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日・イラク首脳共同声明
-包括的パートナーシップの新たな段階に向けて-
(仮訳)
平成23年11月22日
(日本語骨子/英語)
- 野田佳彦日本国総理大臣の招待を受け,ヌーリー・カミール・アル=マーリキー・イラク共和国首相は,2011年11月20日から23日の間,ハイレベルの随行団とともに日本を公式訪問した。
- 両首脳は会談を行い,幅広い事項について議論を行った。両首脳は,2009年1月に発出された日・イラク包括的パートナーシップの下で,日・イラク両国及び両国民の間の共有された価値及び利益に基づく協力を更に促進し拡大することの重要性を再確認した。両首脳は,2011年末までに予定されているイラクからの米軍撤収を念頭に置きつつ,イラクが更なる自立を遂げる中,両国のパートナーシップが新たな段階に入ったことを確認した。両首脳は,特に経済分野において,二国間関係が,具体的な協力を進展させ,対話を促進するという新たな局面に入ったことを確認した。
- マーリキー首相は,同首相及び一行が日本に滞在中に受けた温かいもてなしに感謝を表明した。マーリキー首相は,双方にとって都合の良い時期の野田総理のイラク訪問を招請した。野田総理は深い感謝とともにこの招待を受諾した。
- マーリキー首相はイラク政府を代表して,2003年にマドリッドで開催されたイラク復興支援国会合において表明された日本の資金協力パッケージ(16.7億米ドルの無償資金協力,及び32.8億米ドルの円借款をこれまでに供与)や,67億米ドルの債務削減及び技術協力(別添1)を含む様々な手段を通じた,政治的,経済的及び社会的な日本の支援に対し,深い感謝の意を表明した。また,同首相は特に,2004年から2008年までのイラクでの日本国自衛隊による多大な活動に対し,心からの感謝を表明した。野田総理は日本政府を代表して,イラクに対し日本国自衛隊の活動を円滑ならしめたことについて謝意を表明した。同総理は,イラクの復興努力を支援し,イラクの経済・社会インフラ開発のため双方がともに重要と考える案件に対し,円借款及び技術協力を含む公的支援を今後も行っていく考えであることを改めて表明した。
- 野田総理は,イラクにおける最近の政治・民主化プロセスの進展,イラク国民に支持されたマーリキー第二次政権の成功裡の樹立,及び,イラクの治安状況の改善のための努力を歓迎した。野田総理は,イラク政府と国民が国民和解を促進しつつ,治安を改善し,経済を再建する努力を継続することを希望した。日本はイラク政府及び国民によるかかる努力に対する揺るぎない支援を表明した。また,野田総理は,米軍撤収後のイラクにおける日本国民の安全を引き続き確保するというイラクのコミットメントに謝意を表明した。
- 野田総理は,2011年3月11日の東日本大震災後にイラクから日本に対する1,000万米ドルの義援金と日本企業の輸入ニーズを充足するための日本への原油の優先的輸出についての決定という温かい支援に深い謝意を表明した。同総理は,世界に開かれた形での震災後の復興のために最大限の努力を行う決意を強調した。マーリキー首相は,日本の迅速な回復と国際社会において引き続き日本が果たす積極的な役割への確信を表明しつつ,震災の被害者とその遺族に対する哀悼の意を伝えた。
- 野田総理は,日本の農産品の安全を確保するための日本の取組を説明した。同総理は,被災地の最近の放射能レベルに関する情報を含め,遅滞なく必要な情報を提供し続けるとの日本のコミットメントを改めて表明し,イラクに対して,現在の日本からの輸入品に対する制限を緩和することをイラクに要請した。イラクはこれらの措置を見直すことにコミットした。
- 両首脳は,政治,経済,投資,文化及び教育を含む幅広い分野において,全てのレベルで対話を更に促進させる意図を共有した。両首脳は,ハイレベル政策対話の定期的な開催,要人訪問の促進及びイラクの国民議会議員のためのプログラムである知見共有セミナーの実施を通じ,対話を強化していくことを決定した。
- 両首脳は,経済分野における協力の進展に満足の意を表明した。両首脳は,経済的関係の強化は日・イラク包括的パートナーシップの推進力であるとの見方を共有しつつ,二国間の更なる貿易及び投資の促進のために共に取り組む決意を表明した。この関連で,マーリキー首相は,イラクにおける日本のビジネス活動を促進するために2011年に日本のビジネス・ミッションが三度派遣されたことを歓迎した。同首相は,2011年8月にJICAのバグダッド事務所が開設されたことを歓迎し,その円滑な運営を確保するためのあらゆる必要な措置をとるとのコミットメントを表明した。日本は,イラクによる以下の国内経済改革を実施するとのコミットメントを歓迎した。
- イラク経済における競争的なビジネス環境の創出
- 行政分権化とそれに伴う金融分権化に沿った行政改革及び公的部門再編の実施
- 国営企業の再編及びイラク閣僚評議会によって承認されたロードマップの実施
- イラクにおける包括的経済政策の調和の増進
- 両首脳は,日・イラク包括的パートナーシップを再確認しつつ,貿易関係,投資及びイラクの産業を促進するための産業協力,並びに,教育,文化,スポーツ,科学技術等の幅広い事項を議論するために合同経済委員会会合が来年に開催されることを歓迎した。
- 両首脳は,日・イラク経済関係強化における民間部門の役割を高く評価した。野田総理は,マーリキー首相に同行して訪日したイラクの閣僚及び民間企業幹部を歓迎した。両首脳は,2011年2月にマーリキー首相によって提案された日・イラク産業協力会議の開催を評価した。同会議は,イラクにおける多大なインフラ開発需要に対応するため,日本企業の更なる投資の呼び水となることが期待されている。
- 野田総理は,石油,通信及び保健の分野の新規4案件のために,約670億円(約7億5,000万米ドル)の円借款の供与に必要な措置をとることを表明した。マーリキー首相は,この支援が,2003年にマドリッドで開催された会合において表明された35億米ドルを上限とする日本の円借款パッケージの最終分を完了させるのみならず,更にそれを超えるものであることから深い謝意を表明した(詳細は別添2)。双方は,イラクの社会的・経済的安定化と自立的な発展を支援するために4案件を実施することを通じて,イラクの復興プロセスが加速されること,また,エネルギー分野を含む日・イラク二国間経済関係が更に強化されることを認識した。
- 両首脳は,イラクがその有望な石油・ガス分野への更なる投資を引きつけることによって,世界の原油市場を安定させる重要なプレーヤーとなる大きな潜在力があることを認識しつつ,世界の原油市場の安定が世界経済の健全な成長にとって不可欠であるとの共通の認識を改めて表明した。両首脳は,2011年1月に発出された日・イラクのエネルギー協力強化に関する共同声明を踏まえ,エネルギー部門における二国間協力を更に強化する決意を新たにし,この目的のため,ガッラーフ油田,東バグダッド油田及びナーシリーヤ油田を含む上流ビジネスに関し,協力と対話を促進することの重要性を改めて表明した。
- 野田総理は,日本に対する安定的なエネルギー供給確保の観点から,緊急時における日本の臨時の需要に応えるため,日本に対して追加的に原油を供給するとのイラクの申し出に感謝した。両首脳は,パートナーシップの構築の第一歩として,南部随伴ガスプロジェクトの契約が署名される予定であることを歓迎し,マーリキー首相は,南部随伴ガスプロジェクトから得られる相当な割合のLNGが可能な限り早期に日本に輸出されることへの期待を表明した。
- 両首脳は,イラクにおける安定した電力供給のための電力開発及び改善の重要性を認識した。野田総理は,イラクにおける将来的な独立発電事業者制度(IPP)プロジェクトのための日本企業の協力の観点から,日本中東協力センターによるIPP法的構築支援の重要性を強調し,マーリキー首相はこの提案に感謝した。また両首脳は,イラク南部の大規模発電所建設に関するフィージビリティー・スタディーの進捗を歓迎した。
- 両首脳は,集中的な交渉の末,2011年9月に開始した二国間投資協定交渉が原則合意に至ったことを歓迎した。両首脳は,双方が同協定の早期発効に向けて更に取り組むことを確認した。
- 野田総理は,日本人投資家に対する入国ビザ発給手続を促進し,二国間のビジネス関係者の交流を強化するというイラクの決定を歓迎した。マーリキー首相は,日本企業とビジネス関係者がイラクにおけるビジネスと投資を拡大することに関する高い期待を表明した。
- 両首脳は,イラクにおけるビジネス環境改善のため,両国政府及び関係団体の取組によって実現した以下の進展を歓迎した。
- 中東協力センター(JCCME)のバグダッド事務所開設
- イラク財務省,イラク貿易銀行及び日本貿易保険(NEXI)による枠組取決め署名
- 両首脳は,日本企業とイラクが多くの重要な分野において契約又は覚書に署名したことを歓迎した。特に,マーリキー首相は,日本企業によるその技術,サービス及び製品の提供を通じてのインフラ改善への貢献を歓迎した。日本企業が大規模プロジェクトに取り組む能力の拡大を促進するため,両首脳は,日本の輸出信用機関が関与し,原油等の十分な担保を必要する,資金リスクを軽減するための革新的なファイナンス・スキームに関する議論の開始を決定した。
- 両首脳は,教育は国造りにとって不可欠な基礎であるとの認識を共有した。この関連で,両首脳は,教育及び学術分野での人的交流を更に促進することを決定した。イラクは,イラクの1万人留学生派遣計画の下で,日本がイラク人留学生を受け入れる意思があることを歓迎した。両首脳は,幅広い分野で研修事業が着実に進展していることを確認し,石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)及び国際石油交流センター(JCCP)による石油部門技術者研修,国際協力機構(JICA)による電力安定供給のための研修及び対話事業並びに農業・水事業及びビジネス・マネージメントに関する研修等を含むこれら研修を一層向上させるために継続的な努力が重要であるとの認識を共有した。
- 両首脳は,両国間での教育・科学技術分野での協力を促進することを決定し,イラクの国立博物館修復計画や日本人専門家による文化遺産に関するセミナーを実施することを通じての文化面での関係の深化を歓迎した。
- 両首脳は,国際場裡における協力を強化する意図を表明した。両首脳は,国際社会の現状を反映した国連安全保障理事会の早期の改革の必要性を強調し,この改革を実現するために共に取り組む意図を表明した。
- 両首脳は,最近の地域・国際情勢をレビューした。両首脳は,平和的な移行を促進しつつ,内部からの必要な改革を支援し促進する機会を追求することにより,中東地域の平和,安定及び繁栄を促進する大きな重要性を再確認した。この関連で,野田総理は,次回のアラブ・サミットがバグダッドで成功裡に開催されることへの期待を表明した。
- 両首脳は,バグダッド及びその他の都市において発生し,多数の死傷者を出した一連のテロ行為を含む,いかなる者,場所,目的による,あらゆる形態・目的の卑劣なテロ行為を強く非難した。両首脳は,テロと闘い,このための協力を強化する明確な決意を再確認した。