国際協力活動に携わる日本のNGOは400以上あるといわれている。その多くは、貧困や自然災害、地域紛争など様々な課題を抱える開発途上国において、現地の草の根レベルでのニーズを把握し、柔軟できめの細かい支援を実施しており、その重要性はますます高まっている。
外務省は、日本のNGOが開発途上国で実施する開発援助事業に対して「日本NGO連携無償資金協力」を提供するなどによりNGOと連携し、NGOを通じた国際協力政府開発援助(ODA)の供与も実施している。2011年(12月末現在)には、日本の43のNGOが、アジア、アフリカ、中東など、31か国1地域において日本NGO連携無償資金を利用し、保健・医療・衛生(母子保健、結核・HIV/AIDS対策、水衛生等)、農村開発(環境整備・技術向上等)、障害者支援(職業訓練・就労支援、子ども用車椅子供与)、教育(学校建設等)といった幅広い分野にわたり、78件の事業を実施した。
また、政府、NGO、経済界などが協力・連携し、大規模自然災害や地域紛争の際により効果的かつ迅速に緊急人道支援活動を行うことを目的に設立された「ジャパン・プラットフォーム(JPF)」には、2011年12月末現在、35のNGOが参加しており、2011年は、3月に発生した東日本大震災、8月に発生した「アフリカの角」地域の干ばつ、11月に発生した東南アジア水害やトルコ東部地震において被災者を支援したほか、アフガニスタン、パキスタン、スリランカ北部、ハイチ、南スーダン共和国(旧スーダン共和国南部。2011年7月9日独立)における人道支援を実施している。
一方、日本のNGOは、前述のような政府資金を利用した活動のみならず、支援者による寄附金や、独自の事業収入などを活用した活動も数多く実施している。また、近年では、企業の社会的責任(CSR)への関心が高まりつつあり、技術や資金を持つ企業が、国際協力における高い知見を持つNGOと協力し、開発途上国で社会貢献事業を実施する形の連携も数多く見られるようになっている。
このように、開発援助の分野において重要な活動をしているNGOを国際協力のパートナーとして位置付け、NGOが活動基盤を強化して更に活躍していけるよう、外務省・JICAなどは、NGOの組織力強化・専門性向上・人材育成などを目指したセミナーを開催するなど、様々な施策を通じてNGOの活動を側面から支援している。
また、外務省は、NGOの事業実施能力と専門性の向上を目的に、外務省が主催するNGO研究会によるセミナーやシンポジウムに加え、NGOの組織力強化を目的に、NGOの中堅職員が海外のNGOや国際機関で実務研修を行う「NGO長期スタディ・プログラム」を実施し、さらに2010年には、NGOにおける若手人材の育成を支援する「NGOインターン・プログラム」を創設した。また、外務省は、国際協力分野で経験と実績を持つ日本のNGO団体にNGOの国際協力活動全般や組織づくりなどに関する一般市民やNGO関係者からの質問・照会に対応する業務を「NGO相談員」として委嘱し、同相談員を全国17団体に配置している。
さらに、外務省は、NGOとの対話・連携を促進するため、1996年から「NGO・外務省定期協議会」を実施している。年1回の全体会議に加え、2002年からは小委員会としてODA政策全般について協議するODA政策協議会、NGO支援や連携策について協議する連携推進委員会を、それぞれ年3回ずつ開催している。
外務省は、開発援助分野以外の外交課題においても、NGOと連携している。例えば、2月下旬から3月上旬に開催された第55回国連婦人の地位委員会(CSW)において、NGO関係者が政府代表団の一員となり、積極的に議論に参加した。また、第66回国連総会では、女性NGOの代表が政府代表顧問として、人権・社会分野を扱う第3委員会に参加し、発言した。さらに、人権に関する諸条約に基づいて提出する政府報告や第三国定住難民事業などについても、日本政府はNGO関係者などとの対話を行っている。
核兵器を含む軍縮分野でも、日本のNGOは存在感を発揮しており、外務省とも連携している。具体例として、通常兵器の分野では、2010年3月の「『クラスター弾に関する条約』促進・普遍化の集い」や、9月の武器貿易条約(ATT)に関するシンポジウムの開催が挙げられる。また、外務省はアフガニスタン、カンボジア、アンゴラ、ラオスなどにおける地雷・不発弾の処理、危険回避教育などの支援活動でNGOと協力している。さらに、核軍縮の分野において、2010年9月から開始した外務省による「非核特使」の委嘱事業は、被爆者が世界各地で核兵器使用の惨禍の実情を伝えるNGOの活動を、政府が後押しするものであり、2012年1月現在、延べ61名が本制度により世界各地へ派遣されている。
国際組織犯罪分野では、内閣に設置された「人身取引対策に関する関係省庁連絡会議」に、NGOとの協議の場を設け、官民が連携した被害防止策及び被害者支援の在り方などについて率直な意見交換を行うことで、人身取引対策に日頃から従事しているNGOを通じて、現場の声が人身取引対策の推進体制の強化に反映されるよう努めている。
国連改革の分野では、外務省は、「国連改革に関するパブリックフォーラム」を2011年2月に「国連改革を考えるNGO連絡会」と共催した。同フォーラムでは、「グローバルな国連・教育プログラムの課題と可能性」と題し、「国連持続可能な開発のための10年」(1)に触れつつ、人権教育や軍縮教育に焦点を当て議論を行った。
青年海外協力隊(JOCV)は、技術を有する20~39歳の青年男女が、開発途上国の地域住民と生活を共にしつつ、その地域の経済及び社会の発展に協力・支援することを目的とする事業である。1965年の事業発足以来、派遣された協力隊員は、まさしく日本の「顔の見える」協力を行い、開発途上国の発展に貢献してきた。2011年12月末までに累計で88か国に3万6,636人の隊員が派遣され、農林水産、加工、機械の保守操作、土木建築、保健衛生、教育文化、スポーツ、計画・行政の8分野184職種にわたる支援を積極的に展開している。
また、シニア海外ボランティア(SV)は、幅広い技術と豊かな経験を有する40~69歳の中高年層の男女を開発途上国に派遣する事業である。1990年の事業発足以来、年々事業規模を拡大しており、2011年12月末までに67か国に4,758人を派遣し、計画・行政、公共・公益事業、農林水産、鉱工業、エネルギー、商業・観光、人的資源、保健・医療、社会福祉、その他(渉外促進、有資格登録)の9分野163職種にわたる協力を行ってきた。近年は一線を退いたシニア層の再出発やその知見の再活用という観点からも、豊富な経験と熟練した技術をいかすことができるシニア海外ボランティアに対する関心が高まっている。
JOCV及びSVは、開発途上国でボランティア活動に従事したいという国民の高い志に支えられており、国民参加型国際協力の中核を担う事業として、積極的に推進している。2011年12月末現在、2,549人の青年海外協力隊と560人のシニア海外ボランティアが、世界各地(それぞれ74か国、56か国)で活躍を続けている。また、帰国したボランティア参加者は、その経験を教育や地域活動の現場で共有するなど、社会への還元を進めており、日本独自の国民参加型による活動は、受入国を始め、国内外から高い評価と期待を得ている。
青年海外協力隊事業が開始から約半世紀を経たこと、事業仕分けの対象となったことも踏まえ、外務省は2011年3月から4月にかけ国民から幅広く意見も募集した上で、ボランティア事業の意義を見直し、2011年7月、「草の根外交官:共生と絆のために ~我が国の海外ボランティア事業~」と題する政策ペーパーを発表した。この中で、帰国後の社会での活躍を支援する取組の強化、企業やNGO等との連携強化、活動状況の見える化等の施策が打ち出され、その実現に向けた取組を実施している。
1 2002年、国連総会決議が設定した2005年から2014年の10年間。ユネスコが、「持続可能な開発」についての教育・啓発活動に関する「教育の10年」の国際実施計画を策定することを決定し、各国政府がこの計画を考慮して「教育の10年を実施するための措置をそれぞれの教育戦略及び行動計画に盛り込むことを検討することを呼びかけた。日本のNGOの提言を受け、日本が提唱したもの。