指摘されている。容易に国境を越え、その発信元の特定が困難なサイバー攻撃は、一国での対処が極めて困難な課題である。

(イ)既存の国際社会の意思決定システムの限界

グローバル化に伴う課題が深刻化する中、既存の国際社会の意思決定システムの限界も見られる。

2012年に国内情勢が激化したシリアに対し、安保理は、有効な対応策を講ずることができなかった。対シリア制裁決議案は、ロシア及び中国の拒否権の行使により計3度否決され、安保理としての統一的意思決定には至らなかった。

また、世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンド交渉は、中国やインドなど新興国の台頭に伴って様々な勢力の間で利害が対立しており、膠着(こうちゃく)状態が続いている。さらに、気候変動分野においても、開発途上国(特に新興国)にも温室効果ガス削減義務を課すべきとする先進国と、先進国による資金・技術面での支援の必要性を主張する開発途上国との対立が続いている。一方、全ての国が参加する枠組みに2015年までに合意するという国連気候変動枠組条約第17回締約国会議(COP17)での決定を踏まえて、2012年12月8日に終了した第18回締約国会議(COP18)においては、新しい国際枠組みの構築に向けた段取りに合意するなど、一定の前進も見られた。こうした様々な対立構造を乗り越えることが、国際社会がその意思決定システムを活性化させるために重要となる。

EU加盟国の一部の国において、EU懐疑論が強まっている。2012年、ギリシャでは財政緊縮策に反対するデモが多発し、ギリシャ政府は、自国民と支援を行うEU側との板挟みとなり難しい舵(かじ)取りを求められた。また、英国では、ユーロ加盟国を発端とする債務危機の拡大を受け、EUからの権限奪回やEUとの関係を問う国民投票を求める世論が高まった。2014年から2020年までのEU予算に関する多年度財政枠組みについての議論は難航し、合意が翌年に持ち越されるなど、EU内での意思決定の難しさが露呈した。

さらに、宇宙、サイバーといった新しい分野における国際的意思決定システムが未発達であることも、今後の課題である。様々な技術が日進月歩の発展を続ける今日の国際社会において、脅威に対する意思決定にもスピードが求められる。しかし、各国の立場が異なり、さらに非政府組織(NGO)、民間企業、個人などが国際社会において果たす役割が大きくなる中、新たな意思決定システムを作り上げることには大きな困難が伴う。日本を含む国際社会は、こうした国際社会の変化を踏まえた新たな国際統治(ガバナンス)の在り方を常に模索していく必要があろう。

2 日本外交の展開

日本は、その国益を守り、増進するため、日米同盟の強化、近隣諸国との協力関係の重視、日本経済再生に資する経済外交の強化を3本柱とする外交を展開している。

(1)日米同盟強化

厳しさを増す安全保障環境の中で日本の安全保障を確保するため、日本外交の基軸たる日米同盟を一層強化する。1960年の現行日米安保条約締結以来、両国は、民主主義、人権の尊重、「法の支配」、そして、共通の利益を基礎とした強固な同盟関係を築いてきた。アジア太平洋地域の戦略環境が大きく変化する今日、日本のみならず、地域の平和と安定のためにも、日米同盟の重要性は一層高まっている。安倍総理は、2月に訪米し、オバマ大統領との間で会談を行い、日米同盟の更なる強化を内外に明確に示した。

オバマ政権のアジア太平洋地域重視の外交政策は日本にとって歓迎すべき動きである。日本は、米国と連携し、自身の防衛力を強化しつつ、日米安保体制の抑止力向上のため、幅広い分野で協力を進めていく。米軍再編については、現行の日米合意に従って作業を進め、抑止力を維持しつつ、沖縄の負担軽減に取り組む。

また、安全保障のみならず、経済・人的交流など多面的に日米関係の強化を進めていく。

(2)近隣諸国との協力関係の重視

日本の国益を守るためには、地域の平和と安定が不可欠である。日米同盟の強化に加え、責任ある国家として地域の平和と安定に貢献していく。

2012年は、アジア太平洋地域の多くの主要国、すなわち中国、韓国、ロシアなどで指導者の交代が起こった。これらを含む近隣諸国との協力関係を強化し、信頼関係を構築・強化することは、中長期的に、日本のみならずアジア太平洋地域の平和と安定の基礎となるものである。日本は、このような考えに立って、近隣諸国との関係強化に努めている。また、基本的価値や地域の安定と繁栄に対する責任を共有するインド、オーストラリアなどとの間でも、大局的・戦略的観点を持って協力関係を増進してゆく。

このような中、日本にとってのASEANの重要性はますます高まっている。2013年1月、安倍総理大臣及び岸田外務大臣は、就任後初の訪問先として、ASEAN諸国を訪問し、その際、安倍総理大臣はインドネシアで「対ASEAN外交5原則」を発表した。2013年は、日・ASEAN友好協力40周年であり、更なる関係強化を図っていく。また、ミャンマーの民主化に向けた動きを引き続き支援していく。

海洋国家であり、エネルギー資源輸入のほぼ全てを海上輸送に依存している日本にとって、国際法に基づく安定した海洋秩序の構築は、国益に直結する重要な課題である。2012年には海洋をめぐる諸問題が顕在化したが、日本は、国際法に基づく解決を一貫して主張している。

海洋秩序の問題に限らず、法は、国際的な紛争解決には不可欠であり、世界の平和と安定や繁栄のための「法の支配」の重要性を日本は訴え続けている。2012年9月の国連総会の際の一般討論演説や「法の支配」ハイレベル会合でもこうした立場を表明した。

日・インドネシア共同記者会見の場において、日本外交の新たな5原則(ASEAN 5原則)を発表する安倍総理大臣(左)(2013年1月18日、インドネシア・ジャカルタ 写真提供:内閣広報室)
日・インドネシア共同記者会見の場において、日本外交の新たな5原則(ASEAN 5原則)を発表する安倍総理大臣(左)(2013年1月18日、インドネシア・ジャカルタ 写真提供:内閣広報室)

(3)日本経済再生に資する経済外交の強化

世界経済のグローバル化が進行する中で日本の繁栄を確保するため、日本経済再生に資する経済外交を強化していく必要がある。

自由貿易の推進は、日本の経済外交の柱である。二国間・多国間で高いレベルの経済連携を戦略的に推進する。現在までに、ASEAN諸国を中心に、13か国・地域と日本との経済連携協定(EPA)が発効している。2012年には、二国間EPAの推進とともに、日中韓FTAの交渉開始及び東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉立上げが宣言され、日EU・EPAについても交渉開始に向けた環境が整うなど、多くの進展が見られている。TPP協定については、安倍総理大臣が交渉参加を表明したことを受け、可能な限り早期に交渉に参加した上で、強い交渉力をもって、国益を最大限に実現するよう全力を尽くす考えである。

WTO、経済協力開発機構(OECD)、アジア太平洋経済協力(APEC)、G8・G20などの国際的枠組みの中で、経済分野における国際的ルールの整備・実行に引き続き貢献するとともに、新興国を国際ルールに一層取り込んでいくことが課題である。

諸外国の経済的活力を取り入れて日本経済の再生に寄与するため、政府開発援助(ODA)も活用して日本企業の海外展開支援を強化する。その際、アルジェリアにおけるテロ事件の教訓に鑑み、海外の最前線で活躍する日本人や日本企業の安全に関する取組を強化していく。さらに、知的財産権保護のための取組を強化するとともに、投資協定、租税協定、社会保障協定など日本企業が現地で活発な活動を展開するための基盤整備を進めていく。

経済の存立基盤である資源・エネルギーのほぼ全てを輸入に依存する日本にとって、資源の安定的供給の確保は死活問題である。米国を震源とするいわゆる「シェール革命」の動向も見極めつつ、中東を始めとする主要な資源供給国との関係強化に努め、供給国の多角化を図る戦略的な資源・エネルギー外交を展開していく。

(4)地球規模の課題への取組

アルジェリアでのテロ事案では、国境を越えて世界の国々に影響を与える地球規模の課題は、すなわち日本の課題でもあることが改めて認識された。

まず、テロ対策の強化が求められる。日本は国内テロ対策の強化はもちろんのこと、国際社会のテロ対策の努力に積極的に参画し、二国間や多国間の情報交換などの緊密な協力を行っている。また、テロへの対処能力が必ずしも十分でない国に対しては、ODAも活用しつつ、対処能力向上を支援している。また、テロを生み、これを助長している背景に存在する諸問題にも対処するため、開発途上国支援、平和構築、イスラム世界との文明間対話の実施、中東和平への貢献などを行っていく。

日本は、唯一の戦争被爆国として、「核兵器のない世界」の実現に向け、国際社会の先頭に立つ責務がある。現実的な取組を着実に実施し、積極的な核軍縮外交を展開していく。また、国際的不拡散体制への重大な挑戦である北朝鮮・イランの核問題の平和的解決に向けた外交努力を推進する。「核兵器のない世界」を目指しオーストラリアと共に主導する軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)の取組を通じて、核兵器国と非核兵器国の橋渡しの役割を果たしていく。

また、原発事故を経験した国として、国際的な原子力安全の強化に貢献し、核不拡散・核セキュリティの強化にも貢献していく。

統一的国際ルールの整備が不十分である宇宙、サイバーなどの新たな外交課題については、これらの課題が日本にもたらし得る機会と脅威の双方を踏まえ、新しい国際的規範作りに積極的に貢献していく。既にサイバー攻撃は日本に対する現実の脅威として現れつつある。こうした分野における問題を平和的に解決し、日本の国益を守るためにも、国際的なルールを各国及び関係者と協調しつつ作り上げていくことが重要である。

また、北極についても環境、経済、安全保障など様々な観点から国際的議論が高まっており、日本も海洋国家として積極的に議論に関与していく必要がある。

日本は、国際社会の平和と安定における責任を果たすためにも、国連平和維持活動(国連PKO)などへの協力や平和構築に携わる人材育成などに積極的に取り組んでいる。現在は、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に、日本の自衛隊の部隊が派遣されており、南スーダンの安定と国造りに貢献している。また、2012年末に、ハイチにおける自衛隊施設部隊が撤収したが、引き続きハイチの経済社会開発及び同国民の福祉に寄与するため、「防衛装備品等の海外移転に関する基準」についての内閣官房長官談話(2011年12月)に基づき、国連PKO活動に使用された自衛隊の機材等をハイチ政府に贈与した。

2012年度の外務省ODA予算は、2011年度に引き続き、対前年度比で増額となった。ODAは、日本の最も重要な外交手段の一つであり、ODAの戦略的な活用によって、安定した国際環境の醸成、日本と開発途上国双方の経済成長への貢献を進める。

2015年は、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成期限であると同時に、気候変動に関する2020年以降の新たな枠組みに関する合意の期限でもあり、地球規模課題についての節目の年である。

日本は、2015年までMDGs達成に向けた努力を継続するとともに、2015年より先の国際開発目標(ポストMDGs)の策定を主導し、日本の国際的存在感の向上と国際社会への貢献に努める。特に、人間の安全保障の指導理念としての重要性についても引き続き訴えていく。

2013年6月1日から3日には横浜で第5回アフリカ開発会議(TICADⅤ)が開催予定である。また、アフリカは、貧困・紛争などの課題を抱えると同時に、増加する人口と大いなる経済成長の可能性を秘めた地域である。TICADは、アフリカ開発をテーマとする日本主導の政策フォーラムで、1990年代前半、冷戦終結に伴い、国際社会のアフリカへの関心が低下する中、アフリカ問題の重要性を国際社会に改めて喚起する役割を果たした。日・アフリカ関係の深化やアフリカが直面する諸課題の解決は、日本外交の最優先課題の一つである。TICADⅤの機会も通じ、対アフリカ支援を更に発展・強化していく。

1 「中間層」とは、世帯年間可処分所得が5,000米ドル以上3万5,000米ドル未満の層を指す。

2 イランの核問題に関するEU3か国(英国、フランス、ドイツ)と、米国、中国、ロシア3か国を合わせた6か国による対話の枠組み。

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