核軍縮・不拡散

令和6年9月26日
上坂充内閣府原子力委員会委員長による一般討論演説
グロッシーIAEA事務局長と握手をする上坂充内閣府原子力委員会委員長

 9月16日から20日まで、ウィーンにおいて国際原子力機関(IAEA)第68回総会が開催されたところ、概要は以下のとおり。

1 上坂充内閣府原子力委員会委員長による一般討論演説

 上坂充内閣府原子力委員会委員長は、我が国政府代表として総会に出席し、9月16日(総会初日)に、日本として以下3点を重視する旨の一般討論演説を行った(和文(PDF)別ウィンドウで開く英文(PDF)別ウィンドウで開く)。

  1. NPTの3本柱の1つであり、SDGs達成にも資する原子力の平和的利用への貢献
  2. 原子力の平和的利用における最高水準の原子力安全、核セキュリティ及び保障措置の確保
  3. 北朝鮮等の地域における不拡散課題やイラン核問題の解決とウクライナの原子力安全・核セキュリティの確保

2 主要な議題

(1)北朝鮮の核問題

 以下を主な内容とする決議がコンセンサスで採択された。

  • 北朝鮮に対して、関連安保理決議に基づく全ての義務を完全に遵守し、全ての核兵器及び既存の核計画の完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での放棄に向けた具体的措置をとり、全ての関連活動を即時に停止することを強く求める。
  • 全ての加盟国が、関連国連安保理決議に従って、自らの義務を完全に履行することの重要性を強調する。
  • 北朝鮮に対して、NPTの義務を完全に遵守し、IAEAによる保障措置の実施に対し迅速に協力するよう求める。

 決議採択後、日米韓3か国は、同決議のコンセンサス採択を歓迎するとともに、北朝鮮に対して、全ての大量破壊兵器、あらゆる射程の弾道ミサイル及び関連する計画の完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄に向けた具体的措置をとることを強く求めるとともに、北朝鮮による弾道ミサイルの輸出等を含め、拡大する露朝間の軍事協力を強く非難し、また、IAEA事務局が続ける検証能力及び態勢強化の取組への支持を表明する旨の共同ステートメント(英文)(PDF)別ウィンドウで開くを実施した。

(2)保障措置の強化・効率化

 以下を主な内容とする決議がコンセンサスで採択された。

  • 保障措置は、核不拡散のための中核的な要素であり、効果的・効率的な保障措置の必要性、各保障措置協定締結国による協定上の義務の完全な履行の重要性を強調する。
  • 事務局長から理事会に対し、引き続き国レベル・アプローチの適用を通じて得られた知見を適宜報告する。

(3)中東におけるIAEA保障措置の適用

 以下を主な内容とする決議が賛成多数で採択された。

  • 全ての中東域内国に対してNPTへの加入及びIAEA保障措置に関連する国際的な義務の遵守を求めるとともに、全ての関係国に対して域内の非核兵器地帯設立に向けた取組を求める。

(4)原子力安全

 以下を主な内容とする決議がコンセンサスで採択された。

  • 加盟国に対し、原子力・放射線安全インフラおよび関連する科学的・技術的能力を開発、維持、改善するよう奨励し、また、事務局に対し、要請があれば、その点を支援するよう要請する。
  • 原子力安全関連条約の締結及びその義務の履行を加盟国に要請する。
  • 小型モジュール炉、第4世代炉等の先進炉に関し、規制面に関する情報交換と経験の共有を奨励する。
  • IAEA事務局は、原子力または放射性物質の事故への対応における役割を認識し、影響を受ける国と協力しながら、情報収集、検証、評価を行い、加盟国に対し、適時に情報提供を行う。
  • 原子力施設に対する攻撃に関し、原子力安全及び核セキュリティ、物理的防護の重要性を認識し強調する。IAEA事務局長が示した、原子力安全及び核セキュリティの7つの柱及びザポリッジャ原発に関する5つの原則に留意する。

(5)核セキュリティ

 以下を主な内容とする決議がコンセンサスで採択された。

  • 国際社会の核セキュリティ強化におけるIAEAの中心的な役割を確認する。サイバー攻撃に対する効果的対策を奨励する。
  • 新たな技術に係る課題への対応や人材育成の重要性を確認する。
  • 平和目的に利用される原子力施設に対するいかなる攻撃または攻撃の脅威も、核セキュリティを損なう可能性があることを認識し、IAEA事務局長により示された「原子力安全及び核セキュリティの7つの柱」の重要性に留意する。

(6)原子力科学技術・応用の活動強化

 以下を主な内容とする決議がコンセンサスで採択された。

  1. 非発電分野
     保健・医療、食料・農業、水資源管理、サイバースドルフ原子力応用研究所の改修事業等にかかるIAEAの活動等を支持するとともに、更なる強化を求める。
  2. 発電分野
    • 低炭素エネルギー源としての原子力発電の普及に向けたIAEAの取り組みを賞賛する。
    • 小型モジュール炉に関する国際的な情報交換の促進や加盟国への支援をIAEAに奨励する。
    • 原子力分野での女性の活躍推進に向けたマリー・キュリー奨学金プログラムやリーゼ・マイトナープログラムの進捗状況の報告をIAEAに要請し、加盟国にこれらのプログラムへの支援を奨励する。

(7)技術協力活動の強化

 以下を主な内容とする決議がコンセンサスで採択された。

  • 技術協力活動の支援及び、強化に向けた加盟国の共同の責任、原子力の平和的利用の促進に向けた技術協力活動の重要性やこれら活動を通じたSDGsの達成等への貢献に期待する。
  • IAEAに対し、効率的・効果的な事業の実施、資源動員の強化、加盟国やその他関連するパートナーとの協力の強化等を求める。

(8)ウクライナにおける原子力安全、核セキュリティ及び保障措置

 以下を主な内容とする決議が賛成多数で採択された。

  • ウクライナの原子力施設に対する全ての行為を直ちに停止するよう求める過去のIAEA理事会決議にロシアが留意していないことに懸念を表明する。
  • 特に公式に認められていない軍事要員等がザポリッジャ原発から即時撤退すること及びウクライナ当局の管理下へ同原発を迅速に戻すことを呼びかける。
  • IAEA事務局長による7つの柱及び5つの原則を含むウクライナにおけるIAEAの原子力安全等確保の取組を評価・支持する。

3 IAEA及び他国政府代表とのバイ会談

 上坂委員長は、我が国政府代表として、IAEA総会のマージンで、グロッシーIAEA事務局長、フルビー米エネルギー省核安全保障庁(NNSA)長官、ジャック仏原子力代替エネルギー庁(CEA)長官等とそれぞれバイ会談を実施し、原子力分野における連携強化に向けて意見交換を行った。

 グロッシー事務局長とは、ALPS処理水の海洋放出に係るIAEAとの連携、原子力の平和的利用におけるIAEAとの協力等につき意見交換した。その他の各国とのバイ会談では、日本と各国の原子力政策の現状につき情報共有した上で、今後の協力の在り方について意見交換を行った。

4 日本政府代表及び在ウィーン国際機関日本政府代表部大使主催レセプション

 福島の食や観光を含む日本の魅力、ALPS処理水の安全性、並びに原子力の平和的利用における日本の取組をPRするレセプションを開催し、福島県産の米を使用した寿司、福島県産の日本酒を提供した。レセプションでは、各国代表団や国際機関関係者等200人以上が参加し、上坂委員長及び海部篤在ウィーン国際機関日本政府大使から挨拶を行った。

5 サイドイベント

  1. 日本政府はIAEA総会の機会を捉え、以下のテーマでサイドイベントを主催した。
    • 東京電力福島第一原子力発電所の廃炉と福島の復興
       同サイドイベントでは、経産省や東京電力等から、廃炉と福島県における復興の概観、東京電力福島第一原子力発電所における廃炉の現状、燃料デブリの取り出し、オフサイトにおける取組の進捗を発信した。また、IAEAからALPS処理水の海洋放出に関連する取組の紹介がなされた。
    • 転移がんに有効とされるα線放出核種を用いた核医学治療の臨床研究と社会実装
       同サイドイベントでは、上坂委員長から日本の核医学治療の現状と展望を紹介した上で、有識者によるアルファ線治療の課題についてパネルディスカッションやプレゼンテーションを実施し、日本における核医学治療の研究状況を発信するとともに、国際社会との連携強化に取り組んだ。
  2. また、スウェーデン主催のウクライナの原子力安全及び核セキュリティに関するサイドイベントに、ウクライナにおける「平和フォーミュラ」第一作業部会共同議長国として、海部大使が登壇したほか、原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)の加盟国で共催したサイドイベントに、中野隆史RCA日本政府代表(量子科学技術研究開発機構QSTアソシエイト)が登壇した。

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