世界貿易機関(WTO)

令和3年3月15日

 新型コロナは、あらゆる経済活動のデジタル化を促している。請求書を見て、オンライン動画配信サービスや、ECサイトの利用頻度が大幅に増えたことを日々実感される方も多いだろう。このような状況で、デジタル経済についての国際ルール作りは、グローバルな規模で急速に拡大するデジタル経済活動、特にデータの流通を介した取引を、自由で開かれたものにし、同時に、安心・安全を確保するために不可欠だ。
 今回は、共同声明に基づく4つの取組(4つのJSI)の最後の回として、WTOで交渉されている電子商取引に関するルールの中身をお伝えしたい。

(写真1)2020年1月のダボス会議の際のWTO電子商取引に関する有志国会合の様子 2020年1月のダボス会議の際のWTO電子商取引に関する有志国会合の様子

 電子商取引のどういった分野でどのようなルールが必要なのか?
 まず、自由で開かれたデータ流通について、「情報越境移転」と「データ国内保存要求の禁止」というキーワードを挙げたい。「情報越境移転」とは、個人や取引先企業の属性情報や購入履歴等に関するデータを、国境を越えて移転することを原則として許可することだ。これにより、事業者は国境を越えて顧客の関心やニーズに応じた事業を展開することが容易になる。「データ国内保存要求の禁止」とは、ある国で事業を行う場合に、その国の領域内に設置されたサーバーなどにその国での事業で得られたデータを保存することを禁止することを指す。これにより多額の投資や拠点設置を伴わずに海外の消費者や企業と直接取引できるようになるという利点がある。
 次に、安心と安全について。ここでは、「ソース・コード/アルゴリズムの移転・開示要求の禁止」、「個人情報保護/消費者保護」、「ICT製品の暗号開示要求の禁止」のキーワードを挙げよう。まず、「ソース・コード」とは、コンピュータ・プログラムを作る際に、そのプログラムにどのような動作をさせたいかを記載した内容(テキストファイル)のことだ。例えば、ウェブサイト上で、商品ページでカートのボタンを押したら、商品がショッピングカートに加えられるなどの処理があろう。次に「アルゴリズム」とは、コンピュータに行わせる手順・計算方法のこと。例えば、検索エンジンで、キーワードを入力したときに、どのようなページを上位に表示させるかの優先順位付けが分かり易いだろう。これらは、企業にとっては重要な企業秘密かつ財産であり、これらの開示を強制されないことは企業が国境を越えて電子商取引を行う上で大きな安心材料となる。また、「個人情報保護/消費者保護」は、文字通りだが、国際的に一定の保護基準を設けることで、個人が安心してグローバルなデジタル経済に参加できるようになる。最後に「ICT製品の暗号開示要求の禁止」とは、PCやネットワーク・ルーターなどのICT製品のデータなどの暗号化を意味する。これらの開示を禁止することで、ICT製品に含まれる企業秘密やICT製品を介した通信の保護が危険にさらされるリスクを軽減することができる。

 WTO164加盟国のうち、現在86の有志国が参加し、これらの要素をどう共通の国際ルールにすべきか、活発に議論している。交渉の場では「自由」と「安心と安全」のどちらを優先するかで原則的立場の対立もあれば、どこまで民間ビジネスに規制をかけるべきか国毎にアプローチの違いもある。日本は、オーストラリアとシンガポールとともに電子商取引に関する有志国交渉の共同議長として、この複雑な交渉を牽引してきている。昨年12月に、交渉の土台となる「統合交渉テキスト」が作成されたのは前向きな兆しだ。これから、本年12月に予定されている第12回閣僚会議(MC12)に向けて、電子商取引に関するルール作りの作業を加速していきたい。


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