2011年は、3月の東日本大震災に際して国際社会から寄せられた温かい支援を通して、改めて日本と世界との絆を認識する年となった。世界が示した連帯に応えるためにも、日本に必要な平和で安定した世界をつくるためにも、ODA(政府開発援助)に関する国際公約の誠実な実施を始め、日本はこれまでにも増して国際社会の平和と安定に積極的に貢献していく必要がある。日本は、2015年に期限が迫るミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向けた取組、MDGsの取組が遅れるアフリカ地域、国際社会の平和と安定にとって極めて重要なアフガニスタン及びパキスタンに対する支援を含め、これまでに表明した国際公約を着実に実施している。
また、日本と緊密な関係にあるアジア諸国に対しては、運輸網等のインフラ整備を中心とした支援を実施したほか、タイ及び周辺国の洪水被害に際しては、国際緊急援助隊の派遣等の緊急支援や、洪水対策マスタープランの策定等の防災・復興対策支援を行っている。中東・北アフリカ地域に広がったいわゆる「アラブの春」については、安定的な体制移行等に向けた域内各国の改革努力を支援するための取組を積極的に行っている。
ODAは、東日本大震災で国際社会が示した連帯に応える重要な手段である一方で、日本が国際社会と協力し、震災からいち早く立ち直るために、「開かれた復興」を進める際の重要な手段でもある。具体的には、被災地の復興や日本経済への貢献のためにも、引き続きODAを活用していく。例えば、被災地産品を、それを必要としている開発途上国にODAを通じて供与し、被災地産業の振興や風評被害対策につなげている。また、JICA(国際協力機構)海外投融資の再開、中小企業支援を含む官民連携の推進、円借款の対象国・分野拡大等を通して、日本企業のインフラ海外展開を後押しし、開発途上国のみならず日本の経済成長にも資するODAの実施に努めている。
このような国際協力を積極的かつ着実に実施していくためには、国民の幅広い理解と支持が不可欠である。そのためには、中小企業を含む日本企業、NGO、地方自治体等の多様な主体にODAの担い手となってもらうことで、ODAの意義に対する理解を深めてもらうとともに、上記主体が有する技術や知見を総動員していくことが重要である。同時に援助の効率性・透明性向上に取り組むことも重要であり、援助国ごとに「国別援助方針」を策定し、専門家との意見交換の場として「開発協力適正会議」を新設した。さらに、原則として全てのODA案件の現状・成果等を体系的に公表するため、外務省及びJICAのホームページ上に「ODA見える化サイト」を立ち上げた。
また、近年では開発分野において新興国が急速に存在感を増しており、また、民間部門が開発途上国の経済成長に果たす役割が再認識されている。こうした国際社会の援助構造の変化を踏まえ、日本を含む従来の援助国も、多様な援助関係者と協調して効果的に援助を行っていく必要がある。新興国をメンバーに含むG20においては、開発が主要議題の一つとして議論され、初めて開発に関する閣僚級会合が開催された。また、11月に開催された「第4回援助効果向上に関するハイレベル・フォーラム」には、約160の国、国際機関、NGO等の民間部門等が参加し、援助の透明性や成果の重要性、多様な援助関係者を含む協力の枠組みの構築等をうたった成果文書に合意した。日本は、同会議開催に協力するとともに、主要な援助国として成果文書の策定に積極的に参加した。
また、日本は地球規模の課題にも積極的に取り組んでいる。グローバル化が急速に進展する中、国内紛争の国際化、テロ、感染症の広まり、人の移動の拡大に伴う人身取引や難民問題、経済危機、貧困問題の拡大、環境・気候変動問題、災害など、人々の生存・生活・尊厳(人間の安全保障)に対する脅威も多様化、深刻化している。このような諸課題に対応するためには、MDGsの達成、持続可能な開発の実現といった共通の目標に向け、国際社会の協力を強化することが必要である。日本は、MDGs達成を人間の安全保障の実現に不可欠なものとして重視し、積極的な貢献を続け、国際社会の取組を主導している。また、2015年以降も国際社会が一丸となって取り組むべき共通の目標を設定すべきとの考えから、MDGsが達成期限を迎える2015年以降の国際開発目標(ポストMDGs)に関する議論についても、主導的役割を果たしている。さらに日本は、世界の持続可能な開発の実現のために経済成長と環境保全を両立させるグリーン経済への移行を重要課題と位置付けており、国連持続可能な開発会議(リオ+20)などの議論に積極的に貢献している。
地球環境問題については、2010年、名古屋市において開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で、名古屋議定書や愛知目標の採択などの成果を得ることができた。
気候変動問題については、東日本大震災という厳しい国難にあっても日本の取り組む姿勢に変わりはないことを国際社会に表明し、積極的な取組を続けている。COP17では、交渉が難航する中、日本は議論に積極的に貢献し、日本の提案が反映される形で将来枠組みの構築に向けて前進を得るなど、大きな成果を得ることができた。また、COP17に際し、日本は、地球温暖化に効果的に取り組むため、「世界低炭素成長ビジョン」を発表し、その具体的な取組として「アフリカ・グリーン成長戦略」、「東アジア低炭素成長パートナーシップ構想」等の地域協力を推進している。このような取組を通じ、世界の低炭素成長の実現に向け、積極的に貢献していく。
近年、環境問題、航路開通、資源開発などに関わる国際的議論の高まりが見られる北極については、日本としても議論に適切に参画していく必要があるとの考えから、北極評議会へのオブザーバー資格申請を行うなど、北極をめぐる議論への関与を強めている。さらに、外務省内に、北極に関する日本の外交政策を分野横断的に検討し、適切な北極政策を推進するための「北極タスクフォース」を立ち上げ、関連情報の共有や意見交換を重ねているほか、北極に関する諸問題について研究会を開催している。
南極については、1959年に採択された「南極条約」がその対象を南緯60度以南の地域と定め、①南極の平和利用、②科学的調査の自由と国際協力、③領土主権・請求権の凍結などを基本原則としている。日本は、これらの基本原則にのっとり、南極における自由な研究や観測活動を推進するとともに、南極条約の下で1991年に採択された「環境保護に関する南極条約議定書」に従い、南極の環境保護に努め、南極条約体制の維持に貢献している。
世界最高水準の日本の科学技術・宇宙技術に対する国際社会の関心と期待は高い。2011年8月に閣議決定された「第4期科学技術基本計画」においては、科学技術外交の新たな展開の必要性がうたわれている。日本は、日本と世界の科学技術を発展させるため、また、持続可能な成長の実現や、地球規模の課題を解決していくに当たり、二国間科学技術協力合同委員会を通じた科学技術協力、科学者・専門家の派遣、核融合分野などの多国間協力に積極的に取り組んでいる。また、宇宙分野では、米国との各種協力を進展させるとともに、宇宙ごみの急増を受けた宇宙環境の保全のための国際的な規範作りに積極的に参画している。