核軍縮・不拡散

令和3年9月28日
ビデオ録画により一般討論演説を行う井上内閣府特命大臣 井上信治内閣府特命担当大臣の一般討論演説 日本原子力産業協会提供
写真撮影する上坂内閣府原子力委員会委員長とグロッシーIAEA事務局長の様子 上坂充内閣府原子力委員会委員長とグロッシーIAEA事務局長 IAEA提供

 9月20日から24日まで、ウィーンにおいて国際原子力機関(IAEA)第65回総会が開催されたところ、概要は以下のとおり。

1 井上信治 内閣府特命担当大臣のビデオ演説

 9月20日(総会初日)、井上信治内閣府特命担当大臣が一般討論演説(ビデオ録画)を行った(和文(PDF)別ウィンドウで開く英文(PDF)別ウィンドウで開く)。なお、総会には、上坂充内閣府原子力委員会委員長と引原毅在ウィーン日本政府代表部大使が我が国政府代表として出席した。

 演説の冒頭、世界中で新型コロナウイルス感染症への対応という未曽有の挑戦が続く中、IAEAはその専門性を活用し、加盟国の感染症検査の強化や動物由来の感染症対策の能力構築といった、ポスト・コロナも見据えた国際的な感染症対策を推進している旨述べ、国際社会の重要課題に迅速に対応するグロッシー事務局長の強いリーダーシップに敬意を表し、日本は、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大以後、ZODIAC(統合的人畜共通感染症行動)事業を含む、感染症対策に合計1100万ユーロを拠出し、IAEAの取組を力強く支援する旨発言した。

 次に、原子力の平和的利用は、世界の社会・経済的発展とSDGs達成に貢献する重要な柱であり、日本はIAEAの技術協力活動やPUI(平和的利用イニシアティブ)を通じて、これを力強く後押ししている。例えば、海洋プラスチックごみ問題に対処するNUTEC Plastics事業やサイバースドルフ原子力応用研究所を強化するReNuALの2事業に各100万ユーロを拠出する等、IAEAと緊密に協働していく旨述べた。

 併せて、ジェンダー平等の実現は、原子力利用と核不拡散分野の裾野を広げ、日本は、原子力分野への女性科学者の進出を支援するため、マリー・キュリー奨学金事業を立上げの段階から協力しており、今後とも支援を続ける旨述べた。

 これに続き、本年3月に東日本大震災から10年の節目を迎えたことを述べ、11月には、原子力安全を更に強化するためIAEA主催の専門家会議が開催される予定である点に触れた。その上で、東京電力福島第一原発では「復興と廃炉の両立」を大原則に廃炉に向けた取組が進められており、その進捗に応じてIAEAのレビューが行われている、本年4月、日本政府は、サイトに保管されたALPS処理水について、約2年後を目途に安全を確保した上で海洋放出を開始するとの基本方針を公表し、IAEAレビュー報告書で、「廃炉計画全体の実行を促進するもの」と評価された、日本はIAEAとの協力を重視しており、7月にはALPS処理水の取扱いに係る包括的な協力に関する付託事項に署名し、8月には梶山経済産業大臣がウィーンでグロッシー事務局長に改めて協力を要請した点に言及した。今後は、ALPS処理水の安全性や規制面及び海洋モニタリングについてIAEAのレビューが行われる、日本は、東京電力福島第一原発の状況について、国際社会に対して、科学的根拠に基づき透明性をもって説明を継続するとともに、各レビューの実施に向けてIAEAと協力していく旨も述べた。

 さらに、核不拡散の中核的手段であるIAEAの保障措置の強化・効率化も重要であり、IAEAの取組を強く支持する旨を述べ、日本は、先月公表された事務局長報告書での指摘を含め、北朝鮮の核開発の動向について、引き続き重大な関心を持って注視すること、そして、米朝の間で対話が再開されることを支持するとともに、関連安保理決議の下で我々が共有する共通目標である、北朝鮮による全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄に向けた具体的な動きが進展することを強く期待する旨を強調するとともに、全ての国が関連する安保理決議を完全に履行することの重要性を強調する、北朝鮮の非核化を実現する上で検証は不可欠であり、IAEA事務局による検証能力及び態勢強化の取組を高く評価する点に言及した。

 併せて、イラン核合意をめぐり、関係国の間で断続的に前向きな対話が行われてきたことを支持する、早期の核合意履行復帰に向けて、イラン新政権下でも対話が進展することを期待する旨を述べた。更に、核合意は国際不拡散体制の強化に資するものであり、イランに対し、核合意を損なう挑発的な措置を控えるよう強く求める、8月、日本は、発足直後のイラン新政権の政府要人に対し、早期の核合意復帰に向けて建設的に取り組むよう強く求め、一連の保障措置問題についても、イランに対し、IAEAと完全にかつ即座に協力するよう求める旨述べた。

 最後に、国際的な核軍縮・核不拡散体制の礎石である核兵器不拡散条約(NPT)については、第10回運用検討会議も控えており、同会議が意義ある成果を上げ、NPT体制の維持・強化につながり、その中でIAEAも一層重要な役割を果たすことを期待し、IAEAへの最大限の支援の継続を改めて表明した。

2 主要な議題

(1)北朝鮮の核問題

 北朝鮮に対して、全ての核兵器及び既存の核計画の完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での放棄並びに全ての関連活動の速やかな停止に向けた具体的措置をとることを強く求めること、また、全ての加盟国が、関連安保理決議に従って、自らの義務を完全に履行することの重要性を強調することなどを内容とする北朝鮮の核問題に関する決議がコンセンサスで採択された。

(2)保障措置の強化・効率化

 保障措置は、核不拡散のための中核的な要素であり、効果的・効率的な保障措置の必要性、各保障措置協定締結国による協定上の義務の完全な履行の重要性を強調するとともに、事務局長から理事会に対し、引き続き国レベル・アプローチの適用を通じて得られた知見を適宜報告すること等を内容とする決議がコンセンサスで採択された。

(3)中東におけるIAEA保障措置の適用

 全ての中東域内国に対してNPTへの加入及びIAEA保障措置に関連する国際的な義務の遵守を求めるとともに、全ての関係国に対して域内の非核兵器地帯設立に向けた取組を求めること等を内容とする決議が賛成多数で採択された。

(4)原子力安全

 原子力発電及び放射線技術の導入を検討している国の増加に伴い、加盟国の取組及び基盤の維持・向上のためのIAEA及び加盟国間の支援を奨励すること、原子力安全関連条約の締結及びその義務の履行を加盟国に要請すること、可搬型(水上浮揚型)、小型モジュール炉、第4世代炉等の先進炉に関する原子力安全の観点からの継続的な検討をIAEAに要請すること、原子力事故時に適切に情報共有し、原子力発電及び放射線技術を扱う事業者・関係当局・公衆・国際社会における透明性を向上すること等を内容とする決議がコンセンサスで採択された。

(5)核セキュリティ

 国際社会の核セキュリティ強化におけるIAEAの中心的な役割を確認し、2020年に開催されたIAEA核セキュリティ国際会議(ICONS2020)の閣僚宣言を考慮した2022-2025年のIAEA核セキュリティ計画がコンセンサスで採択された。また、2022年の改正核物質防護条約に関するレビュー会議に向けた準備を歓迎、サイバー攻撃に対する効果的対策を奨励し、新たな技術に係る課題への対応や人材育成の重要性等を確認する内容の決議がコンセンサスで採択された。

(6)原子力科学・応用活動強化等

 原子力技術の応用に関し、保健・医療、水資源管理、サイバースドルフ原子力応用研究所の改修事業等にかかるIAEAの活動等についての決議がコンセンサスで採択された。

(7)原子力エネルギー

 原子力エネルギーの平和的利用に向けたIAEAの役割を確認しつつ、原子力発電所の経年劣化管理に関する支援をIAEAに要請すること、原子力に関する知識管理にかかる対応をIAEAに要請すること、また、小型モジュール炉を含む先進的な原子力技術に関する国際的な情報交換を促進するための分野横断的なプラットフォームの立ち上げや原子力分野での女性の活躍推進に向けたマリー・キュリー奨学金プログラムの進捗を歓迎すること等を内容とする決議がコンセンサスで採択された。

(8)技術協力活動強化

 技術協力活動の支援、強化に向けた加盟国の共同の責任、原子力の平和的利用の促進に向けた技術協力活動の重要性やこれら活動を通じた持続可能な開発目標(SDGs)の達成等への期待、IAEAに対し、効率的・効果的な事業の実施、資源動員の強化、加盟国や国際機関等との協力の強化等を求める決議がコンセンサスで採択された。

(9)IAEAと新型コロナウイルスの感染拡大

 新型コロナウイルス感染症拡大下においてIAEAが加盟国及び非加盟国に対して実施したPCR検査機器の供与等の支援を歓迎するとともに、感染症の拡大下においてIAEAがその機能を維持することを求める旨の決議がコンセンサスで採択された。

(10)ZODIAC(統合的人畜共通感染症行動)

 グロッシー事務局長の新たなイニシアティブであるZODIAC事業に関し、同事業にかかる課題の優先順位付け、プロジェクト実施の詳細な計画等を含む加盟国への更なる情報提供や、原子力及び原子力由来技術に焦点を置いた取組、効果的・効率的で重複のない事業の運用、FAOやWHO等の他の国際機関との役割の調整、本事業に係る進捗報告等をIAEAに求める決議がコンセンサスで採択された。

(11)人事・女性

 IAEA事務局内における発展途上国からの職員の増加、望ましい数に達していない国の職員の増加及び女性職員の割合を増加させる取組につき、IAEA総会における人事(事務局職員及び事務局における女性)に関する決議がコンセンサスで採択された。

3 第三国とのバイ会談

 政府代表として派遣された上坂充内閣府原子力委員会委員長は、IAEA総会のマージンで、グロッシーIAEA事務局長、フルービー米エネルギー省核安全保障庁(NNSA)長官、ジャック仏原子力代替エネルギー庁(CEA)長官とバイ会談を実施した。
 グロッシー事務局長とは、日IAEA関係の強化に向けた具体的方策及び東京電力福島第一原発の廃炉や安全性を確保した上でのALPS処理水の海洋放出に係る協力につき意見交換をした。フルービーNNSA長官とは、主に日米核セキュリティ協力につき議論するとともに、ジャックCEA長官とは、日仏の原子力エネルギー政策や原子力安全協力について意見交換をした。


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