経済上の国益の確保・増進

IEA・IRENA共同発行「エネルギー転換の見通し」に関する分析レポートの概要

平成29年12月4日

 国際エネルギー機関(IEA)と国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は,2017年のG20議長国であるドイツの要請を受けて,「エネルギー転換の見通し:低炭素エネルギーシステムへ向けた投資ニーズ」(全文(PDF)別ウィンドウで開く要約(PDF)別ウィンドウで開く(英語))と題する報告書を本年3月21日に発表しました。パリ協定の「世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏2度高い水準を十分に下回るものに抑えること」という目標(「2度目標」)を達成するためのエネルギーミックス,必要投資,課題などが分析されており,日本の今後のエネルギー政策を考える上で参考になります。この分析レポートの概要を解説します。

この分析レポートの目的

 温室効果ガス排出量の約2/3は,エネルギーの生産・利用に起因します。パリ協定の「2度目標」に沿ったエネルギー転換のためには,現在のエネルギー投資の状況を理解し,どう転換するかが課題です。こうした背景を踏まえ,ドイツ政府は,エネルギー転換に必要な要素についての共同分析をIEAとIRENAに要請しました。

 IEAは,「2度目標」に沿うエネルギーシナリオ分析のために,平均気温上昇を,2100年までに66%の確率で2度以下に抑制するという「66%2℃シナリオ」を新たに策定しました。これは図1に示すように,IEAが従来から採用してきた,現状のCO2排出量の半減を目指す「450シナリオ」よりも,さらにCO2排出量を4割削減するシナリオです。IRENAは,再生可能エネルギーシェアを2030年に倍増するという,従来から提示されていた「REmap」というシナリオを,2050年まで拡張して提示しました。

  • (画像1)図1 2050年までのCO2排出量削減シナリオ
    図1 2050年までのCO2排出量削減シナリオ

((注)IRENAの分析するCO2排出量は,産業プロセスなどからのCO2排出も算入しており,IEAの分析するCO2排出量よりも約10%多い)

国際エネルギー機関(IEA)による分析結果

 エネルギー部門のCO2排出量は,2020年より前にピークに達し,また2050年までに現在の水準から70%以上削減される必要があります。図2に示すように,一次エネルギー需要に占める化石燃料の割合は,2014年から2050年にかけて半減しますが,再生可能エネルギー,原子力,CCS(二酸化炭素回収・貯留:CO2 Capture and Storage)の合計は,現在の一次エネルギー需要の3倍以上となり,2050年のエネルギー需要の70%を占めます。

 66%2℃シナリオでは,化石燃料補助金の廃止,CO2価格の増額,広範囲なエネルギー市場改革などが必要となります。66%2℃シナリオを達成するためには,このような政策を全ての国で導入する必要があり,その場合CO2価格は2050年にCO21トン当たり190米ドルに達する見込みです。

 エネルギー効率の改善と,再生可能エネルギーのさらなる導入は,不可欠な要素です。66%2℃シナリオでは,世界の総GDP(国内総生産)あたりのエネルギー消費効率を,2014年~2050年の間,平均して年2.5%改善させる必要があります(これは,過去15年間より3.5倍高い改善率です)。太陽光発電と風力発電を合わせると,2030年までに最大の電源となると想定されます。これら出力変動する再生可能エネルギーを統合するために電力市場を再設計する必要があります。

 66%2℃シナリオを達成するためには,2050年までに,電気の約95%が低炭素技術で発電され,新車の70%が電気自動車となり,既存の建物全てがエネルギー効率の観点から改修され,産業部門のCO2排出率を現在より80%低くする必要があります。

 エネルギー部門への投資として,2016~2050年の間,平均して年約3.5兆米ドルが必要となります(2015年の投資額は1.8兆米ドル)。化石燃料への投資は減少しますが,再生可能エネルギー向け投資が1.5倍に増えることで相殺されます。エネルギー部門への純投資額は,2050年の世界のGDPの0.3%に相当します。

 化石燃料は,66%2℃シナリオにおいても依然重要ですが,石炭使用量は急減します。石油消費も減少しますが,一部の部門においては別のエネルギー源への代替は容易ではありません。現在の生産井の減少ペースは,需要減少のペースよりも大きいため,新たな石油供給源確保のための投資が必要となります。天然ガスは,部門横断的なエネルギー転換において重要な役割を担います。

 66%2℃シナリオでは,電力部門の座礁資産リスクの大半は石炭火力発電にあります。ガス火力発電所は,長期にわたり電力システムへの柔軟性付与(再生可能エネルギーの出力変動の緩和手段)に貢献できます。化石燃料の上流部門にも投資を回収できないリスクがあります。CCSの導入は,座礁資産を最小限に抑えるための重要な手段です。

 66%2℃シナリオが達成されると,大気汚染の大幅改善,化石燃料の輸入費用削減,民生部門のエネルギー支出の削減ももたらされます。万人へのエネルギーの普遍的アクセスを達成することは重要な政策目標ですが,この達成は気候変動の目標達成と両立できます。

  • (画像2)図2 2050年までの世界の一次エネルギー供給量の見通し
    図2 2050年までの世界の一次エネルギー供給量の見通し

((注)IRENAの分析における全供給量は,石油化学製品などの非エネルギー用途を除外しているので,IEAの分析における全供給量よりも約15%少ない)

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)による分析結果

 再生可能エネルギー・省エネ促進の施策は,エネルギー転換の重要な要素です。再生可能エネルギー・省エネは,図1に示すように,2050年時点の排出削減の90%を担い,燃料転換とCCSが約10%を担います。REmapのシナリオでは,原子力は2016年の水準に留まり,CCSは産業部門にのみ採用されています。

 一次エネルギー供給量での再生可能エネルギーのシェアは,図2に示すように,2015年の約16%から2050年に65%に増加する必要があります。世界のエネルギー経済効率(GDP1単位当たりのエネルギー消費量)は,2030年までに年間約2.5%に倍増し,2050年までこの水準で継続する必要があります。この改善の半分は,再生可能エネルギーに基づく冷暖房,輸送,電化に由来する見込みです。

 2050年のエネルギー供給の構図は大幅に変わり,化石燃料消費量は,現在の3分の1になります。石炭需要が最も減少し,石油需要は現在の水準の45%になります。天然ガスは,再生可能エネルギーの大量導入の「橋渡し」の役割を担い得るエネルギー源ですが,長期的な排出削減目標を考慮せずに天然ガスの利用が大幅拡大すると,座礁資産のリスクがあります。

 再生可能エネルギーは,図3に示すように,2050年に発電部門において支配的役割を担います。

 エネルギー転換は経済的に成立しますが,低炭素技術への追加投資が必要です。2050年までに必要とされる追加投資は累計29兆米ドルに上ります。これは,2050年の世界のGDPの0.4%に相当しますが,この脱炭素化のための投資は,その2~6倍に上る健康被害低減・気候変動緩和のためのコストの発生を抑制します。

 エネルギー部門(省エネ含む)は,2050年に約600万人分の新たな雇用を創出します。化石燃料分野での雇用損失は,再生可能エネルギー分野の新しい雇用によって完全に相殺され,省エネ分野にて,より多くの雇用が創出されます。またGDPの総体的な増加は,他の経済部門での雇用創出を促します。

 輸送部門では,電気自動車が増加し,貨物・航空分野のための新しい技術を開発する必要があります。新築の建造物が最も効率基準の高いものとなり,既存の建造物が早急に改修されることが重要です。

  • (画像3)図3 2050年までの世界の総発電量の見通し
    図3 2050年までの世界の総発電量の見通し

((注)IEAとIRENAの2050年見通しの総発電量はほぼ同じであるが,再生可能エネルギーシェアは異なる)

用語の解説

  • CO2価格:化石燃料の燃焼により排出されるCO2に設定される価格のことです。CO2に価格を設定することにより,その排出の抑制を図り,気候変動対策を加速させるため,政策的に設定されるものです。
  • 一次エネルギー:石炭,石油,天然ガス,水力を含む再生可能エネルギー,原子力など自然界から採取されたものを源として得られる電力などに変換される前の最初のエネルギーのことです。
  • TWh:電力量の単位でテラワットアワー(一兆ワットアワー)と称し,1GWの電力機器を1000時間運転したときの消費電力量に相当します。
  • Mtoe:toeは,石油換算トン(tonne of oil equivalent)と呼ばれるエネルギーの単位で,1トンの原油を燃焼させたときに得られるエネルギーを1単位としたものです。Mtoeは,百万toeを表します。石炭,天然ガスなど異なる燃料の熱量を定量的に比較するときなどに用いられます。国際単位系のジュールに換算すると,1EJは約23.9Mtoeに相当します。

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