世界貿易機関(WTO)

令和5年3月7日

1 概要

 3月1日及び3日の2日間、WTOにおいて、日本の貿易政策を審査する対日貿易政策検討(TPR)会合が対面会合(WTO本部)とオンライン出席のハイブリッド形式で開催されたところ、概要は以下のとおり。日本からは、山﨑和之在ジュネーブ国際機関日本政府代表部大使、大河内昭博外務省経済局参事官(我が国代表団長)等が出席。

(参考)TPR会合について
WTOでは、加盟国・地域の貿易政策・慣行につき透明性を確保し、理解を深める観点から、WTO協定に基づき、加盟国・地域の貿易政策等についての質疑応答を中心とする貿易政策検討会合を定期的に行っている。対日審査は、3年に1度実施されており、今回が15回目(前回は2020年7月)。

2 審査の流れ

  • (1)書面質問
     TPR会合に先立ち、日本の貿易政策に関するWTO事務局及び日本政府作成の各報告書が加盟国・地域に共有され、報告書をもとに各加盟国・地域から計700問を超える書面質問が所定の期限までにWTO事務局経由で日本政府に提出された。これらの書面質問に対し、ルールに従い会合の1週間前までに回答した。
  • (2)会合1日目(3月1日)
     議長を務めるアタリア・レシバ・モロコメ(Athaliah Lesiba MOLOKOMME)在ジュネーブ国際機関ボツワナ代表部大使による開会発言の後に、日本代表団長の大河内参事官から冒頭、日本の貿易・経済政策の動向を説明した。続いて、代表討議者を務めるジョアオ・アギアル・マシャド(João AGUIAR MACHADO)EU・WTO代表部大使から、日本の貿易政策・慣行の現状及び今後の課題に関する説明があった。その後、56の加盟国・地域から質問やコメントがあった。
  • (3)会合2日目(3月3日)
     冒頭、大河内参事官から、1日目に各加盟国・地域から寄せられた関心事項について、我が方の立場を説明した。その後、代表討議者がこれまでの質疑応答を踏まえた論点を提示し、6の加盟国・地域が発言を行った後、議長が議論を総括した。

3 我が国冒頭説明のポイント

  • (1)日本はこれまで貿易立国として経済成長を成し遂げてきた国であり、自由で公正な貿易とこれを支える多角的貿易体制に一貫してコミットしてきた。この日本の姿勢は、保護主義的な傾向や世界経済の不確実性がみられる目下の状況においても、何ら変わることはない。
  • (2)ロシアのウクライナ侵略は、WTOの基礎となっている国際法の基本原則の明確な違反であり、世界の平和と安全に対する深刻な脅威である。
  • (3)前回審査以降、新型コロナウィルス感染症、ロシアのウクライナ侵略、気候変動や自然災害など、世界を取り巻く環境は劇的に変化。国内をみても、少子高齢化や生産性上昇率の伸び悩み等を背景とした潜在成長率の低迷が続いている。
  • (4)こうした困難に直面する中、岸田首相は、2022年6月に「新たな資本主義のグランドデザイン・行動計画」を策定した。特に人的資本蓄積、先端技術開発、スタートアップ育成、デジタル化・グリーン化推進を重点分野として大規模な投資を実行していく。
  • (5)WTOを中心とする多角的貿易体制は世界貿易の礎であり、日本の通商政策の柱。日本はWTOの取組に対して積極的に参加。WTO電子商取引交渉では共同議長国としてデータ流通の自由化を含む高い水準のルール形成を主導し、漁業補助金交渉では同協定に基づき設置されたファンドの最初の拠出国となった。食料安全保障、DS改革等にも積極的に関与している。
  • (6)地域貿易協定に関し、ルールに基づく自由で公正な経済秩序を構築する取組の一環として、CPTPPを始めとする経済連携協定を推進。前回審査以降に日英EPAとRCEP協定が発効し、日本の総貿易額に占めるEPA/FTA比率は約8割となった。投資関連協定に関しては、55本の投資関連協定が署名・発効済で、現在交渉中のものを含めると94の国・地域、日本の対外直接投資額の約93%をカバーすることとなる。対内直接投資残高は、2030年までに80兆円、GDP比12%を目標としている。
  • (7)開発に関し、開発途上国の貿易・投資を通じた経済成長を支援する観点から、貿易のための援助(AfT)、TICAD等を通じて途上国の貿易投資環境の改善を支援。131の途上国に対する一般特恵関税を2031年まで延長したほか、後発開発途上国からの輸入産品のうち無税・無枠措置の対象を98%まで拡大している。
  • (8)東日本大震災から12年以上が経過した今も残されている日本産食品への輸入規制は、科学的根拠に基づき、早期に措置を撤廃することを強く要請する。
  • (9)我が国は、WTO改革に向けて全加盟国・地域と協調する決意。ルールに基づく多角的貿易体制の一体性と持続可能性を支援するため、透明性と公平な競争条件を確保する取組にもコミットする。

4 加盟国・地域から寄せられた関心事項

  • (1)日本の貿易政策の開放性や予見可能性、WTOの活動における日本の貢献(電子商取引交渉でのリーダーシップ、漁業補助金協定に基づき設置された基金への最初の拠出国となったこと等)に対し、多くの加盟国・地域がこれを称賛した。
  • (2)日本との緊密な二国間経済関係について、FTA・EPAを通じた関係強化、首脳・閣僚レベルでの往来などについて言及した上で、多くの加盟国・地域がこれを高く評価するとともに、今後さらに強化していきたいと述べた。
  • (3)日本の開発援助に関する取組(貿易のための援助、後発開発途上国(LDC)特恵、JICAによる支援等)に対し、途上国を中心に多くの加盟国・地域がその重要性を強調した。アフリカ諸国からはTICADへの評価が寄せられた。
  • (4)関税構造の複雑性、衛生植物検疫措置(SPS)・貿易の技術的障害(TBT)の日本の基準、農業分野での国内支持、非農産品に比べて高い農産品関税率、製造業分野での補助金等を指摘した上で、これらの改善が外国企業の日本市場への参入をより容易するとの意見が寄せられた。
  • (5)政府調達に関し、外国企業の参加を促す更なる取組への期待が寄せられた。
  • (6)安全保障の観点からの取組(経済安保推進法の制定、外為法改正による対内直接投資の事前届出対象の見直し等)の貿易や投資への影響について、日本によるきめ細かい情報提供への期待が示された。
  • (7)このほか、女性躍進や労働市場改革、カーボンニュートラル実現に向けた取組等に対し、多くの加盟国・地域がこれを評価した。

5 我が国最終説明のポイント

  • (1)マクロ経済政策については、少子高齢化や将来の労働力不足に対処するため、女性の労働参加率上昇などを通じて、潜在成長力を高める努力を行っている。
  • (2)WTOにおいては、新しい時代に即したルール作りや改革に向け、電子商取引交渉、漁業補助金交渉、WTO改革等を中心に今後も重要な役割を果たしていく。
  • (3)地域貿易協定については、WTO協定との整合性を確保しつつ推進していく。
  • (4)投資については、外為法改正により事前届出の対象を見直す一方、健全な対内直接投資を一層促進する観点から、国の安全等を損なうおそれがない一定の投資について、事前届出の免除制度も設けている。
  • (5)経済安保については、WTO協定を含む既存の国際約束と整合的に実施される。
  • (6)政府調達については、外国企業に対しても十分な情報提供を行っており、特定の分野で一部の企業を排除することはない。
  • (7)関税制度については、無税・従価税品目が9割超を占め、非従価税品目についても十分な情報提供を行っている。農業に関する措置は、WTO協定と整合的に行っている。SPS関連措置は、SPS協定その他国際基準と整合的に行っている。
  • (8)紛争解決制度の恒久的な改革に向けた議論に、他の加盟国と協力しつつ、我が国として建設的に貢献していく。
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