欧州
「中央アジア+日本」対話・第5回東京対話議長サマリー
平成25年3月21日
1 第5回東京対話の概要
2013年3月15日,日本外務省の主催によって,「中央アジアの貿易投資促進における地域協力の役割」をテーマとする第5回東京対話が開催された。今回の対話では,松山外務副大臣の基調スピーチに続いて,日本及び中央アジア諸国の有識者及び行政官からそれぞれの専門分野を踏まえた発表が行われ,近年目覚ましく地域協力を発展させてきたASEANの経験を踏まえて,中央アジアの貿易・投資を促進させるための地域協力を進めていく方途につき,活発な意見交換が行われた。
2 主な議論
日本側報告者から,(1)ASEANの成り立ちと発展,(2)ASEANの地域協力の現状と課題,(3)ASEANの地域協力の発展における日本の貢献について報告がなされた。
(1)については,新興独立国としての課題を抱え相互不信・対立の構図に組込まれていた東南アジア諸国が,ASEAN設立以降,徐々にメンバーシップを拡大するとともに,政治・経済・安全保障において可能な分野から深化と統合を進めてきた経緯が説明された。また,ASEANが,2015年までの共同体設立をめざして,東南アジア全域にわたる「連結性」と,周縁地域との連携を推進する中での「中心性」を追求してきたことが指摘された。
(2)については,ASEANが,(ア)ヒト・モノ・カネ等の自由な移動を通じた単一市場と生産基地(FTA+),(イ)インフラや制度整備を通じた競争力のある経済地域,(ウ)格差是正を通じた公平な経済発展,(エ)グローバルな経済への統合を目標としていることが説明された。また,2015年までの共同体設立をめざしてASEANが行っている取組みについて詳細な説明がなされ,内政不干渉原則と全会一致の意思決定方式を堅持していること,共同市場や非関税障壁の撤廃は不完全なものであることなど,ASEANがEUとは異なる統合を進めていることが指摘された。
(3)については,JICAによるASEANへの協力は主として二国間協力の積み重ねであると指摘され,JICAは,ASEANが推進する「連結性マスタープラン」に沿って,(1)物的連結性(輸送分野などのハードインフラ整備),(2)制度的連結性(貿易自由化・円滑化などのソフトインフラ整備),(3)人と人との連結性(教育,文化及び観光の分野における人の移動の円滑化)の3つの分野で協力を行っているとの説明がなされた。また,中央アジアの地域協力にも参考となる事例として,メコン地域の東西・南部回廊,海の経済回廊,アジアカーゴハイウェイ構想,税関・貿易手続促進,工学教育のネットワーキング,ラオス対象の観光促進事業などが紹介された。
中央アジア側関係者からは,ASEANと中央アジアの地域協力・域内統合の進展段階は現時点で大きく異なっているが,中央アジアにおける今後の中長期的な地域協力のあり方を考える上で,ASEANの経験は極めて示唆に富むものであるとの認識が表明された。特に,ASEANの漸進的な発展プロセスや非強制的な意思決定システム,物的連結性に加えて制度及び人と人との連結性を重視していることなどに関心が示され,日本及びASEANの有識者及び実務者から更に経験を学ぶべく,意見交換を継続していきたいとの意向が示された。
中央アジア諸国のプレゼンテーションにおいては,中央アジアの貿易・投資促進において地域協力は大きな役割を果たし得るとの認識が共有された。他方で,地域協力,特に域内貿易・投資のレベルは,その豊かな潜在性に比して極めて不十分な段階に止まっていることが指摘され,事態の改善にむけて中央アジアが更なる自助努力を進めていくべきこと,国際社会がこれに協力する必要性などが表明された。また,一部の発表者からは,ロシア・カザフスタン・ベラルーシが加盟している関税同盟/統一経済圏の中央アジアに与える影響や,中央アジア地域協力(CAREC)をはじめ,中央アジアにおける既存の地域協力機構が行っている活動についての説明があった。
地域協力の優先分野については,各国の特性や個別事情を踏まえて様々な指摘がなされたが,各報告者からは,一様に,中央アジア地域を全体として捉えた輸送回廊網の整備が重要であることが強調され,中央アジアの地域協力においてインフラ整備の重要性が高いことが伺われた。これに関連して,内陸地域である中央アジアにとって輸送回廊の整備はそれ自体重要であるが,中央アジアがユーラシア大陸の中心に位置し,様々な経済パワーに挟まれているという地理的特性を有していることに鑑みれば,それは周辺地域にとっての利益でもあるとの指摘がなされた。
中央アジア側からは,貿易手続きの簡素化,ロジスティック・サービスの改善,人の移動の自由化といったソフト面における取り組みの重要性が表明されたほか,こうした分野における取り組み状況につき説明がなされた。また,これらを含めて,貿易投資促進のための地域協力を進めていくための効果的な枠組みとして,「中央アジア+日本」対話の枠内でビジネス評議会を立ち上げることが有益であるとの提案もなされた。
また,質疑応答の中で,アフガニスタンの安定に中央アジアの安定が必要であることから,国際社会が中央アジアに引き続き協力を行っていくことが重要であるとの指摘がなされた。
(1)については,新興独立国としての課題を抱え相互不信・対立の構図に組込まれていた東南アジア諸国が,ASEAN設立以降,徐々にメンバーシップを拡大するとともに,政治・経済・安全保障において可能な分野から深化と統合を進めてきた経緯が説明された。また,ASEANが,2015年までの共同体設立をめざして,東南アジア全域にわたる「連結性」と,周縁地域との連携を推進する中での「中心性」を追求してきたことが指摘された。
(2)については,ASEANが,(ア)ヒト・モノ・カネ等の自由な移動を通じた単一市場と生産基地(FTA+),(イ)インフラや制度整備を通じた競争力のある経済地域,(ウ)格差是正を通じた公平な経済発展,(エ)グローバルな経済への統合を目標としていることが説明された。また,2015年までの共同体設立をめざしてASEANが行っている取組みについて詳細な説明がなされ,内政不干渉原則と全会一致の意思決定方式を堅持していること,共同市場や非関税障壁の撤廃は不完全なものであることなど,ASEANがEUとは異なる統合を進めていることが指摘された。
(3)については,JICAによるASEANへの協力は主として二国間協力の積み重ねであると指摘され,JICAは,ASEANが推進する「連結性マスタープラン」に沿って,(1)物的連結性(輸送分野などのハードインフラ整備),(2)制度的連結性(貿易自由化・円滑化などのソフトインフラ整備),(3)人と人との連結性(教育,文化及び観光の分野における人の移動の円滑化)の3つの分野で協力を行っているとの説明がなされた。また,中央アジアの地域協力にも参考となる事例として,メコン地域の東西・南部回廊,海の経済回廊,アジアカーゴハイウェイ構想,税関・貿易手続促進,工学教育のネットワーキング,ラオス対象の観光促進事業などが紹介された。
中央アジア側関係者からは,ASEANと中央アジアの地域協力・域内統合の進展段階は現時点で大きく異なっているが,中央アジアにおける今後の中長期的な地域協力のあり方を考える上で,ASEANの経験は極めて示唆に富むものであるとの認識が表明された。特に,ASEANの漸進的な発展プロセスや非強制的な意思決定システム,物的連結性に加えて制度及び人と人との連結性を重視していることなどに関心が示され,日本及びASEANの有識者及び実務者から更に経験を学ぶべく,意見交換を継続していきたいとの意向が示された。
中央アジア諸国のプレゼンテーションにおいては,中央アジアの貿易・投資促進において地域協力は大きな役割を果たし得るとの認識が共有された。他方で,地域協力,特に域内貿易・投資のレベルは,その豊かな潜在性に比して極めて不十分な段階に止まっていることが指摘され,事態の改善にむけて中央アジアが更なる自助努力を進めていくべきこと,国際社会がこれに協力する必要性などが表明された。また,一部の発表者からは,ロシア・カザフスタン・ベラルーシが加盟している関税同盟/統一経済圏の中央アジアに与える影響や,中央アジア地域協力(CAREC)をはじめ,中央アジアにおける既存の地域協力機構が行っている活動についての説明があった。
地域協力の優先分野については,各国の特性や個別事情を踏まえて様々な指摘がなされたが,各報告者からは,一様に,中央アジア地域を全体として捉えた輸送回廊網の整備が重要であることが強調され,中央アジアの地域協力においてインフラ整備の重要性が高いことが伺われた。これに関連して,内陸地域である中央アジアにとって輸送回廊の整備はそれ自体重要であるが,中央アジアがユーラシア大陸の中心に位置し,様々な経済パワーに挟まれているという地理的特性を有していることに鑑みれば,それは周辺地域にとっての利益でもあるとの指摘がなされた。
中央アジア側からは,貿易手続きの簡素化,ロジスティック・サービスの改善,人の移動の自由化といったソフト面における取り組みの重要性が表明されたほか,こうした分野における取り組み状況につき説明がなされた。また,これらを含めて,貿易投資促進のための地域協力を進めていくための効果的な枠組みとして,「中央アジア+日本」対話の枠内でビジネス評議会を立ち上げることが有益であるとの提案もなされた。
また,質疑応答の中で,アフガニスタンの安定に中央アジアの安定が必要であることから,国際社会が中央アジアに引き続き協力を行っていくことが重要であるとの指摘がなされた。
3 政策提言
こうした議論を踏まえ,中央アジアの貿易・投資促進における地域協力のあり方について,以下を提言する。
● 中央アジアの貿易・投資促進に関する地域協力を進めるため,ASEANの経験が一定の有益な示唆を与えることが確認されたことを踏まえ,各国は実現可能な分野から取り組みを開始する漸進的アプローチをとるとともに,相違を克服するための対話を不断に継続していくこと。
● 貿易投資を促進するための地域協力について,中央アジア諸国が主体的に取り組み,個々の事案で具体的な成果を一歩一歩着実に上げていくこと。これに際し,日本としてもできる限りの協力を行っていくこと。
● 中央アジア各国が安定した発展を成し遂げる上で域内貿易の拡大は重要な意義を有することに鑑み,その基盤として,国境を越えた輸送インフラを適切に整備していくこと。中央アジアにおける輸送インフラの整備は,域内の連結性を高めるだけでなく,域外諸国とのバランスのとれた多角的な連結性を確保する上でも極めて重要である。この分野では,ASEANの発展において日本やADBをはじめとする域外国・国際機関の支援が果たしてきた重要な役割に着目すること。
● ASEANの発展の経験に鑑みて,インフラ整備と並行して制度的連結性及び人と人との連結性を向上させる取り組みを行っていくこと。制度的連結性強化の例としては通関手続きに際する規格統一,輸出入手続きのシングル・ウィンドウ・システム導入,人と人の連結性強化としては高等教育機関間の交流促進,有益な観光プロジェクトの発掘などが挙げられる。
● 「中央アジア+日本」対話の枠組みを活用し,貿易・投資促進の分野における地域協力のあり方について議論を更に深めていくこと。今回の対話で得られた結論をフォローアップするため,今後とるべき具体的なステップについて専門家の間で議論を継続し,その内容を「中央アジア+日本」対話・高級実務者会合を含む政府間会合に報告することが有益である。また,東京対話のような知的対話に加え,専門家会合や外務省間交流を通じて,政策担当者レベルの実務的かつ具体的な交流を深めることも重要である。
● 「中央アジア+日本」ビジネス評議会の構想につき更なる議論を政府間で行っていくこと。次回「中央アジア+日本」対話・高級実務者会合において本件を議論していくこと。
● 中央アジアがASEANの経験を学ぶ機会を継続的に設けることを検討すること。日本政府の招聘プログラムなどを通じてそのような機会を設けることも一案である。また,そうした機会にはASEAN諸国及びASEAN事務局の政策担当者との接点を設けること。
● 中央アジアの貿易・投資促進に関する地域協力を進めるため,ASEANの経験が一定の有益な示唆を与えることが確認されたことを踏まえ,各国は実現可能な分野から取り組みを開始する漸進的アプローチをとるとともに,相違を克服するための対話を不断に継続していくこと。
● 貿易投資を促進するための地域協力について,中央アジア諸国が主体的に取り組み,個々の事案で具体的な成果を一歩一歩着実に上げていくこと。これに際し,日本としてもできる限りの協力を行っていくこと。
● 中央アジア各国が安定した発展を成し遂げる上で域内貿易の拡大は重要な意義を有することに鑑み,その基盤として,国境を越えた輸送インフラを適切に整備していくこと。中央アジアにおける輸送インフラの整備は,域内の連結性を高めるだけでなく,域外諸国とのバランスのとれた多角的な連結性を確保する上でも極めて重要である。この分野では,ASEANの発展において日本やADBをはじめとする域外国・国際機関の支援が果たしてきた重要な役割に着目すること。
● ASEANの発展の経験に鑑みて,インフラ整備と並行して制度的連結性及び人と人との連結性を向上させる取り組みを行っていくこと。制度的連結性強化の例としては通関手続きに際する規格統一,輸出入手続きのシングル・ウィンドウ・システム導入,人と人の連結性強化としては高等教育機関間の交流促進,有益な観光プロジェクトの発掘などが挙げられる。
● 「中央アジア+日本」対話の枠組みを活用し,貿易・投資促進の分野における地域協力のあり方について議論を更に深めていくこと。今回の対話で得られた結論をフォローアップするため,今後とるべき具体的なステップについて専門家の間で議論を継続し,その内容を「中央アジア+日本」対話・高級実務者会合を含む政府間会合に報告することが有益である。また,東京対話のような知的対話に加え,専門家会合や外務省間交流を通じて,政策担当者レベルの実務的かつ具体的な交流を深めることも重要である。
● 「中央アジア+日本」ビジネス評議会の構想につき更なる議論を政府間で行っていくこと。次回「中央アジア+日本」対話・高級実務者会合において本件を議論していくこと。
● 中央アジアがASEANの経験を学ぶ機会を継続的に設けることを検討すること。日本政府の招聘プログラムなどを通じてそのような機会を設けることも一案である。また,そうした機会にはASEAN諸国及びASEAN事務局の政策担当者との接点を設けること。
4 結語
第5回東京対話の参加者は,今回の会合において,ASEANが進めてきた地域協力についてより深い理解が得られ,また,それをベースとして中央アジアの地域協力にとって望ましいアプローチにつき率直な議論がなされたことを高く評価した。ここで得られた結論を各国政府が考慮し,今後の実践につなげていくことを願うものである。
以上,ここに第5回東京対話の成果を報告する。
以上,ここに第5回東京対話の成果を報告する。
第5回東京対話 議長
「ロシア・ユーラシア政治経済ビジネス研究所」代表取締役
隈部 兼作