4 イラク

(1)イラク情勢

首都バグダッドを含むイラク全土で8月に発生した警察及び治安関係者を標的とした大規模爆破テロ事案など、イラクでは依然としてテロ事件が散発している。しかし、全般的には2007年夏以降、治安は改善傾向にあり、イラク人、米軍の死者数は共に2003年の対イラク武力行使以降最低レベルとなっている。2010年1月に発効した駐留に関する協定に基づき、米軍戦闘部隊は、6月30日に都市部から撤収し、イラク18県全ての治安権限がイラク側に移譲された。8月19日、駐留米軍戦闘部隊はイラクからの撤収を完了し、残留する5万人の非戦闘部隊は主にイラク治安部隊の訓練や指導に当たっている。オバマ米国大統領は、2011年末までに全ての部隊を撤収することとしている。

政治面においては、2010年3月7日には、2006年5月のマーリキー政権発足後初の国民議会選挙が実施された。6月14日に国会が開催されたが、すぐに休会となり、主要政治勢力の間で新政権の主要ポストの配分についての協議が行われることとなった。11月11日に国会が再開され、マーリキー首相が首班指名を受け、タラバーニー大統領及びヌジャイフィー国会議長がそれぞれ選出された。12月21日にはマーリキー首相が国会に提出した閣僚名簿が承認され、新政権が発足することとなった。このように、治安・国内情勢の安定が進む一方、北部のキルクークなどの係争地の帰属問題に示されているような、アラブとクルドの間の政治的緊張の継続、石油収入の配分を決定する石油・ガス法案などの重要法案が未成立であるなど、取り組むべき課題は依然として多い。

なお、エジプト・チュニジアの情勢を受け、2011年2月中旬以降、公共サービスの改修、汚職の撲滅などを求めるデモが各地で発生した。

(2)日本の取組

イラクの安定は、中東地域ひいては国際社会全体の安定に不可欠であることから、日本は国際社会の責任ある一員としてふさわしい支援を行うため、政府開発援助(ODA)などを通じた幅広い取組を行ってきた。イラクの安定化と発展に伴い、イラクに対する日本の協力は、無償資金協力から円借款事業によるインフラ整備、技術協力及び経済・ビジネス関係の強化に移行しつつある。

ア ODAによる支援

日本は、2003年10月、イラク復興支援のための「当面の支援」として、15億米ドルの無償資金援助及び経済社会インフラ整備など中期的な復興ニーズに対する円借款を中心とする最大35億米ドルの支援からなる、最大50億米ドルのイラク復興支援を表明した。無償資金協力については、表明額(15億米ドル)を超える約16.7億米ドルの支援を供与済みであり、円借款については、運輸、エネルギー、産業プラント及び灌漑(かんがい)などの分野の15案件(総額約32.8億米ドル)に関する交換公文(E/N)を締結している。この他、約67億米ドルの債務救済支援を実施している。さらに、2010年末までに4,200人以上のイラク人に研修を実施した他、イラクの異なる宗派や政党間の融和を目的とした「イラク国民融和セミナー」を日本国内で3回(2007年3月、2008年3月、2009年3月)実施した。

イ 経済・ビジネス関係の強化

日本とイラクとの経済・ビジネス関係の強化を目的として、イラク側からは、1月にシビービ・イラク中央銀行総裁、6月にウズリ・イラク貿易銀行総裁がそれぞれ来日した。

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