2010年は、近年経済成長が著しく、国際社会での影響力を強めているブラジル、メキシコなどの新興国を含む中南米諸国が、気候変動、安保理改革などの国際的な課題に関する議論の中で、一層その存在感を増した年となった。
メキシコでは、ラテンアメリカ・カリブ諸国首脳会合が2月に開催され、中南米域内の対話が促進された他、11月末には国連気候変動枠組条約第16回締約国会議(COP16)が開催され、国際的な注目を浴びた。ブラジルでは、10月に大統領選挙が実施され、高い支持率を維持したルーラ大統領の支援を受けたルセーフ元大統領府文官長が選出され、ブラジル史上初の女性大統領として2011年1月に就任した。
また、チリ、ウルグアイ(3月)、コスタリカ(5月)、コロンビア(8月)においても新政権が誕生した。いずれの国においても、民主的に政権が移譲され、新政権の下で安定的な政権運営が行われており、中南米地域における民主主義の定着を示すものとなった。
一方、2010年は、ハイチやチリで大地震が発生するなど、中南米が自然災害の大きな被害を受けた1年でもあった。ハイチで1月に発生した地震では、30万人以上が死亡した。地震の爪痕が今も残る同国で、今後の復興を担う新大統領を選出する大統領選挙が11月に実施された。選挙プロセスにおいては、開票結果に異議を申し立てるデモが発生するなどの混乱も見られた。2011年3月に決選投票が予定されていることから、今後の動向が注目される。
2010年の中南米経済は、米国のサブプライムローン問題を契機とした経済・金融危機からの回復基調にあった前年の流れを受け、より一層力強い経済成長を達成した。地域全体として、過去の経済危機の経験や近年続いてきた経済成長などによって、比較的潤沢な外貨準備、健全な経常収支などを維持していることに加え、①今後大型のインフラ投資が見込まれること、②内需をけん引する中間層が拡大していること、③天然資源の価格が引き続き高値で推移していることなどから、今後も更なる回復と成長が期待される。特に、ブラジルは高速鉄道などの大型インフラ整備を進めており、また、2014年のサッカーFIFAワールドカップ(W杯)、そして2016年のリオデジャネイロ夏季オリンピック開催による好景気が見込まれる中で、内需主導型経済構造を生かした今後の高度成長が期待されている。
中南米は、世界でも有数の食料供給地域であるだけでなく、銀、銅、亜鉛、鉄鉱石、石油などの鉱物資源や、電気自動車などの電池用として今後大幅な需要増が見込まれるリチウムを始めとする希少金属(レアメタル)の主要産地でもある。一次産品価格の変動の影響や、一部の国における資源の国家管理強化の動きはあるものの、中長期的には、経済発展の潜在力は高い。