国連外交

令和8年9月22日

1 総論

 議長、御列席の皆様、

 国際秩序に、大きな揺らぎが生じています。私達がこれまで培ってきた法の支配に基づく自由で開かれた秩序が、幾多の方向から厳しい挑戦を受けています。パワー・バランスが変化し、地政学的競争が激化する中、世界各地では、日々、無辜の市民が命を失っています。

 「冷戦後の安定した時代」は既に過去のものとなりました。物流は停滞し、各国の国民は物価高に苦しみ、開発目標の達成は遅れ、各地で人権をめぐる課題が生じています。

 こうした中、国連は、創設から80年を経て、世界の平和と安定のための役割を果たせていないのではないか。そうした声すら聞こえてきます。

 議長、

 しかし、世界に平和と安定をもたらし、国際社会が新たな課題を乗り越えて繁栄する上で、今ほど、国連が重要な時代はない。そして、日本は、国連のために大きな責任を果たしていく。本日、私は、その決意を申し上げるために、この場所にやってまいりました。

 今年は、日本が国連に加盟してから70年目の年に当たります。この節目の年に、私はまず、国際社会が直面する課題について、日本が国連とも手を携えながら、どう取り組んでいるのかをお話します。その上で、皆様と共に、国際社会における国連の役割を見つめ直したいと思います。

2 国際情勢の緊迫化から見る国際社会の課題

 議長、

 まず、国際情勢の緊迫化に目を向けてみましょう。

 中東情勢が緊迫化し、国際公共財たるホルムズ海峡において、自由で安全な航行が困難になっています。日本は、国際社会と連携し、中東地域全体の事態の早期沈静化のため、外交努力を継続しています。

 また、燃料や化学製品、医療品の供給不安が生じ、人々の生活や企業の活動に、大きな影響が生じています。肥料の供給停滞により、食料危機のリスクが広がり、特にアフリカ、アジアがその影響を大きく受けています。

 私達は長年、太平洋からインド洋にかけて、自由で開かれた海でダイナミックな交易を行い、共に強く豊かな地域を創ってきました。それは、大西洋でも、地中海でも、同じです。これをアフリカにもつなげ、成長と繁栄の大動脈にしていきたい。そのため、ちょうど10年前、安倍晋三総理は、ケニアで開催されたアフリカ開発会議(TICAD)で、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を提唱しました。

 しかし、最近の地政学的対立の先鋭化により、自由な交易が妨げられ、エネルギーの安定供給やサプライチェーンに支障が生じています。

 そのような中、今年5月、私は、「進化したFOIP」を発表しました。自らの運命を自らの手で決めるために必要な「自律性」と「強靱性」と、これを経済・社会・安全保障という全ての面で各国が身につけていくことが不可欠であると訴えたのです。

この理念を具体化するものとして、日本が特に注力している3つの柱をお話します。

 一つ目の柱として、日本は、エネルギー・重要物資のサプライチェーンの強靱化に取り組んでいます。

 世界のエネルギー安全保障にとって、自由で透明なエネルギー貿易の確保、石油備蓄の強化に関する国際協調、そして、生産国と消費国の連携強化が重要です。日本は、アジアにおけるエネルギー・資源供給力の強靱化のために、「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ(パワー・アジア)」を立ち上げ、備蓄システム構築や与信供与などの協力を進めています。

 また、現在、日本は、中東の湾岸諸国の経済・エネルギー強靱化に向けて、包括的な協力計画をまとめています。この取組を通じ、世界的なエネルギーの安定供給のために、日本を含むアジア太平洋と湾岸諸国の連携を一層強化するべく取り組んでいきます。

さらに、国際社会全体で恣意的な輸出規制に対する懸念が強まっています。日本は、代替供給源の形成に加えて、重要鉱物等の供給断絶に対する各国の対応能力の向上を含めた、サプライチェーンの強靱化のための構想を提案しています。

 例えば、通称「RISE(強靱で包摂的なサプライチェーンの強化)パートナーシップ」。この取組では、重要鉱物産出国が、採掘・精錬・加工に関して、より大きな役割を果たせるよう、協力をしていきます。6月には、それに必須となるインフラ整備支援のため、世界銀行グループに「RISE+」を創設し、2000万ドルの拠出を表明しました。

 2つ目の柱として、日本は、平和と安定に向けた連携の強化に取り組みます。

日本は、戦後一貫して、核軍縮・不拡散に、真剣に取り組んできました。「核兵器のない世界」に向けた志の原点は、核兵器の惨禍は二度と繰り返されてはならないという、被爆者の方々の願いにあります。  

 「核兵器のない世界」に向けた国際社会の取組を主導することは、唯一の戦争被爆国である我が国の使命であり、核兵器国と非核兵器国の双方が参加する「核兵器不拡散条約(NPT)体制」の維持・強化に向けて、国際社会の連帯を強く呼びかけます。また、日本としても、核戦力の透明性向上や被爆の実相の理解促進といった、現実的かつ実践的な取組を粘り強く前に進めていきます。

 ウクライナ、そして北朝鮮情勢は、核のリスクと脅威の増大を世界に再認識させました。ロシアと北朝鮮の軍事協力の強化を通じた、核・ミサイル関連技術の拡散も懸念されます。インド・太平洋と欧州・大西洋の安全保障は、不可分なのです。

 北朝鮮が、暗号資産窃取を含む悪意あるサイバー活動も資金源にしながら、核・ミサイル開発にまい進していることは、明確な安保理決議違反であり、国際社会の平和と安全に対する重大な脅威です。北朝鮮の完全な非核化という原則の下、安保理決議の完全な履行が不可欠です。

 また、北朝鮮による拉致問題は、今もなお拉致被害者の自由が奪われていて、御家族が苦しんでいるという、現在進行形の問題であり、人命に関わる問題です。日本のみならず、国際社会の重大な関心事項でもあります。拉致被害者やその御家族も高齢となられる中で、この拉致問題を一刻も早く解決しなければなりません。

 日朝双方の未来のためにも、日朝平壌宣言に基づき、互いに実りある関係を作るべく、私には、対話し、具体的に行動する用意があります。

 3つ目の柱として、日本は、法の支配に基づく、自由で開かれた国際秩序の維持・発展に貢献します。

 力また威圧による一方的な現状変更の試みは、国連憲章に掲げられた原則に反するものであり、世界のどこであっても認めることはできません。  

 その最たる例が、ロシアによるウクライナ侵略です。国際社会の平和と安全に特別な責任を有するはずの安全保障理事会の常任理事国が、他国を侵略し、その自国の行為に係る決議に拒否権を行使するような状況が起きています。このような現状では、安全保障理事会は、国際社会の平和のために機能していないと言わざるを得ません。

 戦後の日本は、平和国家として、いかなる紛争の解決においても法の支配を重視してきました。それは、日本が、国際司法裁判所(ICJ)、国際刑事裁判所(ICC)、国際海洋法裁判所(ITLOS)などの様々な国際裁判所を一貫して支持し、判事を輩出していることにも表れています。

 今年3月に、日本政府内に和平調停の担当部署を創設しました。日本は、紛争の平和的解決により積極的な役割を果たしていきます。

 また、今、ホルムズ海峡において、法の支配に基づく海洋秩序が、大きく揺らいでいます。従来どおり、追加的費用のない形で、全ての船舶が自由かつ安全にホルムズ海峡を通過できることは、中東地域の安全のみならず、国際経済全体の安定のためにも、極めて重要です。同様に、バブ・エル・マンデブ海峡の安定確保も、不可欠です。日本は、中東地域の海洋秩序の維持に向け、引き続き、関係国や国際海事機関(IMO)と緊密に連携していきます。

3 日本の国連・多国間主義へのコミットメント

 議長、

 次に、国連や多国間主義に対する日本の取組と決意をお話します。

 1956年の国連加盟以来、日本は、二国間や国際機関を通じた政府開発援助(ODA)によって、貧困の撲滅、経済・社会開発、女性のエンパワーメント、気候変動、国際保健といった地球規模課題の解決に果敢に取り組むことで、グローバルサウスとの連帯を深めてきました。  

 日本はこれまでに、途上国・地域に対して、総額6,700億ドルを超えるODAを支援し、99か国に6万人規模で国際協力機構(JICA)海外協力隊員を派遣してきました。また、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向けた取組を、世界各地で推進しています。

 日本が1993年から国連と共に開催してきたTICADは、アフリカの声を持続可能な開発目標(SDGs)に反映させたり、初めてFOIPを提唱する場にもなりました。アフリカは、若者人口の成長活力と大きな経済潜在性を有しており、日本は、「共に、強く、豊かに」なるためのアフリカ外交を推進していきます。例えば、アフリカの産業発展、雇用創出、そして連結性強化を促進します。

 また、来年には、1997年以来、太平洋島嶼国と一緒に開催してきた太平洋・島サミットを日本の横浜で開催します。海洋安全保障や気候変動といった共通課題を含め、太平洋島嶼国地域との連携の更なる深化や同地域の安定と繁栄を目指します。

 本年も、日本を含め世界各地で、極めて深刻な被害をもたらす災害が発生しており、自然災害が激甚化・頻発化しています。日本は、世界一の防災大国を目指しています。日本の防災の知見や技術を共有し、世界の防災対策に貢献するべく、先週に内閣改造を行い、国際防災協力担当大臣を新たに任命しました。私自身、2015年には、総務大臣として国連防災世界会議に出席しましたが、そこで採択した「仙台防災枠組」の推進は、今も最も重要な取組の一つです。その仙台で、来年10月にアジア太平洋防災閣僚級会議を開催します。

 今を生きる人々の命と未来を生きる人々の命を守るため、全ての国が、地球温暖化対策に真剣に取り組む必要があります。私は、気候変動対策と経済成長は両立できると信じています。

 日本はこれまで、グリーン鉄を始めとした生産・技術基盤の構築、世界最高効率のガス火力発電の活用、更には、省エネ型データセンターの普及など、日本の技術力を生かし、2050年のネット・ゼロを目指して、グリーン・トランスフォーメーション(GX)の取組を進めています。

 これらの取組を、エネルギー需給構造の強靱化の視点から更に強化し、「エネルギー需給構造強靱化総合パッケージ(パワーGX)」として強力に進めます。そして、脱炭素化とエネルギー安全保障、経済成長を同時に進める「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」といった取組を通じて、世界の気候変動対策に貢献していきます。

 まさに来年、グリーン技術の産業見本市であり、持続可能な開発の在り方にも焦点を当てる2027年国際園芸博覧会を横浜で開催します。是非、多くの方にお越しいただきたいと願っています。

 技術革新から生じている課題もあります。AIの進歩は、人類に飛躍的な機会をもたらす一方、安全保障上の挑戦にもなっており、事実に基づかない情報やプロパガンダの拡散への対策も急務です。日本は、「広島AIプロセス」を立ち上げ、生成AIを規律する初の国際規範を策定すると同時に、同志国やグローバルサウス諸国と「安全、安心で信頼できるAI」エコシステムを共に創ろうとしており、高性能AIのリスクに対応するため、安全性に関する協力も強化してまいります。これらの取組を加速すべく、AIサミットを早期に日本で開催したいと考えています。

 議長、

 日本は戦後、先人のたゆまぬ努力と多くの国からの善意の手により、今日の平和と繁栄を築いてきました。その過程で、日本自身も多国間主義の下、国際社会の課題解決に向けて一貫して行動してきました。

 しかし、これらの課題解決は1か国だけでは実現できません。今こそ、国連の旗を高く掲げ、その下で加盟国が力を結集して、ルールを練り上げ、協力の枠組みを築くことが必要です。地球規模でその舵を取ることができる唯一の存在が国連だと、私は確信しています。  

 そのためにも、国連の改革が不可欠です。国連は一つの「器」であって、その中身を決める責任は、私達、加盟国にあります。国連の制度疲労を嘆くのではなく、加盟国が心を一つにして、国連改革を力強く進め、より強靱かつ実効的な国連に変革していくべきです。グテーレス事務総長の成果を礎として、歩みを進めましょう。

 同時に、81年を経た国連憲章も、見直されなければなりません。「旧敵国条項」について、2005年には、全加盟国首脳の決意として、国連憲章から「敵国」への言及を削除するとの国連総会決議が採択されています。この決議に従い、同条項は早急に削除されるべきです。70年間に渡り、国連の取組に大きく貢献してきた日本の誇りと名誉にかけて、強く申し上げておきます。

 そして、極めて重要な課題として、安全保障理事会の改革が、緊急に必要です。国際社会の平和と安全の維持を任務とする安全保障理事会の現在の構図は、1945年当時の国際情勢を反映したものであり、現代の国際社会を真に反映した構造へと変革することが急務です。そのためには、常任理事国・非常任理事国の双方を拡大して、その正統性・代表性を確保することが不可欠です。過半数を超える加盟国が、双方の拡大を支持しています。

 日本は、これら国連の改革においても大きな責任を果たしていく決意です。

4 結語

 議長、

 日本は、国連加盟以来70年間、専守防衛の考え方の下、平和国家として、国際社会の平和と繁栄に一貫して貢献してきました。また、ルール・制度づくりと現場の支援の両輪で、国連と歩みを重ねてきました。そして、この方針は、今後も一切変わりません。この歴史を踏まえ、日本は、国連の理念という希望の灯を守り、その光を未来につないでいく責任を感じています。  

 そのため、国連と多国間主義へのコミットメントを新たに、これからも着実に行動していきます。国連自身も、世界が揺らぐ今こそ、より強靱かつ実効的な国連に生まれ変わり、信頼を取り戻さなければなりません。日本は、そのような「国連と共に、インド太平洋を、そして国際社会を、より強靱に豊かにして、平和と繁栄を創る」決意です。

 御静聴、有り難うございました。


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