ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:平成27年12月8日
評価責任者:国別開発協力第二課長 田中 秀治
1 案件概要
(1)供与国名
バングラデシュ人民共和国
(2)案件名
外国直接投資促進計画
(3)目的・事業内容
バングラデシュへの外国直接投資の促進を図るため,ツーステップ・ローン,エクイティバックファイナンス円借款及び周辺インフラの整備等を実施することにより,外国直接投資の促進を図り,もって同国の製造業の高付加価値化及び産業の多角化による全国民が受益可能な経済成長の加速化に寄与するもの。
- ア 主要事業内容
- ツーステップ・ローン(我が国を主とした外国企業等に対して短期及び中長期の設備投資及び事業運転のための現地通貨建て資金を金融機関を通じて貸し付ける)
- エクイティバックファイナンス円借款(我が国企業とバングラデシュ政府とがPPP事業として共同出資する際の同国政府の出資部分に対して貸し付ける)
- 周辺インフラ整備(事業地へのアクセス道路や電力・ガス供給など,外国からの進出企業が直接裨益するインフラの整備)
- コンサルティング・サービス
- イ 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 158.25億円 0.01% 40(10)年 一般アンタイド
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- ア EIA(環境影響評価):本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)上,JICAの融資承諾前にサブ・プロジェクトが特定できず,かつそのようなサブ・プロジェクトが環境への影響を持つことが想定されるため,カテゴリFIに該当する。
- イ その他・モニタリング:本計画では,各執行機関が,円借款で雇用されるコンサルタントの支援を受けつつ,バングラデシュ国内法制度及び「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)に基づき,各サブ・プロジェクトについてカテゴリ分類を行い,該当するカテゴリに必要な対応策がとられることとなっている。なお,サブ・プロジェクトにカテゴリA案件は含まれない。
- ウ 外部要因リスク:特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア 開発ニーズ
バングラデシュは,近年,欧米や我が国の縫製品メーカーの進出及び海外労働者送金(GDPの約1割)に支えられ,年率6%以上の高いペースで成長を継続しており,今後も堅調な発展が見込まれている。バングラデシュの縫製業は,労働コストが中国等と比較しても低いことが強みとなっており,同国の輸出の8割を占める。しかしそのほとんどが欧米市場向けの低価格衣料品の委託加工で,原材料を輸入に依存しているため,輸出先市場の景気動向に左右され,さらに関連産業への波及効果が薄く地場製造業が育たないことから,バングラデシュとしての経済的メリットは加工労賃所得に留まり,低賃金の国際競争にさらされる脆弱な経済構造となっている。同国がこのような経済構造から抜け出し,さらなる経済成長を実現していくためには,縫製品の高付加価値化や輸出競争力のある製造業の育成,ひいては産業全体の多角化を図っていく必要がある。そのためには投資の拡大が不可欠であり,技術の導入を伴う外国からの投資が期待される。
しかしながら,バングラデシュにおける外国直接投資額はGDP比で1.1%(2013年)に過ぎない。ストックベースでもGDP比6.1%(同)と南アジア平均10.9%(同)と比較しても低く,東南アジア平均44.1%(同)とは大きく差が開いている。したがって,同国の外国直接投資促進は急務であるが,同国内で操業する際の金融アクセスの悪さや基礎インフラの不足,煩雑な行政手続など,劣悪な投資環境は民間企業が進出を検討する際の大きな障害になっている。
かかる状況に対応すべく,投資環境改善のための外国企業向けの中長期低利融資の拡大やインフラの整備が求められる。また,外国直接投資の受け皿となる工業団地などの大型インフラの整備に向け,煩雑な行政手続の簡素化を実現し,我が国民間企業等によるインフラ輸出にもつながるPPP事業の拡大が望まれる。
同国の国家開発戦略の最上位に位置付けられる「第6次五か年計画」(2011/12~2015/16年度)では,製造業の多様化,輸出産業の強化を重点分野としており,また,「国家産業振興計画」(2010年)では民間セクター主導による国内産業の成長等を重要視している。
このため,本件計画を実施することは,バングラデシュにおける当該開発政策とも高い整合性を有しており,本計画のニーズは大きい。 - イ 我が国の基本政策との関係
バングラデシュの人口の約3割は依然として貧困状態にあり,運輸等の基礎的な経済インフラが絶対的に不足していること等の開発ニーズを踏まえ,2012年6月に策定された「国別援助方針」においては,今後の対バングラデシュODAの重点目標として,(a)中所得国化に向けた,全国民が受益可能な経済成長の加速化,(b)社会脆弱性の克服を掲げている。本計画は,投資環境の整備支援による民間セクター開発という観点から上記(a)に合致した支援となっている。
(2)効率性
開発金融借款(ツーステップ・ローン)に関する複数の実施機関(金融機関)を並列的に介在させる場合,各機関が融資対象・企業及びサブローン条件をターゲットとする最終借入人の資金需要や規模に応じて弾力的に取り扱うことができるように設計することが有効であるとの過去の類似事業の事後評価から,本計画においては融資条件(金利)の弾力性を確保することとしている。
また,民間企業の投資判断を促すためには,ア 両国政府の強い支援とリスク軽減及び イ 投資先周辺インフラの整備が必要との他国の類似事業の経験から,本計画では,両国政府間で進出企業に対する免税等のインセンティブ付与に係る検討を進めるとともに,周辺インフラの整備を組み合わせた協力を予定している。
(3)有効性
本計画の実施により,外国直接投資の拡大,外国企業に対する資金アクセスの改善,本邦企業による優れた経営ノウハウの移転・創造,経営資源の移転や新技術・新システムの導入を通じた新技術の創造,輸入代替効果による外貨の蓄積及び輸出産業への発展,雇用機会の創出及び消費者利益の拡大に寄与することが期待される。具体的には,2027年(事業完成2年後)には,日本の対バングラデシュ直接投資額が2014年の117百万ドル/年から,また,我が国からバングラデシュへの進出企業数が2014年の181社から,それぞれ増加することが見込まれる。
3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用
バングラデシュ政府の要請書,バングラデシュ国別評価報告書(2009年度),国際協力機構環境社会配慮ガイドライン,その他国際協力機構から提出された資料。
案件に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要(国別約束情報(年度別交換公文(E/N)データ)),借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。