大阪トラック・プロセス

議論の概要

令和元年11月1日

 10月11日,世界貿易機関(WTO)パブリック・フォーラムのプログラムの一つとしてWTO本部内で開催された「大阪トラック」に関するワークショップに関し,議論の概要は以下のとおりです。

1 ワークショップの概要

日時:
2019年10月11日(金曜日)12時00分~13時30分
場所:
WTO本部(ジュネーブ)内の会議室
モデレーター:
アンケニー米国情報技術産業協議会(ITI)上級マネージャー
パネリスト:
飯島俊郎外務省経済局審議官,リー・マキヤマ欧州国際政治経済研究所(ECIPE)課長,ニールソンOECD貿易農業局次長,千原電子情報技術産業協会(JEITA)通商副委員長
テーマ:
デジタル経済の十分な潜在力の活用 国際的なルール作りのための「大阪トラック」とWTOの役割

2 パネリストの報告

  • (1)飯島審議官
     発表資料(PDF)別ウィンドウで開くに沿って,G20大阪サミットの際にスタートした「大阪トラック」について,それまでの経緯,WTO電子商取引交渉の現状,「大阪トラック」のコンセプト,及び国際機関・産業界等のステークホルダーと連携した今後の進め方,等について報告・説明を行いました。
  • (2)リー・マキヤマ課長
     デジタル化が経済にもたらす影響の大きさ,その活用におけるWTOのルール作りの重要性,及びそれを推し進めるものとしての「大阪トラック」の重要性について発言がありました。その上で,デジタル経済はそれ自体が生み出す新たな産業のみならず,農業や運送業といった既存の産業にも多大な影響を与え,貿易の在り方をも変えるものであることに加え,国境の存在を前提としないインターネットの世界はマルチの枠組みとしての本質を有しているとした上で,WTO電子商取引交渉を通じて新たなマルチのルール作りを進めることが,(自由貿易を規律するという)WTOのレガシーを守る上でも重要である旨発言がありました。
     また,DFFT(データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト:信頼性のある自由なデータ流通)の概念が共有されたことはG20大阪サミットの最大の成果の一つであるとした上で,WTOにおけるマルチの枠組みでの成果を実現するためには,データ・フリー・フローだけでなく,セーフガード措置としての意味を持つトラストに着目することが重要であり,データ・フリー・フローの概念と各国ごとの異なる規制措置に基づくトラストの概念との間のバランスを図るべく,WTOにおいて各国が協力して取り組んでいくことが重要であるとの発言がありました。
  • (3)ニールソン次長
     デジタル時代の貿易のあり方について,OECDによるこれまでの貢献を紹介しつつ,デジタル経済の恩恵はハイテク産業のみならず全ての人々に裨益するものであると発言しました。その一方で,デジタル経済に対する規制の分断化(fragmentation)の問題があるとし,データ流通に係る規制の類型(規制が存在しない場合,事後の説明責任が求められる場合(民間主導の枠組み),セーフガード措置が存在する場合(EUのGDPRのような枠組み),個別の許可が必要となる場合)を示した上で,伝統的な市場の開放性の原則(無差別原則,透明性の確保,不必要な貿易制限的措置の排除,相互運用性の実現)に沿って,規制枠組みの相互運用性の実現に向けた各国間の協力が必要であると発言し,さらに,コネクティビティの問題に対処することが重要である旨を述べました。
  • (4)千原副委員長
     デジタル技術を活用したソリューションサービスの実例について紹介がありました。その上で,当該サービスで必要とされるAIの発展に当たっては,質の高いデータが必要であり,JEITAとして,DFFTの概念の共有及び「大阪トラック」の立上げをG20大阪サミットにおける主要な成果であると考えていると述べました。また,WTO電子商取引交渉の妥結を期待しているとした上で,10月7日に発出したWTO電子商取引交渉に係る産業界のポジションについて紹介がありました。

3 質疑応答(概要)

 モデレーターの質問に対し,各パネリストから次の発言が行われました。

  • (1)「大阪トラック」に対するWTO以外の国際機関の貢献としては,プライバシーやセキュリティといったWTOにおける国際基準が存在しないテーマについて,規制の調和に向けた分析や政策オプションを提示することが重要。(ニールソン次長)
  • (2)人権としてのプライバシー保護の規制については,恣意的に広範なものが導入される可能性があるが,WTOにおける無差別原則に反しないものとなることが確保される必要がある。各国ごとに異なる規制が存在する中で,二国間ないし多国間で調和的な規制枠組みを確立することが重要。この点,(考え方の異なる枠組みである)APECのCBPRの枠組み及びEUとの間の十分性認定の枠組みの双方について,異なる解釈の下での両立を実現している日本のアプローチは好例。(リー・マキヤマ課長)
  • (3)電子的送信に対する関税賦課は結果として消費者にコストとして転嫁されるほか,自由なデータ流通の規制はデジタル経済の発展を阻害する。サイバーセキュリティー分野での技術発展の遅れは国家の安全保障にも悪影響を与え得る。(千原副委員長)

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