ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
平成29年6月8日
評価年月日:平成29年3月3日
評価責任者:国別開発協力第三課長 大場 雄一
1 案件名
1-1 供与国名
コンゴ民主共和国
1-2 案件名
「国立生物医学研究所拡充計画」
1-3 目的・事業内容
本計画は,首都キンシャサ市の国立生物医学研究所(以下,「INRB」という。)の検査・研究及び研修実施のための施設及び機材の整備を実施することにより,熱帯感染症等の診断及び基礎的研究能力の向上,医療従事者や研究者の育成促進を図り,もってコンゴ民主共和国(以下,コンゴ(民)という。)及び中西部アフリカにおける感染症対策の取組強化を通じた社会サービスへのアクセス改善に寄与する。供与限度額は23.25億円である。
1-4 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- (1)環境社会配慮カテゴリーはBであり,本計画は,「国際協力機構社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)に掲げる影響を及ぼしやすいセクター・特性及び影響を受けやすい地域に該当せず,環境への望ましくない影響は重大でないと判断される。
- (2)本計画の対象サイトにおいて,2017年内に実施が予定されている大統領選挙関連の政治情勢を受けて,行政機能が著しく低下せず,また治安情勢が悪化しないことが前提条件となる。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)中部アフリカに位置するコンゴ(民)は,大陸第二位の広大な国土(234.5万平方キロメートル,日本の約6倍),世界有数の鉱物資源を擁しているが,長年続いた内戦等の影響から,社会経済インフラ基盤の整備が進んでいない。保健分野においては,脆弱な保健システムや限られたサービス提供能力といった課題を抱えており,過去7回にわたってエボラウイルス病の流行を経験してきた。
- (2)コンゴ(民)政府は「国家保健開発計画(2016年~2020年)(PNDS)」において「UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)の実現」を目標に掲げ,サーベイランス及び疫学検査強化のためのINRBのBSL-3(バイオセーフティレベル3)のラボ整備を優先課題として取り組んでいる。
- (3)本計画の対象であるINRBは,1984年にコンゴ(民)において感染症対策を担う唯一の中央機関として設立され,ア 優先疾患に関する各種生物医学的研究,イ 地域的・世界的に発生する疾病に対する検査手順の標準化やグッドプラクティスに関するリファラルセンターとしてのコンゴ(民)の検査機関ネットワークの統括,ウ 研究者・技術者に対する研修の実施,エ 国内外の大学との連携による若い国内研究者の修士/博士課程における研究の支援等の役割を担っている。また,INRBには国際的なネットワークを有する中核的研究者が所属し,多剤耐性結核,ウイルス性出血熱等の検査,診断,基礎的研究を実施している。
- (4)本計画は,対コンゴ(民)国別援助方針重点分野「社会サービスへのアクセス改善」の中の保健人材の能力強化及び保健インフラ再構築に対する協力に合致している。また,2016年8月にケニアで開催されたTICAD VIにおいて,我が国が表明した「公衆衛生危機への対応能力及び予防・備えの強化(感染症対策のための専門家・政策人材を約2万人育成)」を具体化するものである。
- (5)コンゴ(民)は,コバルト,銅の埋蔵量でそれぞれ世界の50%,10%を占める。また,大湖地域の主要国であり,地理的にサブサハラの中央に位置する同国の安定は,アフリカ全体の安定に直結する。そのため,同国への支援は我が国の資源外交及びアフリカ外交上の意義が大きい。また,INRBは,アフリカ中西部地域における広域拠点研究所として成長する可能性の高い機関であり,同機関を支援することは,コンゴ(民)のみならず同地域一帯における我が国のプレゼンス向上に資するものである。
2-2 効率性
- (1)本計画では,我が国が第三国で実施した類似案件と比較し,高リスクの検体からの細菌,ウイルス等の分離,培養,遺伝子抽出等の主要作業について,バイオセーフティの観点から安全・迅速・正確に行うことを目標とすることにより,必要最小限の検査室の規模を設定した。また,既存施設(動物飼育センター等)については,可能な限り継続使用することで本計画の対象から外す等コスト縮減を図った。
- (2)検査室の運用に適切な水準であり,且つ,引き渡し後もINRBが消耗品・交換部品の調達と維持管理が可能となる機材を選定した。
2-3 有効性
本件の実施により,以下のような成果が期待される。
- (1)事業完成3年後の2022年に,P3検査室使用の新規認定者数30人(2016年実績値:0人),研修コース受講者数約1.5倍(2,996(2013年~2015年平均値)から4,555人/年),国際セミナー等参加者数約4倍(1,996(2013年~2015年平均値)から8,300人/年),研修コース数約2倍(6(2013年~2015年平均値)から12件/年)等,検査・研究,研修活動が拡大し,国際的感染症研究拠点としてINRBの重要性が向上する。
- (2)INRBの施設・機材の拡充により,検査・研究の安全性(バイオセーフティー,バイオセキュリティー),検査・研究の質(作業効率,精度)が向上する。
- (3)研修機能の拡充により,国内外人材の感染症対策能力(検査・研究レベル)が強化される。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)コンゴ(民)政府からの要請書
- (2)「国立生物医学研究所拡充計画」協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)