人権外交
第37回人権理事会ハイレベルセグメント
堀井学外務大臣政務官によるステートメント

人権理事会議長,ゼイド高等弁務官,ご列席の皆様,
日本国政府を代表して,人権理事会でステートメントを行う機会を得たことを大変光栄に思います。まず,昨年11月のUPR(ユーピーアール)日本審査において,多くの国から日本の人権分野の取組に対する前向きな評価や建設的なご意見を頂いたことに感謝いたします。
議長,
本年は記念すべき世界人権宣言採択70周年です。日本は,戦後一貫して,同宣言で唱われた自由や人権といった高い理想を掲げながら,法の支配に基づく自由で開かれた社会の実現に向けて国内外の施策に取り組んでまいりました。
その一方,国際社会においては,紛争の長期化・複雑化,テロ・暴力的過激主義の台頭,難民の大量発生等が存在し,自由や基本的人権といった基本的な価値が挑戦を受けています。こうした価値を維持し,促進していくためには,多大な努力が必要です。日本政府も,人権理事会等国際社会における議論のリード,SDGsの達成を視野に入れた国際ルールに基づく開発支援,各種制度構築を含む技術協力等を通じて,弛まぬ努力を進めてまいります。
議長,
日本は,アジア出身の人権理事会理事国として,地域における人権の保護・促進に積極的に取り組んで参りました。同地域では,めざましい経済発展や着実な民主化の進展が見られるものの,自国民の基本的な自由と民主主義の抑圧・弾圧,人権擁護者の抑圧などの問題が依然として存在しています。
日本は,国際社会との意味のある関与を拒否し,深刻な人権侵害を継続する国・地域に対しては,関係国と協力しながら,強く政策の是正を求めていく考えです。一方で,持続的な真の改善をもたらすためには,どのようなアプローチが最も効果的か,包括的・総合的に検討することも重要です。
ミャンマーのラカイン州情勢について,日本は,その人権・人道上の懸念や国際社会との協力の重要性について,あらゆるレベルでミャンマー政府に伝えてきています。また,状況改善及び問題の持続可能な解決に向けたミャンマー政府の取組を後押しするため,ミャンマー及びバングラデシュへの人道支援に加えて,ラカイン州の抱える課題は複雑であり中長期的な支援が必要との観点から,避難民の帰還・再定住や,ラカイン州の発展のための支援を含むコミュニティ間の融和に繋がる開発援助等に取り組んでいます。
カンボジアにおいては,本年7月の国政選挙を国民の意思が反映される形で実施することが極めて重要です。日本は高い関心を持って情勢の推移を注視しており,引き続きカンボジア政府へ必要な働きかけを行っていく考えです。
日本は,地域における人権や法の支配といった基本的価値の定着のため,今後も粘り強く取り組んでいく考えです。
議長,
昨年12月,国連総会において北朝鮮人権状況決議が13年連続で採択されました。同決議は,組織的かつ広範で深刻な人権侵害を非難し,その終結を強く要求するものです。これは,拉致問題を始めとする北朝鮮の人権侵害に対する国際社会の強い懸念の表れです。北朝鮮による日本人の拉致が発生して長い年月が経った今も,2002年に帰国した5名を除き,未だに拉致被害者の帰国が実現していないことは痛恨の極みです。日本としては,引き続き,北朝鮮に対し,拉致問題の早期解決に向けた具体的な行動を強く求めていきます。
北朝鮮は,人々の生活や福祉を犠牲にして,核・ミサイル計画を執拗に追求しています。北朝鮮への圧力を最大限まで高め,北朝鮮が,国際社会の声を真摯に受け止め,拉致問題の早期解決を含む国際社会との協力に向けた具体的行動を取ることを強く求めていくことが重要です。日本は,今次人権理事会においても,北朝鮮人権状況決議案をEUと共同提出する予定です。各国の支持を期待します。
議長,
日本は,社会的弱者の権利の保護促進にも積極的に貢献して参りました。UPRの審査でも多くの国から評価頂いた女性,障害者分野における日本の積極的な取組は,今や世界に誇れるものとなりました。紛争下の性的暴力は,看過できない問題であり,日本も,女性・平和・安全保障に関する行動計画に基づき,その防止のための取組を実施しており,紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表事務所に対しトップドナーの一つにもなっています。児童の保護の分野では今月,私自身がスウェーデンで開催された児童の暴力撲滅に係るソリューションズサミットに出席し,「児童に対する暴力撲滅グローバル・パートナーシップ」のパスファインダー国入りや,「児童に関する暴力撲滅基金」への拠出の表明を含むコミットメントを力強く打ち出しました。引き続きこれらの分野で一層積極的に取り組んでいく所存です。
議長,
韓国の代表が言及した慰安婦問題については,日本政府は長きに亘って真摯に対応してきましたが,2015年12月には,日韓両政府による多大な外交努力の末,慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的」な解決を確認するとともに,国連等国際社会において互いに非難・批判することを控えることとしました。合意を受け,韓国政府が設立した財団には,日本政府から10億円を拠出し,実際に元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の癒やしのための事業が実施されてきました。合意時点で生存していた元慰安婦の方々47名のうち,7割以上の方々がこうした事業を受け入れるなど,多くの韓国人元慰安婦の方々も合意を評価しています。日韓合意は,国と国との約束であり,たとえ政権が代わったとしても責任をもって実施されなければならないことは国際的かつ普遍的原則です。日本側は,合意で約束したことを全て誠実に実行しており,合意が着実に履行されることが重要です。
なお,先週,女子差別撤廃委員会において,韓国代表団が「性奴隷」との言葉を使用しました。「性奴隷」という言葉は事実に反するので使用すべきではないというのが日本側の考えであり,この点は日韓合意の際に韓国側とも確認していたものです。
これに関連して,日本政府は,日韓間で慰安婦問題が政治・外交問題化した1990年代初頭以降,慰安婦問題に関する本格的な事実調査を行いましたが,得られた資料の中には,軍や官憲によるいわゆる「強制連行」を確認できるものはありませんでした。「慰安婦が強制連行された」という見方は,1983年,「私の戦争犯罪」という本の中で,故人になった吉田清治氏が,「日本軍の命令で,韓国の済州島において,大勢の女性狩りをした」という虚偽の事実を捏造して発表し,当時,日本の大手新聞社の一つにより,事実であるかのように大きく報道されたことにより,国際社会にも広く流布されました。しかし,これは,後に,完全に想像の産物であったことが証明されています。この大手新聞社自身も,後に,事実関係の誤りを認め,正式にこの点につき読者に謝罪しています。
議長,
日本は国内の先住民族であるアイヌの権利の保護・促進に向けた施策にも積極的に取り組んでいます。また,難民については,国際機関と連携し,人道支援とともに難民発生の根本原因の解決に資する開発協力を実施してきているほか,受入れについても,アジアで初めて第三国定住を実施し,ミャンマー難民とその家族を暖かく受け入れてきています。
人権の保護・促進に向けた国際社会の議論に積極的に貢献するとの決意の下,本年6月の自由権規約委員会選挙及び女子差別撤廃委員会委員選挙に,それぞれ日本から素晴らしい専門家が立候補しています。皆様のご支持をお願いいたします。
人権理事会で議論される人権課題は増大傾向にあります。限られたリソースの中で,一層効率的・効果的に人権を保護・促進していくためには,人権理事会や人権条約体,OHCHR等の国際的な人権メカニズムの見直しも重要です。日本は,各種機能の質の向上や効率化に関する議論に積極的に参画していく考えです。
議長,
世界人権宣言70周年にあたり,国際社会と協力しつつ,世界の人権の保護・促進に向け一層努力していく決意を新たにしたいと思います。
ご静聴ありがとうございました。