世界貿易機関(WTO)
2015年対日貿易政策検討会合
平成27年3月26日
概要
3月9日及び11日の2日間,WTOにおいて,我が国の貿易政策を審査する対日貿易政策検討(TPR)会合が開催されたところ,概要以下のとおり(我が国からは,小田部陽一在ジュネーブ国際機関日本政府代表部大使,宇山智哉外務省経済局参事官(我が国代表団長)等が出席)。
(参考)TPR会合について
WTOでは,加盟国の貿易政策・慣行につき透明性を確保し,理解を深める観点から,WTO協定に基づき,加盟国の貿易政策等についての質疑応答を中心とする貿易審査会合を定期的に行っている。対日審査は,ほぼ2年に1度実施されており,今回が12回目(前回は2013年2月)。
1 審査の流れ
- (1)書面質問
事前に600問程度,事後に100問程度,合計約700問の書面質問が出された。事前書面質問に対しては,ルールに従い会合の1週間前までに回答した。 - (2)会合1日目(9日)
議長による冒頭発言の後に,我が国代表団長の宇山参事官からステートメントを発表。続いてディスカッサントのジャン=ポール・テュイエ(Jean-Paul THUILLIER)フランスWTO代表部常駐代表が日本の現状及び今後の課題について論点提示を行った。その後,約40のメンバーから発言があった。 - (3)会合2日目(11日)
冒頭,宇山参事官から,1日目の各国からの質問やコメントに応える形で,ステートメントを発表,その後,ディスカッサントが論点提示を行った後,5のメンバーから発言があった。議長から締めくくりの発言があり,議論を終えた。
2 我が国ステートメントのポイント
- (1)1日目のステートメントでは,以下の4点を強調。
- ア 前回審査以降2年間,アベノミクスの三本の矢が成果を上げていること。特に注目されている第三の矢である成長戦略についても引き続き積極的に推進していくこと。
- イ WTOを中心とする多角的貿易体制は世界貿易の礎であり,日本の通商政策の柱であること。日本がWTOでの取組(ドーハラウンド交渉,WTO協定の履行監視,紛争解決手続)に対して積極的に貢献していること。また,有志国間の取組(情報技術協定(ITA)拡大交渉,環境物品協定(EGA)交渉,政府調達協定(GPA),新たなサービス貿易協定(TiSA)交渉)にも積極的に貢献していること。
- ウ WTOを補完するものとしてのFTA/EPA(含TPP),さらには投資協定にも積極的に取り組んでいること。
- エ 開発に関し,日本は,開発途上国の貿易・投資を通じた経済成長を支援する観点から,貿易のための援助(AfT),TICAD等を通じて途上国の貿易投資環境の改善を支援していること。
- (2)2日目ステートメントでは,1日目に各国の関心が特に寄せられた事項(マクロ経済政策,貿易政策,農業,SPS・TBT,NAMA,サービス,政府調達,開発)について,我が方の立場を回答した。
3 各国からの反応等
- (1)東日本大震災等の厳しい状況の中でも日本が保護主義に走らず自由貿易を堅持してきたことを賞賛する意見が多く出されるなど,友好的な雰囲気で会合が進められた。
- (2)各国は,日本の経済状況及びアベノミクスを含む日本の経済政策について正しい理解をしていると見受けられ,また,これまでの成果を評価する発言が多くみられた。特に第三の矢である構造改革については,期待が示される一方で,着実な実施を求める発言がみられた。
- (3)日本の貿易政策について,自由で開かれたものであること,譲許税率と実行税率との差が極めて小さいため予見可能性が高いこと,アンチダンピング等の貿易救済措置の活用がほとんどないことを評価する一方,農業,政府調達,SPS・TBT,サービス・人の移動,対日直接投資促進などの分野で改善の必要性について指摘がなされた。
- (4)農業については,現在進めている改革に期待が寄せられる一方,非農産品に比べて高い農産品の平均関税率やタリフピーク,TRQ運用,国内支持等について,指摘がなされた。SPS・TBTについては,日本の基準が国際基準に比べて厳しく,日本市場への参入障壁となっているとの指摘もなされた。
- (5)サービスについては,外国企業が日本に参入しやすくするための努力を求める意見が一部出された。特に,自由職業及び電気通信への関心が示された。また,郵政について,公平な競争条件の確保を求めるともに,郵政民営化のプロセスを注視する旨発言があった。このほか,査証申請手続きの簡素化,査証要件の緩和を求める発言があった。
- (6)バリ合意の妥結及び実施を含むWTOの活動における日本の貢献を高く評価する発言が多く見られた。ポスト・バリ作業計画,ドーハラウンド妥結に向けた日本の貢献への期待を表明するとともに,日本と協力していきたいとの発言が多くあった。また,有志国間の取組(ITA拡大,EGA,GPA,TiSA)への貢献を評価する発言もあった。
- (7)多くの国から,EPAを通じた関係強化,首脳・閣僚レベルでの往来などについて言及した上で,日本との緊密な経済関係を評価するとともに今後もこれを更に強化していきたいとの意思が表明された。
- (8)途上国を中心に,日本の開発援助に関する取組(貿易のための援助,一村一品運動,LDC特恵,JICAによる支援等)を評価する発言が多くなされた。また,アフリカ諸国からTICADへの評価も示された。