5 大洋州

(1)オーストラリア

日本とオーストラリアは、共に米国の同盟国であり、基本的価値と戦略的利益を共有するアジア太平洋地域における戦略的パートナーである。近年、日豪間では貿易・投資関係のみならず、安全保障協力も急速に進展している。

2010年は、相互への訪問や国際会議に際しての会談を通じ、両国の首脳及び閣僚レベルで活発に交流が行われ、両国の関係が更に強化された。

ア 安全保障協力

(ア)二国間安全保障協力

日本とオーストラリアの安全保障協力は、2010年も法的基盤の整備を中心に着実に進展した。具体的には、5月に東京において、岡田外務大臣、北澤防衛大臣、スミス外相、フォークナー国防相が出席して、第3回日豪外務・防衛閣僚協議(2+2)を実施し、日豪物品役務相互提供協定(ACSA)を署名するに至った。日豪秘密情報保護協定についても交渉が進展し、2010年はオーストラリア、日本の双方で交渉が行われた。

核軍縮・不拡散分野においても極めて緊密な協力が行われた。2月に岡田外務大臣がオーストラリアを訪問した際、スミス外相と外相会談を行い、「核兵器のない世界に向けて」と題する共同ステートメントを発表した他、3月には5月のNPT運用検討会議に向けて日豪両政府共同で核軍縮・不拡散に関する作業文書を提出した。9月の国連総会において、前原外務大臣は、ラッド外相と核軍縮・不拡散に関する外相会合を共催した。また、11月に訪豪した際には、同分野で主導的な役割を果たしている日豪両国の協力関係を再確認し、更に深めていく目的で「核軍縮及び不拡散に関する共同ステートメント」を発表した。

(イ)日米豪戦略対話

日米豪戦略対話は、2000年に高級事務レベルで始まり、2002年から閣僚級会合が開始された。戦略的利益と基本的価値を共有する日米豪3か国が、地域の諸課題について率直な意見交換を行うとともに、具体的な安全保障協力を推進している。

また、2010年7月に東京において開催された高級事務レベル協議(次官級)においては、対テロや不拡散などの作業部会で、3か国が共通して取り組んでいる地域的及び国際的な課題が取上げられるとともに、引き続きこれらの協議を行っていく重要性が再確認された。

日豪外相会談における前原外務大臣(左)とラッド・オーストラリア外相(11月23日、オーストラリア・キャンベラ)
日豪外相会談における前原外務大臣(左)とラッド・オーストラリア外相(11月23日、オーストラリア・キャンベラ)

イ 経済関係

日本とオーストラリアの経済関係は、日本から工業品を輸出し、オーストラリアから資源、農産物などを輸入するという相互補完的なものである。こうした関係を一層強化するために、2007年から日本はオーストラリアとEPA交渉を開始し、2011年2月までに12回の交渉を行った。前原外務大臣は、11月に訪豪した際、エマーソン貿易相と日豪EPA交渉の前進を図っていくことで一致した。

資源・インフラ分野に関しても日豪経済関係は緊密化している。前原外務大臣の訪豪時、ラッド外相は、オーストラリアがレアアースを日本に対して長期的かつ安定的に供給する準備がある旨表明した。前原外務大臣からは、資源・インフラ分野における日豪間の政治レベルでの対話を強化していきたい旨を表明した。これを受けて12月に伴野外務副大臣がシドニー、メルボルン、パースを訪問した際、資源・インフラ分野の対話を行った。

日本の海外工場を視察する伴野外務副大臣(中央)(12月5日、オーストラリア・メルボルン)
日本の海外工場を視察する伴野外務副大臣(中央)(12月5日、オーストラリア・メルボルン)

ウ 捕鯨問題

捕鯨問題は、良好な二国間関係において、両国の立場が大きく異なる唯一の問題である。国際捕鯨委員会(IWC)において外交的な解決を図るために関係国が真摯に交渉を行っている中で、オーストラリア政府は2010年5月、南極海における日本の調査捕鯨について国際司法裁判所(ICJ)に提訴した。

(2)ニュージーランド

日本とニュージーランドは、互いにアジア太平洋地域の先進民主主義国の一員として基本的価値を共有しており、良好な二国間関係を維持している。

2010年は、国際会議やニュージーランドの閣僚の訪日の機会に、首脳級及び閣僚級の会談が行われ、両国は、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉、安保理改革、気候変動など多岐にわたる問題について、意見交換を行った。

2011年2月、クライストチャーチ市近郊で発生した地震では、日本人を含む死者・行方不明者は200名以上となった。地震発生後、日本は迅速に国際緊急援助隊を派遣するとともに、ニュージーランド赤十字社に対して50万米ドルの緊急無償資金協力を行い、日本人を始め被災者の救助やニュージーランドへの協力を実施した。

(3)太平洋島嶼(しょ)国

太平洋島嶼国には親日的な国が多く、国際社会での協力や水産資源の供給の面で、日本にとって重要なパートナーである。2010年は、初の試みとなる太平洋・島サミット中間閣僚会合の開催や、前年に引き続いての様々な要人往来を通じ、日本と太平洋島嶼国の関係が一層強化された。

ア 太平洋・島サミット中間閣僚会合

太平洋・島サミットは、日本と太平洋島嶼国との関係を強化し、同地域の発展に日本が共に取り組むために、1997年以降3年ごとに開催されてきた。前回の第5回太平洋・島サミットは、2009年5月、北海道占冠(しむかっぷ)村トマムにて開催された。

同サミットで発表された「北海道アイランダーズ宣言」においては、第6回太平洋・島サミットまでの中間の年に当たる2010年に、第5回太平洋・島サミットの成果の実施状況をフォローアップするとともに、第6回太平洋・島サミットに向けた準備プロセスを開始するため、ハイレベルでの中間閣僚会合を開催することが明記された。これを受けて日本は、2010年10月16日、東京において太平洋・島サミット中間閣僚会合を開催した。

中間閣僚会合は、前原外務大臣が議長を務め、太平洋諸島フォーラム(PIF)35からナタペイ・バヌアツ首相(PIF議長)及び16か国・地域の副首相・外相などの閣僚級の参加を得て開催された。

同会合では、前原外務大臣から、第5回サミットで表明した3年間で500億円規模の支援のうち、これまでに約323億円の支援を実施した旨を報告した。これに対し、出席者からは、日本の着実な支援に対する謝意が表明された。

また、前原外務大臣から、次回サミットを2012年5月25日及び26日に沖縄県名護市で開催する旨を発表し、同サミットに向けた優先課題として、①更なる関係強化に向けた日本の政治レベルによる訪問強化、②最も援助効果の高い分野に焦点を当てた継続的な支援の実施、③中長期的な関係強化に向けた太平洋島嶼国の若手招へい事業の充実、④気候変動分野での更なる協力などを表明した。

本会合以外にも、参加者全員による総理大臣との会談、前原外務大臣によるバヌアツ、フィジー代表との二国間会談、伴野外務副大臣による夕食会、菊田外務大臣政務官による9つの二国間会談及び5か国・地域との昼食会を通して、太平洋島嶼国・地域のハイレベルと幅広い意見交換を行い、二国間関係の強化が図られた。

太平洋・島サミット中間閣僚会合(10月16日、東京)
太平洋・島サミット中間閣僚会合(10月16日、東京)

イ 二国間関係

2010年は、太平洋島嶼国・地域との関係ではハイレベル訪問が活発に行われた。3月には実務訪問賓客としてソマレ・パプアニューギニア首相が来日し、日・パプアニューギニア首脳会談を行い、両国間で投資協定の交渉を開始することで一致した。2011年2月には、菊田外務大臣政務官がパプアニューギニアを訪問し、ポリエ外相との間で投資協定の実質合意を発表した(同外務大臣政務官はソロモンも訪問)。2010年4月には、西村外務大臣政務官がサモア、フィジー及びソロモンを訪問し、トゥイアトゥア・サモア元首やクンブアンボラ・フィジー外相、フォノ・ソロモン副首相など各国政府要人との間で、二国間関係の強化や気候変動問題について意見交換を行った。また、11月にはモリ・ミクロネシア大統領が訪日し、日・ミクロネシア首脳会談において太平洋・島サミットや国連安保理改革について意見交換が行われた。

ウ 日・太平洋諸島フォーラム(PIF)関係

2010年8月、バヌアツ共和国の首都ポートビラにおいて、PIF総会の直後に開催された第21回PIF域外国対話36には、日本から西村外務大臣政務官が参加し、太平洋島嶼国・地域が抱える諸問題について協議が行われた。また、西村外務大臣政務官は、PIF議長であるナタペイ・バヌアツ首相を始めとする太平洋島嶼国の代表、キャンベル米国国務次官補、崔天凱(さいてんがい)中国外交部副部長などとの間で二国間会談を行い、太平洋島嶼地域情勢に関する意見交換を行った。

エ フィジー情勢

日本は、非民主的な政権が続き、PIFや英連邦から参加資格を停止されているフィジーとの継続的な対話を重視し、これまで種々の機会を捉え、民政復帰を促している。2010年10月に開催された太平洋・島サミット中間閣僚会合においても他の島嶼国と同様、フィジーから閣僚レベルを招待した他、日・フィジー外相会談を行い、粘り強い対話を通じ民政復帰を働きかけた。これに対し、フィジー側からは、2014年までに総選挙を実施するとの表明があった。

35 PIF加盟国・地域:オーストラリア、ニュージーランド、フィジー、キリバス、マーシャル、ミクロネシア、ナウル、パラオ、パプアニューギニア、サモア、ソロモン、トンガ、ツバル、バヌアツ、クック諸島、ニウエの14か国2地域。

36 PIF域外国対話:PIFの前身の南太平洋フォーラム(SPF)(2000年10月から太平洋諸島フォーラム(PIF)に名称を変更)が、1989年以来援助国を中心とする域外国との間で毎年実施しているものであり、日本は第1 回対話から継続してハイレベル代表団を派遣している。

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