核軍縮・不拡散
21世紀の原子力エネルギーに関する国際閣僚会議
平成29年11月8日
10月30日~11月1日,アラブ首長国連邦(以下,「UAE」)のアブダビにおいて,「21世紀の原子力エネルギーに関する国際閣僚会議」(注)(IAEA,UAE主催,OECD/NEA協力)が開催され,60カ国及び6の国際機関からの閣僚レベル他高官,専門家の参加を含む約700名が参加した。我が国からは,北野充在ウィーン常駐代表部大使(政府代表)他が参加したところ,概要は以下のとおり。
(注)国際原子力機関(IAEA)は,持続可能な発展への原子力エネルギーの貢献,原子力エネルギーの今後の課題等についてハイレベルで議論を行うため,経済協力開発機構(OECD/NEA)の協力の下,本件閣僚会議を4年ごとに開催してきており,今次会合は第4回にあたる。
1 全体会合
- (1)オープニングセッションでは,マズルーイUAEエネルギー産業大臣,天野IAEA事務局長,マグウッドOECD/NEA事務局長がそれぞれ開会挨拶を行った。
- (2)その後,各国の政府代表がステートメントを行った。我が国からは,北野充在ウィーン常駐代表部大使が,世界のエネルギー需要が引き続き増加する中,経済成長とエネルギー安全保障を両立させつつ地球環境問題に取り組む上で,原子力は重要なエネルギー源の一つであり,我が国は,各国とともに,原子力の利用に当たって取り組むべき様々な課題,例えば原子力安全の強化,公衆理解や透明性の確保,最終処分等に取り組んでいく旨のステートメントを行った。
2 パネルセッション
以下4つのテーマ別のパネルセッションが行われた。
- (1)パネル1「3Esトリレンマ解決の鍵としての原子力エネルギー」(「Nuclear Power as a key to Solving the ‘3Es’ Trilemma」
- 参加者からは,3E(経済(Economy),環境(Environment),エネルギー(Energy)とS(安全性)のトリレンマを解決する上で,原子力エネルギーはクリーン,安価で豊富に存在するエネルギー源であり,原子力だけが環境を守りつつ人類を貧困から救うことができるとの意見や,気候変動問題に対処する上で,これまで以上にエネルギーに注目すべきとの意見が見られた。また,原発建設にかかるファイナンスをいかに確保するかについては,原発建設プロジェクトの実現可能性や採算性に対する信用確保や,原子力安全に対する信頼やパブリック・アクセプタンスが重要であることが指摘された。
- (2)パネル2「原子力エネルギーのインフラ開発における課題」(「Challenges in Developing Nuclear Power Infrastructure」)
- 同パネルディスカッションでは,新規導入国における関連インフラ構築や技術移転をいかに行っていくかについて問題提起がなされたのに対し,原発輸出国側からは,原発建設及び稼働プロセスを通じて相手国に対する経験の共有を行っているといったやり取りがあった。また,IAEAからは,新規導入国を含め,ワークショップ等を通じて原子力安全のスタンダードの共有を等行っている旨の説明があった。
- (3)パネル3「原子力エネルギーの安全と信頼性の側面」(「Safety and Reliability Aspect of Nuclear Energy」)(近藤駿介・前原子力委員会委員長(原子力発電環境整備機構理事長)が参加。)
- 各参加者から,原子力に対する安全と信頼性を向上する観点から,核燃料サイクルに関する各国の取組や原子力安全専門家育成の取組について説明があるとともに,Google Glassや3D印刷技術,ワイヤレスセンサー,ドローン等の最新技術の活用についても説明があった。近藤理事長からは,福島第一原発事故後の安全対策の強化や燃料デブリ取出等の取組につき説明を行った。また,原子力安全向上のためには国際的な協力と原子力安全条約の強化,適切な人材育成と配置が重要であり,また,パブリック・アクセプタンス確保のためには国民をプロセスに関与させていくことが必要であり,福島第一原発事故の教訓を引き続き頭に留めつつ,原子力安全文化の強化に努めるべきとの総括がされた。
- (4)パネル4「原子力技術のイノベーションと進歩」(「Innovations and Advances in Nuclear Technologies」)
- 本パネルにおいては,ロシア,中国,アルゼンチンから,自国で開発を行っている原子炉についての技術的な説明があり,フィンランドからは,同国における深地層処分場建設についての説明があった。
3 サイドイベント
- (1)UAEサイドイベント:「The UAE’s Journey Towards peaceful Nuclear Energy」
- アル・カービ議長(在ウィーンUAE常駐代表部大使)から,2008年の包括的原子力エネルギー政策の発表をはじめ,UAEの原子力分野における取組についてのプレゼンテーションが行われた。
- (2)IAEA/NEAサイドイベント:「Facilitating International Cooperation」
- IAEA,OECD/NEAから,両機関が行っている安全性の向上に向けた支援についての説明があった。
4 議長ステートメントの採択
本会議最終日の11月1日,議論の総括として,議長ステートメントが発表された。議長ステートメントの主な内容は以下のとおり。
- 本件会議では,3E(Energy-Economy-Environment)のトリレンマの主要な解決策としての原子力エネルギー,及び,原子力エネルギーのインフラ開発,原子力エネルギーの安全性や信頼性の側面,原子力技術の刷新や進歩における課題を含む一連の事項につき議論が行われた。
- 原発建設に関し,投資家が政策決定者からの明確化や確実性を必要としていること,及び,政府は既存の,また,新規の原子力エネルギー能力を支援する明確且つ一貫した政策を提供することが出来ることが留意された。また,原子力エネルギー計画のための開発支援,及び,プロジェクトの実行可能性を確保するための低コスト且つ長期返済を含む,国際的なガイドラインに合致した手頃なファイナンスの重要性が強調された。
- 本件会議に参加した開発途上国を主とする多くの国々は,原子力エネルギー導入への関心を示し,また,いくつかの国は,同国における原子力エネルギー利用の拡大を意図している。
- 現在生産されている原子力エネルギーは,世界の低炭素電力の約3分の1を占めており,毎年400万台の車の廃棄に相当する2ギガトンの二酸化炭素の排出を回避させている。技術とマネージメントの継続的な改良とイノベーションにより,原子力エネルギーはより安全に,信頼できるものとなっている。稼働中の原発の圧倒的多数は深刻な自然アクシデントに対する防護とその影響の低減を目的とした安全の包括的な再評価を受けていることが留意され,全ての国の間に,福島第一原発事故の全ての教訓を考慮に入れた,原子力安全,セキュリティ,緊急時対応及び人と環境のための放射線防護の継続的改良と強化に対する共通の関心があることが留意された。
- 使用済み燃料の安全なマネージメント及び放射性廃棄物の処理は原子力エネルギーの持続的発展において大きな重要性を有することが再確認された。また,過去数年間における原子炉設計における継続的改良が認識され,前回の会議以降,技術提供者による発展的設計や追加的な安全設計を備えた原子炉が稼働し,進んだ段階にあることが留意された。
- 多くの国にとって,原子力エネルギーは実証済みの,クリーンで安全且つ経済的な技術であり,エネルギー安全保障,化石燃料の不安定な価格変動のインパクト低減及び気候変動や大気汚染の影響の低減において,一層重要な役割を果たすであろうことが結論づけられた。
- 多くの国々にとって,原子力エネルギーは持続可能な開発目標及びパリ協定の目標を達成する上で重要な役割を果たすこと,また,原子力エネルギー,安全及びセキュリティのガイダンスの確立,原子力エネルギー開発に向けた国際協力の醸成及び国際的な安全,セキュリティ,保障措置の強化に向けた支援におけるIAEAの中心的役割が認識された。