ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:平成30年3月12日
評価責任者:国別開発協力第一課長 岡野 結城子
1 案件概要
(1)供与国名
ミャンマー連邦共和国
(2)案件名
農業所得向上計画
(3)目的・事業内容
ミャンマーのザガイン地域シュエボー灌漑地区を対象に,農業生産・流通インフラの整備及び営農技術普及・農業機械化の推進を実施することにより,同地域の農業所得の向上を図り,もって同国の農村部の経済発展に寄与するもの。
- ア 主要事業内容
- 灌漑施設の改修
- 農村道路・橋梁改修,圃場整備
- 農業機械検査センター・種子センター建設
- コンサルティング・サービス
- イ 供与条件
供与限度額 金利 償還(据置)期間 調達条件 304億6,900万円 年0.01% 40(10)年 一般アンタイド
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価:本計画は「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」に掲げる道路セクター及び農業セクターのうち大規模なものに該当せず,環境への望ましくない影響は重大ではないと判断され,かつ,影響を及ぼしやすい特性及び影響を受けやすい地域に該当しないためカテゴリBに該当する。また,本計画にかかる環境影響評価(EIA)報告書はミャンマー国内法上,作成が義務付けられていないが,灌漑施設の改修は環境管理計画,農村道路・橋梁改修は初期環境評価報告書の作成が必要であり,ミャンマー側によって作成済みである。
- イ
- 用地取得及び住民移転:本計画では,既存施設の改修が主であり,住民移転は発生しない。一方,農村道路の改修対象区間約52キロメートルについては,道路拡幅区間の用地取得(道路片側約30センチメートル)を要し,再取得価格での補償を行う。なお,圃場整備は,対象地の農民から自発的に提供される土地のみを対象に実施する。
- ウ
- 外部要因リスク:特になし
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
ミャンマーでは,国民の約6割が農業セクターに従事し(2011/12年度,国連食料農業機関),GDPに占める農林水産業の割合は27.9%である(2014/15年度,ミャンマー中央統計局)。また,工業セクターにおいても,食料・飲料製造業は登録製造業企業数の53%,製造業産出額の64%を占める(2015年,ミャンマー中央統計局)等,農産加工品がその多くを占めており,農業セクターの重要性が高い。他方,農業が主要産業である農村部の一人当たり年間所得は約80万チャット(2015年(本計画対象地,JICA協力準備調査),約593ドル)と,都市部を含む全国平均である約150万チャット(2015年(世界銀行),約1,111ドル)と比較して低く,都市・農村間の格差が生じている。
ミャンマー政府は,経済政策(2016年7月)において,「包摂的成長の実現,食糧安全保障の強化及び輸出増に向けて,農業・畜産・工業分野を支える均衡の取れた工業・農業経済モデルの策定」を主要政策の一つに掲げており,この方針の下,農業畜産灌漑省は,「農業セクター第二次五か年計画」(2016年度~2020年度)を策定し,「農村部の住民やアグリビジネス企業が,革新的・持続的な生産・加工・流通技術を活用して,多様で安全で栄養価の高い食料・農産物を国内外の需要に応じて供給することを可能とすること」を目標としている。ミャンマー政府はこれらの政策を実現するため,JICAが実施した「集約的農業推進プログラム準備調査」において,農業開発ポテンシャルが最も高いと確認された3地域(サガイン地域シュエボー,マンダレー,エーヤワディー)のうち,サガイン地域シュエボーを最優先地域として整備していくことを決定した。その理由として,シュエボー灌漑地区は全国最大の灌漑地域でありながら,乾期の灌漑面積が58%にとどまり施設改修による灌漑面積拡大余地が大きいこと,ブランド米の産地であり,農業発展のポテンシャルが大きいことがあげられる。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
2012年4月に見直した我が国の対ミャンマー経済協力方針では,「国民の生活向上のための支援」を重点分野の一つとしており,本計画は本方針に合致している。また,2016年11月の安倍内閣総理大臣とアウン・サン・スー・チー・ミャンマー国家最高顧問との会談において安倍内閣総理大臣が表明した「日本・ミャンマー協力プログラム」では,「地方の農業と農村インフラの発展」は重要な協力プログラムの一つとして掲げられている。我が国はこれらプログラム実施のために官民併せて2016年度から5年間で8千億円規模の貢献を行う旨表明しており,本計画はそれを具体化するものである。
(2)効率性
JICA技術協力「イネ保証種子流通促進プロジェクト」(2017年~2023年)と連携し,単位面積当たりの収量向上に不可欠な優良種子の供給を強化する。また,円借款「農業・農村開発ツーステップローン」(2017年)によって,農家等による農業機械の購入が促される見込みであるが,本計画ではミャンマー政府の運営する農業機械修理ワークショップを強化することで,農家による機械投資を更に促進するとともに,農業機械検査センターを設置し質が悪い機械を排除することで,優良な農業機械の流通を促進する。
(3)有効性
本計画の実施により,乾期の実灌漑面積は116,049ヘクタール,灌漑率58%(2015年実績値)から事業完成4年後(2027年)には,190,000ヘクタール,灌漑率95%と拡大を図る。また,同地域の平均農業収入額は5,148,006チャット(約3,882ドル)/年/戸から,7,496,000チャット(約5,503ドル)/年/戸へ向上する見込みであり,ミャンマーの農業開発の最優先地域における農家の生計が向上し,同国の農村部の経済発展に寄与する。
3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用
要請書,「メコン地域のODA案件に関わる日本の取組の評価(第三者評価)」報告書(PDF),国際協力機構環境社会配慮ガイドライン
,その他国際協力機構から提出された資料。
案件に関する情報は,交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。