ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
平成27年7月10日
評価年月日:平成27年5月13日
評価責任者:国別開発協力第二課長 花尻 卓
1.案件名
(1)供与国名
パキスタン・イスラム共和国
(2)案件名
カラチ気象観測用レーダー設置計画
(3)目的・事業内容
本計画は,カラチの老朽化した既存の気象観測レーダーシステムを更新することにより,パキスタン気象庁の気象観測能力向上を図り,もってパキスタン南部におけるサイクロンや洪水等の自然災害による被害の軽減及び同国における人間の安全保障の確保と社会基盤の改善に寄与するもの。供与限度額は19億4,900万円。
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
考慮すべき留意点としては,以下の事項が挙げられる。
- ア 治安・政情が極度に悪化しないこと。
- イ パキスタン側負担事項が適切に実施されること。
2.無償資金協力の必要性
(1)必要性
- ア パキスタン政府は,2005年に75,000人以上の死者を出した北部大震災を契機に,これまでの事後対応中心の災害対策から,予防・被害軽減対応へと重心を移し,国家防災管理庁の設置,国家防災管理計画及びマルチハザード早期予報計画の策定など,防災体制強化を図っている。
- イ シンド州の州都であるカラチは,パキスタン最大の都市として日本企業も多く進出するなどパキスタンの経済活動の中心となっている。他方,集中豪雨に伴う洪水やサイクロン等による自然災害が頻発していることから,1992年には我が国の支援で気象観測システムを導入し,これらの早期予報,被害軽減に貢献してきた。しかし,同システムの運用開始後20年以上が経過しており,今後機能不全に陥る可能性が高くなる一方,保守部品の調達が困難となり,故障した際の復旧が難しい状況となっていることから,同システムの更新が喫緊の課題となっている。
- ウ かかる背景から,パキスタン政府は,気象観測・予報能力の維持・向上のため,気象レーダー塔の建設,気象観測システムの更新について我が国に支援を要請した。
(2)効率性
- ア 機材は世界気象機構(WMO)の定める技術仕様に適合させるとともに,実施機関であるパキスタン気象庁の気象観測・予報業務との整合性及び維持管理の効率化に留意し,現地で調達可能な材料を活用する。
- イ 現在実施中の無償資金協力「中期気象予報センター設立及び気象予報システム強化計画」で整備するネットワークと整合を持たせる計画とする。
(3)有効性
本件の実施により,以下のような成果が期待される。
- ア 気象観測システムの更新により気象観測能力が以下のとおり向上し,パキスタン南部におけるサイクロンや集中豪雨の的確な予警報が可能となる(数値は事業完了3年後の2021年の目標値)。
- (ア)最大75m/秒までの風速観測が可能(基準値(2015年,以下同様):観測不可)
- (イ)1時間当たりの積算雨量データ観測が可能(基準値:観測不可)
- (ウ)雨量強度1mm/h以上の降雨探知範囲が半径450kmに拡大(基準値:半径350km)
- (エ)降雨データ空間分解能が平均メッシュ2.5kmに向上(基準値:同81.9km)
- (オ)降雨データ階調が256段階に向上(基準値:6段階)
- イ 気象観測データ表示システムの整備により,関係機関への正確な気象情報の提供が可能となり,自然災害に対する災害軽減策の実施が促進され,パキスタンの全人口約1.8億人の自然災害による被災リスクが軽減される。
- ウ 本事業によって得られたアラビア海の気象観測データは,周辺海域を航行する船舶に情報提供され,日本も含めた各国の船舶の航海における安全性の向上に資する。
3.事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)パキスタン政府からの要請書
- (2)JICAの協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)パキスタン国別評価報告書
- (4)防災協力イニシアティブの評価報告書