核軍縮・不拡散

令和2年10月1日

 9月21日から25日まで、ウィーンにおいて国際原子力機関(IAEA)第64回総会が開催されたところ、概要は以下のとおり。

1 井上信治 内閣府特命担当大臣のビデオ演説

 9月21日(初日)、井上信治内閣府特命担当大臣が一般討論演説(ビデオ録画)を行った(和文(PDF)別ウィンドウで開く英文(PDF)別ウィンドウで開く)。

 演説の冒頭、新型コロナウイルス感染症との闘いが続く中、IAEAの機能をこれまでどおり発揮するよう取り組んでいるグロッシー事務局長のリーダーシップに敬意を表すとともに、本年2月のグロッシー事務局長の訪日について、安倍前総理大臣をはじめとする政府関係者との会談や東京電力福島第一原発等の視察などを通じて、日本とIAEAとの協力強化を進める有意義な機会となった旨述べた。

 次に、現在、東京電力福島第一原発では廃炉の取組が着実に進められており、その中でALPS処理水の処分が課題となっており、同原発を訪問したグロッシー事務局長からは、この廃炉の取組は「体系的かつ周到」であること及び、ALPS処理水の処分方法の2つの選択肢は技術的に実現可能であり、国際慣行に沿っているとの認識が示された、同処理水の取扱いは、IAEAレビュー報告書の助言も踏まえ検討中であり、今後とも、IAEAの支援を得つつ、本件にしっかりと取組み、丁寧かつ透明性をもって国際社会に説明していく旨述べた。

 また、原子力の平和的利用は、世界の社会・経済的発展と「持続可能な開発目標(SDGs)」達成に貢献する重要な柱である、事務局長が新たに推進する新型コロナウイルス感染症の検査能力向上やZODIAC(統合的人畜共通感染症行動)、マリー・キュリー奨学金の取組は、IAEAの国際社会での価値を高めるものであり、我が国も力強く支持している、PUI(平和的利用イニシアティブ)を通じて、新型コロナウイルス感染症対策に400万ユーロ、奨学金支援に50万ユーロを拠出した旨述べた。

 さらに、核不拡散の中核的手段であるIAEAの保障措置の強化・効率化も重要であり、IAEAの取組を強く支持する、日本は、関連する国連安保理決議に従った、北朝鮮の全ての大量破壊兵器、あらゆる射程の弾道ミサイル並びに関連計画及び施設の完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法による廃棄を実現するために国際社会と協働していくという強いコミットメントを再確認し、国際社会が一体となって米朝プロセスを後押しするとともに、関連する安保理決議を完全に履行することが重要である旨述べた。

 最後に、イランについて、日本は核合意を引き続き支持し、イランによるコミットメントの継続的な低減を強く懸念する、そうした中、イランとIAEAとの8月26日の共同ステートメントを歓迎し、イランが原子力に関する全ての義務に従い、IAEAと完全に協力するよう求める旨述べた上で、IAEAへの最大限の支援の継続を改めて表明した。

 なお、総会には、引原毅在ウィーン日本政府代表部大使が我が国政府代表として出席した。

2 主要な議題

(1)北朝鮮の核問題

 北朝鮮に対して、全ての核兵器及び既存の核計画の完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での放棄並びに全ての関連活動の速やかな停止に向けた具体的措置をとることを強く求めること、また、全ての加盟国が、関連安保理決議に従って、自らの義務を完全に履行することの重要性を強調することなどを内容とする北朝鮮の核問題に関する決議がコンセンサスで採択された。

(2)保障措置の強化・効率化

 保障措置は、核不拡散のための中核的な要素であり、効果的・効率的な保障措置の必要性、各保障措置協定締結国による協定上の義務の完全な履行の重要性を強調するとともに、事務局長から理事会に対し、引き続き国レベル・アプローチの適用を通じて得られた知見を適宜報告すること等を内容とする決議がコンセンサスで採択された。

(3)中東におけるIAEA保障措置の適用

 全ての中東域内国に対してNPTへの加入及びIAEA保障措置に関連する国際的な義務の遵守を求めるとともに、全ての関係国に対して域内の非核兵器地帯設立に向けた取組を求めること等を内容とする決議が賛成多数で採択された。

(4)原子力安全

 原子力発電及び放射線技術の導入を検討している国の増加に伴い、加盟国の取組及び基盤の維持・向上のためのIAEA及び加盟国相互の支援を奨励すること、原子力安全関連条約の締結及びその義務の履行を加盟国に要請すること、可搬型(水上浮揚型)、小型モジュール炉、第4世代炉等の先進炉に関する原子力安全の観点からの継続的な検討をIAEAに要請すること、原子力事故時に適切に情報共有し、原子力発電及び放射線技術を扱う事業者・関係当局・公衆・国際社会における透明性を向上すること等を内容とする決議がコンセンサスで採択された。

(5)核セキュリティ

 国際社会の核セキュリティ強化におけるIAEAの中心的な役割を確認しつつ、2020年に開催されたIAEA核セキュリティ国際会議(ICONS2020)の閣僚宣言を考慮し2022~2025年のIAEA核セキュリティ計画を策定するよう各加盟国に呼びかけ、2021年の改正核物質防護条約に関するレビュー会議に向けた準備を歓迎した。また、サイバー攻撃に対する効果的対策を奨励し、新たな技術に係る課題への対応や人材育成の重要性等を確認する内容の決議がコンセンサスで採択された。

(6)原子力科学・応用活動強化等

 原子力技術の応用に関しては、保健・医療、水資源管理、サイバースドルフ原子力応用研究所の改修事業等にかかるIAEAの活動についての決議がコンセンサスで採択された。

(7)原子力エネルギー

 原子力エネルギーの平和的利用に向けたIAEAの役割を確認しつつ、原子力の新規導入国の基盤整備や原子力発電所の運転技術の確立に向けた支援をIAEAに要請すること、小型モジュール炉を含む先進的な原子力技術に関する国際的な情報交換を促進するようIAEAに要請すること、原子力発電所の経年劣化管理に関する加盟国の支援をIAEAに要請すること、原子力に関する知識管理にかかる対応をIAEAに要請すること、また、原子力分野での女性の活躍推進に向けたマリー・キュリー奨学金プログラムの実施を歓迎すること等を内容とする決議がコンセンサスで採択された。

(8)技術協力活動強化

 技術協力に関しては、原子力の平和的利用の促進に向けたIAEAによる技術協力活動の強化やこの活動を通じた持続可能な開発目標(SDGs)の達成等の開発課題への継続的な取組、効率的・効果的な事業の実施、資源動員の強化、加盟国や国際機関等との協力強化等をIAEA事務局に求める決議がコンセンサスで採択された。

(9)IAEAと新型コロナウイルスの感染拡大

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けたIAEAの取組に関し、同感染症拡大下でのIAEAの機能の維持や加盟国に対するPCR検査機器の供与等の同感染症対策支援を歓迎する旨、また、FAOやWHO等の国際機関との協力の重要性を確認する旨の決議がコンセンサスで採択された。

(10)ZODIAC(統合的人畜共通感染症行動)

 グロッシー事務局長の新たなイニシアティブであるZODIAC事業に関し、IAEAによる人畜共通感染症対策支援である本件事業の提案を歓迎するとともに、同事業にかかる加盟国への更なる情報提供や、原子力及び原子力由来技術に焦点を置いた取組、効果的・効率的で重複のない事業の運用、FAOやWHO等の他の国際機関との役割の整理等を求める決議がコンセンサスで採択された。


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