ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
平成29年6月7日
評価年月日:平成29年2月13日
評価責任者:国別開発協力第一課長 原 圭一
1 案件名
(1)供与国名
ベトナム社会主義共和国
(2)案件名
水に関連する災害管理情報システムを用いた緊急のダムの運用および効果的な洪水管理計画
(3)目的・事業内容
本計画は,ベトナム中部のフォン川流域において水文観測機材,ダム管理用機材,水防災情報システムを整備し,併せてハノイの農業農村開発省水資源総局において水防災情報システムの表示装置を整備することにより,フォン川流域の三つのダムの適切な管理・運用と河川管理を行い,フォン川流域全体の洪水被害の軽減を図り,もって同国の脆弱性への対応に寄与するもの。供与限度額は18.44億円。
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
事業実施機関により水文観測所,CCTV及び無線中継局等を設置するための土地の収用が確保されること。
2 無償資金協力の必要性
(1)必要性
- ア ベトナムでは近年モンスーンや熱帯擾乱の影響により集中豪雨等が多発している。特に中部地域沿岸部は台風の常襲地であることから毎年風水害,土砂災害に見舞われており,人命及び社会経済資本の損失防止の観点からも災害予防・応急対策が喫緊の課題となっている。中部地域沿岸部に位置するトゥア・ティエン・フエ省(以下「フエ省」という。)では,2013年9月~11月に4回発生した洪水による被害額が2,800万ドルに達している。主要河川流域に設置された利水ダムでは,豪雨発生時の不適切な放流による下流地域への洪水被害が多発している。洪水被害の原因としては,ダムの管理設備(水文観測等)の問題の他,降雨量,河川水位・流量,ダム水位等の情報収集,洪水被害の予測,洪水予警報の発信体制が未整備であること,適切なタイミングと水量でダムの貯留・放流が行われていないことが挙げられる。
- イ ベトナム政府は,災害予防に重点を置いた2013年策定の「災害予防・軽減法」において,ダムの適切な管理と運用を重要課題として位置付け,近年の下流地域の洪水被害の多発を受けて,2013年にズン首相が農業農村開発省に対し豪雨が多発するフエ省フォン川のダムの適切な管理と安全対策強化を指示した。また,2014年にはフォン川流域の三つのダム(ビンディエンダム:2007年完成,フォンディエンダム:2009年完成,ターチャックダム:2014年完成)を対象とした洪水時統合運用ルールが首相指示で定められたが,これに必要な情報システムが未整備である。本計画は,フォン川流域の降雨及び推移の監視システム及び水関連防災情報システムの整備を通じて,フォン川流域の3つのダムの効果的な運用と的確な河川管理を行うものである。
- ウ 本計画は,ベトナム中部地域の洪水被害の軽減に資するものであり,我が国の対ベトナム国別開発援助方針の重点分野「脆弱性への対応」における災害・気候変動等の脅威への対応として,実施する必要性が高い。また,2017年1月の安倍総理とフック首相との会談においても,環境・防災対策の重要性が確認されたところ。さらに,2015年3月の国連防災世界会議で発表された「仙台防災協力イニシアティブ」で,我が国は自国の知見と技術を活かした国際貢献を表明しており,防災分野における我が国のプレゼンスを示す観点から,本計画を実施する意義は大きい。
- エ 上記のような風水害・土砂災害は,人間の安全保障の観点から個人の尊厳,生命,生活に対する直接的な脅威でもあり,これによる被害の拡大や再発を避けるために迅速な対応が必要であることから,本計画を無償資金協力で実施する意義は大きい。
(2)効率性
JICAは,フエ省を含む中部地域3省を対象に,地方政府とコミュニティの災害対応力強化を目的とした技術協力「ベトナム中部地域災害に強い社会づくりプロジェクト」(2009年~2012年)を実施しており,本計画との相乗効果が期待できる。
(3)有効性
本計画の実施により以下の成果が期待できる。
- ア 定量的効果(2016年:実績値から2022年:事業完成3年後)
- (ア)水文観測密度の向上
- 雨量観測データ密度(地点数数/平方キロメートル):1/400から1/0.1
- 河川水位・流量観測地点数:6から16
- (イ)ダムによる下流部洪水低減量:1,479立方メートル毎秒(25%低減)から3,130立方メートル毎秒(55%低減)
- (ウ)雨量,水位の情報伝達頻度(間隔):60分から10分
- (ア)水文観測密度の向上
- イ 定性的効果
- (ア)フォン川流域のダムの適切な管理・運用能力の向上
- (イ)フォン川流域全体の水関連災害の予防・軽減
- (ウ)フォン川流域の浸水範囲予測結果情報の提供
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)ベトナム社会主義共和国からの要請書
- (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)ベトナム国別評価(2015年度)