軍縮・不拡散・原子力の平和的利用

平成26年12月25日

1 全体概要

 12月8~9日,オーストリア・ウィーンのホーフブルク宮殿において,同国政府主催により,第3回核兵器の人道的影響に関する会議が開催された。同会議は,第1回オスロ会議(2013年3月),第2回ナジャリット会議(2014年2月)に引き続き,核兵器の使用がもたらす様々な影響について,専門家のプレゼンテーションと共に事実に基づく議論を行うことを趣旨とする国際会議であり,158か国,国連,赤十字国際委員会,NGO及び学術界等が参加した。我が国からは,佐野利男軍縮代表部大使を団長とし,朝長万左男日本赤十字社長崎原爆病院長,星正治広島大学名誉教授,田中熙巳日本原水爆被害者団体協議会事務局長他計8名が我が国代表団として出席した。なお,5核兵器国(米・英・仏・中・露)からは,米国と英国が初めて参加した。

2 議論の概要

(1)開会

 冒頭,クルツ墺外相より,冷戦後人々は核兵器の恐怖を忘れたものの,世界には依然として16,000もの核弾頭が存在しており,その多くが高度警戒態勢状態にある,核軍縮の進展は未だ遅いが,核兵器が持つ危険性に目を向けなければならないと述べつつ,核兵器廃絶に向けた行動を呼びかけた。ケイン国連上級代表は,今次会議が核軍縮に向けた一層の決意となることを期待する旨の潘国連事務総長からのメッセージを代読し,マウアー赤十字国際委員会(ICRC)総裁は,いかなる国及び国際機関も核爆発に対する直後の被害に対処する能力は持っておらず,核兵器は法的拘束力ある国際約束の形で廃絶されなければならないと述べた。また,サーロー節子氏は,自らの被爆体験を語り,今次会議において核兵器禁止条約の交渉を行うプロセスを開始すべきと訴え,トマシ・バチカン市国大司教は,平和と友愛の精神に基づき,核兵器のない世界に向けて開かれた議論が行われるべきとのフランシス法王のメッセージを代読した。

(2)セッション1~4

 以下の議題の下,核兵器の非人道的影響について科学的・技術的観点からパネリストによる発表と聴衆からの質疑応答が行われた。星教授からは,セッション1bの後の質疑応答において,放射線量評価専門家としての研究結果に基づき,ベータ線の被曝と内部被曝,マーシャル諸島での核実験の際のマグロ漁船員の被曝についてさらなる研究の必要性について発言がなされた。

セッション1a「核兵器爆発の影響」
セッション1b「核実験の影響」
セッション2「故意又は偶発的な核兵器使用のリスク要因」
セッション3「核兵器使用等に関するシナリオ,課題及び対処能力」
セッション4「国際規範と核兵器の非人道的影響の鳥瞰図」

(3)一般討議

 100を超える国,国際機関,NGOが発言を求め,それぞれの立場を述べた。冒頭,田中事務局長から,自らの被爆体験を語り,核兵器廃絶に向けた思いを訴えた。非同盟運動(NAM)諸国を中心に,核兵器の禁止に向けたプロセスの開始を求める声が出された一方,核兵器国である米英及びNATO諸国,豪州,韓国等からは,現実的かつ実践的アプローチに基づく,ステップ・バイ・ステップによる核軍縮を支持する立場も示された。

 我が国からは,佐野軍代大使から,(1)核兵器の非人道的影響について国境と世代を越えて伝達していくべきこと,(2)こうした議論があらゆる核軍縮・不拡散上の取組を根本的に支えるものであるとの認識の下,各国が共通の基盤に注目し,「核兵器のない世界」に向けて国際社会が結束すべきこと,(3)そのために具体的で実践的な複数の核軍縮・不拡散の取組を同時並行的に進めていく(「ブロック積み上げ方式」)べきことを訴えるステートメント(英文 (PDF) 別ウィンドウで開く仮訳 (PDF) 別ウィンドウで開く)を実施した。

(4) 議長総括

 会議の最後に,クメント墺軍縮・軍備管理・不拡散局長より,主催国の責任の下,会議の内容を総括する議長総括(英文 (PDF) 別ウィンドウで開く仮訳 (PDF) 別ウィンドウで開く)が発出された。議長総括の主なポイントは次のとおり。

ア 主な結論

  • 核兵器爆発の影響は,国境に縛られず,環境・気候・健康・社会経済開発等に対する地域的・地球規模の結末を生じさせる。
  • 核兵器が存在する限り,核兵器爆発の可能性は残る。その可能性が低いとしても,核兵器爆発の悲惨な結末に鑑みると,そうしたリスクは受け入れがたい。
  • 国際紛争・緊張や核兵器保有国の現状の安全保障ドクトリンに鑑みると,核兵器が使用され得る多くの状況が存在する。
  • いかなる国家も国際機関も,人口密集地における核兵器爆発によって生じる即時の人道上の緊急事態又は長期的な結末に適切な形で対処し,適切な援助を提供することはできない。
  • 核兵器の保有・移転・生産・使用を普遍的に禁止する包括的な法規範が存在しないことは明確である。核兵器の非人道性に関するこの2年間の議論で示された新たな証拠は,核兵器が国際人道法に合致する形で使用され得るのかという点について疑問を投げかける。

イ 一般的な見解及び政策的な対応

  • 参加者は,若者に対する教育や意識向上を含む,核兵器使用実験の被害者の証言を評価した。
  • 多くの代表団は,非人道性の考慮がすべての核軍縮に関する議論の中心に据え置かれるべきと強調し,幾つかの核兵器保有国を含む幅広い参加を歓迎した。また,多くの代表団は,いかなる状況においても,核兵器が二度と使用されないことが人類の生存そのものにとって利益であることを確認した。
  • 参加国は,核軍縮アジェンダを進める方法と手段につき,様々な見解を表明した。核兵器のない世界に向けて進歩を達成するための法的拘束力ある様々な集団的アプローチについて議論された。多くの代表団は,核兵器の完全廃絶が核兵器使用を防止する最も有効な方法であることを再確認した。
  • 多くの代表団は,核兵器のない世界という目標を追求するための多国間で開かれたアプローチの必要性を強調した。
  • 過半数の代表団は,核兵器の最終的な廃絶は,核兵器禁止条約を含め,合意された法的枠組みの中で追求されるべきことを強調した。
  • 相当数の代表団は,とりわけ包括的核実験禁止条約(CTBT)や兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の早期発効に言及しつつ,ステップ・バイ・ステップ・アプローチが核軍縮を達成する上で最も有効かつ実践的な方法であると主張した。これらの代表団は,核兵器や核軍縮を議論するにあたっては,地球規模の安全保障環境について考慮される必要があるとも指摘した。この関連で,核兵器のない世界を支持するため,短期・中期的に考慮されるべき一国,二国,複数国,多数国による様々なブロック積み上げ(building blocks)の取組を推進した。
  • 多くの代表団は,NPTでも求められているとおり,核軍縮に向けた効果的な措置を構成するものとして,核兵器を禁止する新たな法的文書の交渉への支持を表明した。
  • 参加者は,2015年が広島・長崎の被爆70周年であること,また,この関連での核軍縮への訴えが明白かつ心を揺さぶるものであることを意識した。

3 評価

  • (1)今次会議は,第1回,第2回会議よりさらに参加国が増え,多くの国・国際機関・市民社会が質疑応答及び発言を求め,活発な議論が行われた。我が国は,専門家や被爆者の方々の知見と経験を基に,オールジャパンの態勢で積極的に会議の議論に貢献することができた。
  • (2)議長総括においては,我が国がステートメントの中で述べた考え方を含め,様々な核軍縮・不拡散に関するアプローチや考え方が反映されており,評価できる。また,我が国が提唱していた,軍縮・不拡散教育,ブロック積み上げ方式(ビルディング・ブロック)等の考え方も反映されている。
  • (3)同会議に初めて米国及び英国の参加を得られたことは,本会議に核兵器国を含む幅広い参加を得ることの重要性を訴えてきた我が国としても大きな意義があると考えている。
  • (4)次回会議については,南アフリカが今後のフォローアップにおける自らの役割も含めてオプションを検討中と述べた以外,今次会議においてはどの国が主催するかは明確に決定されなかったこともあり,本件会議が今後どのように推移していくか引き続き注視していく必要がある。いずれにせよ,今次会議での議論を通じ,核兵器の非人道的影響に関する意識が一層高まったことで,本問題が来年開催される核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議の成り行きを左右する一つの要素として,更なる重要性を帯びるに至ったと考えられる。


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