経済上の国益の確保・増進
エネルギーをめぐる国際的議論 Vol.5
アミン国際再生可能エネルギー機関(IRENA)事務局長による演説「再生可能エネルギー外交の時代」
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は,2017年11月29日付けで,「再生可能エネルギー外交の時代」と題するアドナン・Z・アミンIRENA事務局長の演説をIRENAウェブサイトに掲載しました。再生可能エネルギーの普及が急速に進む現代の世界における外交の役割について理解を深める上で参考になるので,声明の仮訳を掲載します。
再生可能エネルギー外交の時代

エネルギーは,私たちの経済や社会が機能を果たす上で不可欠なものです。今日,国連やG7・G20などのフォーラムにおいて,エネルギーは世界の最優先課題として,しっかりと位置付けられています。したがって,世界各国の外務省が,エネルギー問題に関する戦略的思考を形成し,国際的なエネルギー協力を進める上で,より大きな役割を果たすようになってきていることは,何ら驚くべきことではありません。
しかし,優秀な外交官であれば皆知っているとおり,変化とは常に進行するものです。世界のエネルギー需要は,開発途上国に牽引され,2030年までに30%増加する見込みです。これは,世界経済の拡大,急速な工業化,人口増加,都市化,そしてエネルギーアクセスの向上を反映したものです。同時に,私たちは皆,気候変動対策,環境保護及び持続可能な開発の達成という共通の世界的な課題に取り組んでいます。これらの要素により,持続可能なエネルギー源の開発は,差し迫った世界の優先課題となっています。
再生可能エネルギーの時代のための舞台は整いました。ほんの数年のうちに,再生可能エネルギーは世界のエネルギー情勢の中心に躍り出ました。急速な技術進歩とコストの低下は,革新的な政策と資金調達メカニズムと相まって,再生可能エネルギーのビジネスとしての成立を強く後押しし,再生可能エネルギーは従来型のエネルギー源と競合するまでになりました。2016年には,電力分野において新たに追加された再生可能エネルギー容量が,過去最大の2000ギガワット超に達しました。再生可能エネルギーは,4年連続で,他のどの電力源よりも大きく成長しています。2016年の再生可能エネルギーへの投資額は,約2700億ドルに達しました。コストは下落し続けており,アブダビにおける太陽光発電プラントでは,1キロワット時(kWh)あたり2.42米セントという世界最安値を記録しました。これは,投資額に比して得られるエネルギーが増えていることを意味しています。
このような著しい前進は10年足らずの間の出来事ですが,今後更なる進展があるでしょう。今年,IRENAは,G20議長国であるドイツから依頼され,パリ協定の「2度を十分に下回る」との目標に沿って,エネルギー部門の脱炭素化に関する分析を行いました。報告書「エネルギー転換の見通し」(原文/参考(エネルギーをめぐる国際的議論 Vol.2))は,気候変動を抑えるという目標を達成するためには,一次エネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合を,現在の15%から,2050年までに65%に引き上げる必要があります。
そのためには,特に輸送,民生及び産業といった最終用途部門を変えるための追加投資が必要となります。しかし,これらの投資額よりも,エネルギー転換から得られる経済的及び社会的利益の方が大きいものとなるでしょう。世界のGDPは2050年には約0.8%成長する見込みですが,これは,現在から2050年までに拡大する経済活動から得られる約19兆ドルに相当する額です。再生可能エネルギー関連の雇用は,現在の980万人から2050年には2600万人に達すると予想されています。また,大気汚染や気候変動を回避した結果得られる人間の福祉の改善の価値は,エネルギー転換にかかるコストの4倍から15倍になると推計されています。
これらの数字は,外交官たちが,2015年に国連総会で採択された持続可能な開発のための2030アジェンダの目標達成に向けた方法を模索する時,特に重要となります。再生可能エネルギーは,手頃な価格でクリーンなエネルギーに関する目標7を含む持続可能な開発目標(SDGs)の大部分を実現するための鍵となるでしょう。

再生可能エネルギーの台頭はエネルギー部門を変えつつありますが,再生可能エネルギーが地政学的情勢に与える影響の性質や程度については,まだ完全には理解されていません。外交官は,世界的なエネルギー転換や,その利益をいかにして自国が享受するかについて,創造的かつ批判的に考えるべく,準備する必要があります。
第一に,再生可能エネルギーは,エネルギー分野における各国間の関係を変容させる可能性があります。再生可能エネルギー資源は世界に豊富に存在し,効果的に利用されれば,現在輸入に大きく依存している国々のエネルギー安全保障を強化する力があります。チリやモロッコのように再生可能エネルギーの導入に関して最前線にある国々が,伝統的にはエネルギー輸入に大きく依存してきたという事実は,偶然ではないのです。モロッコは現在,2030年までに総発電量の52%を再生可能エネルギーによってまかなうことを目指しています。
しかし,全ての再生可能エネルギー源が同じというわけではなく,太陽光や風力といった変動性のある再生可能エネルギーは,供給と需要のバランスを常に保つことのできるような柔軟な電力システムを必要とします。欧州連合(EU)では,電力の国際取引が進展して消費者は年間25億ユーロから40億ユーロを節約しており,新たな相互依存の形を通じた新しいエネルギー関係が生み出されています。
このような相互接続は,国家間の協力を進める強力な手段となります。アフリカと中米においては,IRENAの支援により,クリーンエネルギー回廊の開発が進んでいます。こうした関係は,適切に管理されれば,電力をより廉価にし,システムの効率性を向上させ,国家間の相互依存を高めることにつながります。しかし,そのためには,外交官が,他の政府関係者とともに,よく規制された透明な市場において電力が自由に流れることができるような協力枠組みを構築する必要があります。
第二に,現在化石燃料生産量の多くを占める国々は,新たなエネルギーパラダイムを迎え入れる準備をする必要があります。そうした動きは既に始まっています。例えば,ロシアやサウジアラビアは,経済の多角化及び持続可能な成長の源泉として,再生可能エネルギーへの関心を高めています。最近行われたサウジアラビアの再生可能エネルギーの入札では,1KWhあたり1.79米セントという記録的な低価格での入札が行われ,落札されることになれば,史上最安値となります。入札者は,アラブ首長国連邦(UAE)のマスダール社及びフランスの複合企業であるフランス電力会社(EDF)でした。
UAEの指導者たちは,長年に亘り,自国の石油資産は将来に備えるために利用されるべきであると明確にし,同国の経済多様化に向けて大きな進歩を遂げてきました。10年以上前に始まり,またIRENAが本部を置いているマスダールシティは,この将来に向けた大胆なビジョンを反映した先駆的な取り組みです。
UAE政府は,昨年採択されたUAEエネルギー戦略を通じて,2050年までに総発電量における再生可能エネルギーの割合を44%に引き上げることを目指し,高い野心を示し続けています。また,再生可能エネルギーは,水の需要量が少ないエネルギー源であり,エネルギー集約型の淡水化施設に持続可能な方法で電力を供給するための手段でもあることから,水不足対策の手段としても認識されています。
重要なのは,UAEのビジョンには,現在のエネルギーパラダイムにおける同国の長年のリーダーシップを,特にIRENAのホスト国として,次のエネルギーパラダイムにおける同国のリーダーシップへとつなげていこうと同国の指導者たちが取り組んできた外交の場が含まれているということです。エネルギー外交は変容していきますが,UAEは,将来のためにいかに現在の強みを活かしていくかを示していきます。
第三に,それぞれのエネルギーパラダイムには固有の機会とリスクが存在しますが,再生可能エネルギーの時代も例外ではありません。サイバーセキュリティ上の脅威などといった課題は外交官にとって新しいものではなく,また再生可能エネルギーに端を発するものでないことは明白ですが,再生可能エネルギーへの依存度が高まるにつれ,特定のリスクを提起することになる可能性があります。新たな安全保障上の課題に対処するための戦略を策定する上では,各国の外務省が再生可能エネルギーへの関心を高めることが重要になります。
しかし,究極的には,再生可能エネルギーの可能性は,どのような潜在的なリスクをも大きく上回ります。エネルギーアクセスを向上させ,持続可能な経済成長を加速し,最も必要とされるところで雇用を創出するという再生可能エネルギーの可能性は,持続可能なエネルギーの将来が,単に必要性に迫られたものであるでなく,平和と繁栄への共通の道筋でもあるということを意味しています。このことは,現在と将来の世代の外交官の責務であり,私たちIRENAは,国際協力を通じてその将来を現実のものとするべく,引き続き皆様と協力していきます。
本記事は元々,エミレーツ外交アカデミー(EDA:Emirates Diplomatic Academy)ウェブサイト上に掲載されたものです。