エネルギー安全保障
第25回国際エネルギー機関(IEA)閣僚理事会
平成27年11月19日


1 会議概要
- 11月17日及び18日,第25回国際エネルギー機関(IEA)閣僚理事会がパリで開催された。米国のモニーツ・エネルギー長官が議長を務め,IEA加盟国29か国に加え,EU及び9か国の非加盟国(ブラジル,チリ,中国,インド,インドネシア,メキシコ,モロッコ,南アフリカ,タイ)のハイレベルが出席した。我が国からは,武藤外務副大臣及び鈴木経済産業副大臣が出席した。その他,エネルギービジネス評議会に属する世界のエネルギー関連企業のCEOらも多数出席した。
- 今次理事会は,テーマ「Innovation for a Clean, Secure Energy Future(クリーンで安定的なエネルギーの将来のためのイノベーション)」の下,第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)を目前に控えたタイミングで,テクノロジーとイノベーションの可能性に焦点をあて,エネルギー安全保障とクリーンエネルギーの目標に向かってモメンタムを強化することを目的として開催された。
- 議論の結果を踏まえた議長総括(英文(PDF)
/仮訳(PDF)
)が発出されるとともに,今次理事会に参加したIEA加盟国の閣僚がエネルギーと気候変動に関する声明(英文(PDF)
/仮訳(PDF)
)を,またIEAと主要パートナー国3か国(中国,インドネシア,タイ)がアソシエーションの始動を表明する共同宣言(英文(PDF)
/仮訳(PDF)
)を発出した。
- なお,今次理事会は,パリでの同時多発テロ事件直後に開催されたことから,各国からテロに対する強い非難と犠牲者等に対する哀悼の意が表明されるとともに,今次理事会がこのような中にあっても一国も欠けることなく予定どおり開催されたことこそが国際社会の強い連帯を示すものとの評価が相次いだ。日本を含む各国の政府代表及びビジネス関係者が弔問者芳名録に署名し,ロワイヤル仏エコロジー・持続可能な開発・エネルギー大臣に手交された。
2 評価
- 我が国からは,武藤外務副大臣及び鈴木経済産業副大臣が積極的に議論に参加し,エネルギー分野の技術革新はさらなる排出削減に不可欠な要素であり,日本は,来年のG7議長国として,再生可能エネルギーを含むクリーンエネルギー分野での技術革新に向けて議論を主導していくとの立場を強く示すことができた。また,世界的なエネルギー構造が変容する中,世界のエネルギー安全保障の強化の観点から,石油のみならず天然ガスのセキュリティ強化に向け,透明で流動的なLNG市場の育成・発展と緊急時対応の必要性並びに「エネルギーインフラの質」を高める重要性を主張することができた。
- 世界のエネルギー安全保障を強化し,気候変動などのグローバルな課題に対応するためには国際的な協力関係が不可欠との認識の下,我が国としてIEAによるアジア等の新興国への関与強化を評価し,引き続きIEAの活動を最大限支援していく旨発信した。
- 今次理事会では,IEA加盟を目指しているチリに加え,メキシコがIEAへの加盟に向けた協議を開始する意図を表明し,参加閣僚に歓迎された。さらに,中国,インドネシア及びタイがアソシエーションに参加した。これら非加盟国(特にエネルギー消費の増加が著しいアジアの新興国)とIEAとの関係強化は,今後の我が国のエネルギー安全保障強化に資するものとして高く評価できる。
3 主な議論の内容
(1)オープニング・ランチ「IEAの将来の展望,機会と挑戦」(17日午後)
- ビロル事務局長から,非加盟国との組織的な結びつきを深め,またクリーンエネルギー技術や省エネに関する国際ハブを目指し,IEAの近代化を行うとの展望が示され,多くの加盟国から支持表明があった。
- 鈴木経済産業副大臣から,日本は世界のエネルギー安全保障の強化を重視しており,石油のみならず天然ガスのセキュリティ強化に向け、透明で流動的なLNG市場の育成・発展と緊急時対応の必要性を主張した。また,エネルギー技術のイノベーション推進に賛同し,IEAが省エネのセンター・オブ・エクセレンスを目指すことを支持する旨発言した。
(2)全体セッション1「エネルギー転換を加速し,気候変動目標を達成するための技術革新の促進」(17日午後)
- クリーンエネルギーにおける技術革新の加速化に関する産業界の見通しや,電力・運輸・建築部門における進捗などにつき議論が行われた。
- 実施協定(Implementing Agreement)イニシアティブ(今次理事会にて「IEA技術協力プログラム(TCP)」に改名)の取組と成果について紹介された。
- 武藤外務副大臣から,COP21におけるパリ合意では,長期目標の設定や各国の排出削減目標の提出・見直しに関する共通サイクルの創設等,排出削減に向けた野心向上の仕組みが不可欠である旨,また,エネルギー分野の技術革新はさらなる排出削減に不可欠な要素であり,日本は,来年のG7議長国として,再生可能エネルギーを含むクリーンエネルギー分野での技術革新に向けて議論を主導していく旨発言した。
- 続いて,鈴木経済産業副大臣から,技術革新における産官学の連携等の重要性を強調しつつ,日本が昨年から立ち上げた多国間の議論の場であるイノベーション・フォー・クールアース・フォーラム(ICEF)を紹介し,また,IEAによる「エネルギー技術ロードマック」の高度化と「技術協力プログラム」の強化を積極的に支援して行く旨発言した。
(全体セッション1が行われた後,「研究開発との連携」,「都市システム」,「クリーンエネルギーアクセスの財政」という3つのテーマによる分科会が開催され,それぞれのテーマに基づき活発な議論が行われた。)
(3)ワーキング・ディナー「COP21(パリ2015):技術開発,イノベーション,クリーンエネルギー技術投資を促進するための政府と産業界の役割」(17日夜)
- 冒頭,ファビウス仏外務国際開発大臣によるCOP21に向けた基調講演が行われ,その後,各国政府,産業界,学術界の間の多国間のエネルギーに関する連携につき議論が行われた。
(4)全体セッション2「グローバルな文脈におけるエネルギー安全保障の評価」(18日午前)
- 気候変動などのグローバルな課題が存在し,またエネルギー需要がIEAの非加盟国へシフトする中,いかにして世界的なエネルギー安全保障を強化するかにつき議論が行われた。
- 鈴木経済産業副大臣から,新たなエネルギーミックスの策定を含む日本のエネルギー政策を説明し,将来の不確実性にも強いエネルギーシステムを構築するために,「エネルギーインフラの質」を高めることが必要である旨発言した。
(5)ワーキングランチ「グローバル展望:IEAの役割」(18日午後)
- 世界的なエネルギー構造が変容する中,アソシエーションを含む主要非加盟国との協力関係の重要性,エネルギー・グローバル・ガバナンスにおけるIEAの役割等に関する議論が行われた。
- 武藤外務大臣から,非加盟国への関与の強化の重要性を指摘した上で,メキシコによる加盟の意図表明や中国及びインドネシアのアソシエーション参加を評価しつつ,今後のアソシエーション拡大に期待を表明し,タイのアソシエーション参加の意図表明を歓迎した(注:本ワーキングランチ時点では,タイのアソシエーション参加は確定していなかったため。)。また,エネルギー安全保障,天然ガス,省エネ,技術革新等の分野でIEAが役割を拡充することを支持し,そのためにはIEAの効率的な運営が不可欠である旨強調し,我が国として引き続きIEAの活動を最大限支援していく旨発言した。