ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
平成29年5月17日
評価年月日:平成27年12月24日
評価責任者:国別開発協力第二課長 田中 秀治
1 案件名
(1)供与国名
ハイチ共和国
(2)案件名
中央県及びアルティボニット県小中学校建設計画
(3)目的・事業内容
本計画は,ハイチの中央県及びアルティボニット県において,災害時に避難施設となる機能を備えた小中学校の施設を整備することにより,対象校における学習環境の改善及び地域の災害対応能力の強化を図り,もって同国における教育振興及び大地震からの復興と基礎社会サービスの確立に寄与するもの。
供与限度額は20億4,600万円。
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
考慮すべき留意点としては,以下の事項が挙げられる。
- ア ハイチ政府によって,適切な教員配置及び敷地整備等に必要な予算措置がなされること。
- イ 外部要因として,治安情勢・政治情勢が極度に悪化しないこと。
2 無償資金協力の必要性
(1)必要性
- ア ハイチは西半球の最貧国であり,2010年1月の大地震による被害は同国GDPの約120%に上った。地震前から社会基盤が脆弱な同国は,基礎社会サービスの欠如など多くの開発課題を抱えている。我が国は,大地震発生後,ハイチ支援国会合で表明した総額約1億ドルの支援を超えて,2015年4月までに計2億ドルを超える支援を実施してきた。
- イ ハイチの教育施設は上記大地震により甚大な被害を受けた。その後の施設再建やハイチ政府の義務教育無償化等の取り組みもあり,第1から第2サイクル(初等教育に相当)の純就学率が増加傾向にあるのに対して,第3サイクル(中等教育に相当)の純就学率は依然として低い。特に,本件対象地域の中央県及びアルティボニット県における第3サイクルの純就学率は,それぞれ16%と19%(2012年)にとどまっており,教育施設の整備遅延がその主要因であると考えられる。また,対象校における1教室当たりの生徒数平均は100名を超えるなど過密状態にあり,2021年から予定される第3サイクルの無償化に伴う更なる教室不足も見込まれるため,教育施設整備による学習環境の改善が急務である。加えて,小島嶼開発途上国であるハイチでは,地震に加え,ハリケーン等の自然災害も頻発しており,小中学校が地域の避難施設に指定されることが多いため,避難所としても機能するような施設設計と備品整備が必要となっている。かかる状況から,ハイチ政府から,我が国に対して,我が国の防災分野の知見を活かした小中学校の建設に係る要請がなされた。
- ウ 本計画は,ハイチの中央県及びアルティボニット県において,災害時に避難施設となる機能を備えた小中学校の施設を整備することにより,対象校における学習環境の改善及び地域の災害対応能力の強化を図り,もって同国における教育振興及び大地震からの復興と基礎社会サービスの確立に寄与するものである。人間の安全保障の観点から,実施の必要性は高い。
- エ 我が国は,震災国としての経験・知見を活かしつつ,ハイチの大震災からの復興と基礎社会サービスの確立のため,ハイチ国民のニーズを踏まえた国家再建への支援を引き続き実施していく方針であり,本計画はその一環として行うものである。また,本計画の実施に際しては,地域の避難所として活用されることも念頭に,ソフトコンポーネントとして防災に関する意識向上・防災活動の活性化のための研修も実施予定であることから,本件支援は,小島嶼開発途上国への気候変動適応支援を重視する我が国の気候変動対策にも合致する。さらに,ハイチはカリブ共同体(カリコム)の加盟国であり,各種国際選挙その他国際場裡でのカリコム諸国(計14か国)からの支持取付けの観点からも,高い外交的必要性が認められる。
(2)効率性
- ア ハイチは小島嶼開発途上国であり,ハリケーン,洪水,地震等の自然災害の影響を受けやすいことを踏まえ,小中学校の設計は,地震やハリケーンによる大きな損傷や倒壊を防ぎ得る仕様とした。また,災害発生時に地域の避難施設として利用されることを考慮し,太陽光発電設備を設置し,照明器具及びラジオや携帯電話充電用のコンセント設備を設けた設計とした。また,ソフト・コンポーネントとして,学校関係者や地域住民を対象に,ハザードマップや防災に関する資料の作成とモデル校におけるワークショップ,対象校における避難訓練等を実施することで,持続的・効率的な施設の活用につなげる。
- イ ソフト・コンポーネントとして,学校関係者や地域住民のための施設維持管理及び保健・衛生管理活動とそのモニタリングに係るマニュアルの作成,ワークショップ等を実施することで,持続的・効率的な施設の維持管理及び良好な保健・衛生状況の維持につなげる。
- ウ 実施予定の技術協力プロジェクト「算数副教材作成支援プロジェクト」の対象地域を本事業の対象県とする予定であること,また,過去に実施した国別研修「教育復興・開発セミナー」には本事業対象県からも研修員が参加していることから,支援の相乗効果が期待できる。
(3)有効性
本件の実施により,以下のような成果が期待される。
- ア 計画対象校における継続的に使用可能な教室数が,第1から第2サイクルでは61教室(2014年)から109教室(2021年)に,第3サイクルでは37教室(2014年)から88教室(2021年)に,それぞれ増加する。
- イ 計画対象校における1教室当たりの生徒数が,第1から第2サイクルでは96名(2014年)から54名(2021年)に,第3サイクルでは108名(2014年)から45名(2021年)に,それぞれ減少する。
- ウ 良好な学習環境を整備することにより,基礎教育の質向上に寄与する。
- エ 男女別トイレを整備することにより,女子生徒の教育環境改善に資する。
- オ 災害発生時の避難所整備及び防災に関する啓発活動・研修の実施を通じて,ハイチにおける気候変動への適応能力向上に貢献する。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)ハイチ政府からの要請書
- (2)JICAの協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)