世界貿易機関(WTO)

令和3年1月15日
(写真)WTOでの開発のための投資円滑化での合意に向けた交渉(2020年10月)の様子:WTOホームページより (写真はWTOでの開発のための投資円滑化での合意に向けた交渉(2020年10月)の様子:WTOホームページより)

 今年はステイホームの年末年始で、デリバリーされた各国の飲み物や食べ物を片手に、世界中の映画や音楽を家で楽しんでいた方も多いかもしれない。今や世界中のモノやサービスを家に居ながらにしてワンクリックで注文し楽しむことができるようになったが、それも各国企業の活発な海外進出の賜物といえる。しかし、企業の対外投資・進出そのものは未だにクリックひとつで、とはいかないのが現実である。
 今回は、昨年末から取り上げてきたWTOにおける4つのJSI(共同声明イニシアティブ(Joint Statement Initiative))のひとつ、企業の海外進出を含む投資の環境作りのためのイニシアティブ「開発のための投資円滑化」(投資円滑化JSI)をとりあげたい。

 日本を含む70か国は、ブエノスアイレスで2017年に開催された第11回WTO閣僚会合(MC11)で、投資が物品貿易やサービス貿易と並んで企業活動に欠かせない要素となっていることを踏まえ、投資活動の円滑化に資する制度整備等を目指すイニシアティブを立ち上げた。現在は106もの国と地域が参加し、先進国・途上国の垣根なく投資活動を円滑に行えるよう、具体的な条文について議論を重ねている。
 投資円滑化には、例えば、「投資手続の透明性及び予見可能性の向上」、「投資に関する行政手続や要件の簡素化や迅速化」がある。これらが何を指すのか、日本の法人の海外進出を例にとってみる。外国(ここではA国)での会社設立を考える場合、どのような情報をどこに提出すれば会社設立ができるのか、法人設立のための条件は何なのか等、明確に知る必要がある。また、必要手続が判明しても書類の提出先機関が多岐にわたっていたり、大量の証明書類等が必要であったり、そもそも手続きが数年を要するものであったりすると、会社設立の壁は高い。更に、多難を乗り越え会社を設立できたとしても、A国の国内事情により突然追加の手続が求められるようでは困ってしまう。手続が外国人にも明々白々で、出来るだけ簡素かつ安定的であることは、投資する側だけでなく、多くの投資を呼び込む側にとっても重要だ。

 さらに、WTOだけでなく、地域レベル及び二国間の経済連携協定及び二国間投資協定の下でも、投資円滑化に関するルール作りは行われている。日本企業の海外進出を促進するためには、投資の入口の手続円滑化だけでなく、一旦現地に行った投資を保護することも重要だ。この点、日本は、多数の二国間又は複数間の投資関連協定を有している。しかし、すべての国・地域との間で投資関連協定を結んでいくことは必ずしも容易なことではなく、包括性の観点からは、GATT(物品貿易)やGATS(サービス貿易)のような多国間での投資円滑化に関する包括的なルールを作る試みは意義のあるものといえる。

 最後に、これまでとりあげてきた4つのJSIのすべてについて、現在までの進捗とMC12に向けた目標が各イニシアティブの議長のもと昨年12月に発表別ウィンドウで開くされた。このうち、日本は、特に電子商取引交渉の共同議長を務めるなど、国際的な議論を積極的に主導してきている。


世界貿易機関(WTO)へ戻る