世界貿易機関(WTO)

令和2年1月8日

 2019年は国民的大型行事が目白押しの1年であった。「令和」時代の幕開けと天皇陛下の御即位,初の日本開催となったG20サミット,そして,日本代表の躍進に熱狂したラグビーワールドカップ。2019年は多くの日本人にとって忘れられない1年となった。
 その一方,多角的貿易体制にとっての2019年は,「ワンチーム」とは言い難い試練の年だった。保護主義や不公正な貿易慣行が広がりをみせる中,世界貿易機関(WTO)の上級委員会は機能停止に陥った。「夜明け前が一番暗い」という言葉がある。ドーハラウンドの停滞以降「落日」と評されてきたWTOは夜明けを迎えられるのか。鍵となるのが「自らの改革」である。
 WTO改革は3本の柱で議論されている。(1)現在の世界経済に即したルール作り,(2)紛争解決制度の見直し,(3)協定の履行監視の徹底である。ラグビーになぞらえれば,ルールブックの拡充,レフリーの判定技能の向上,反則プレーの見える化,とでもいえるだろう。3本の柱に少し顔を近づけて見ると,内容は次のとおりである。

  • (1)時代に即したルール作り
     WTOは,新興国の台頭や経済のデジタル化を始めとする,国際経済の構造的変化に十分に対応できていない。日本は,G20大阪サミット以降「大阪トラック」の下,WTOがデジタル経済の新たなルール作りに取り組むよう,電子商取引交渉を共同議長としてけん引してきている。
  • (2)紛争解決制度の見直し
     WTOの紛争解決はいわゆる二審制をとっており,最終的な裁定を行う上級委員会は7名の委員で構成されている。しかし, 2019年12月に任期が切れたレフリーを補うことができないまま審判団を構成できなくなった。早期に紛争解決の機能を正常化すべく,我が国も各国とスクラムを組んで議論に参加していく。
  • (3)協定の履行監視機能の徹底
     WTOシステムは各国の貿易政策の透明性を前提としており,各国に対し,自国の貿易関連措置を通報することを義務付けている。反則に当たる可能性のある補助金通報を怠る国が多くおり,正直者が馬鹿を見る現状は改めるべきだ。

 設立から25年を迎えるWTOが適応障害と制度疲労で多くの問題を抱えていることは確かだ。だが,プレーヤーが競争し協調するスポーツが,自らの役に立ち,魅力的なものならば,ゲームのルールの見直しや判定の仕方の改善,競技場の改修を行えば良い。忘れてならないのは,日本がこのスポーツをルールに従ってプレーすることによって,経済成長と繁栄を享受してきたことである。WTO改革は,今まさに正念場。このシリーズでは,WTO改革及び日本の取組を連載していく(第2回『WTOの紛争解決制度』は1月15日に掲載予定。)。


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