ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:平成30年2月21日
評価責任者:国別開発協力第二課長 寺田 広紀
1 案件概要
(1)供与国名
インド
(2)案件名
チェンナイ海水淡水化施設建設計画(第一期)
(3)目的・事業内容
タミル・ナド州チェンナイ都市圏において,海水淡水化プラント及び送水・配水施設の建設・改善を行うことにより,安全かつ安定的な上水道サービスの向上を図り,もって地域住民の生活環境の改善及び投資環境改善に寄与するもの。
- ア 主要事業内容
- (ア)海水淡水化プラント(400MLD)の建設
- (イ)送水ポンプ場・配水池の建設
- (ウ)送水管の敷設
- (エ)チェンナイ市内配水施設・配水管網の改善,給水装置(メーター含む)の設置・更新等(実施機関負担により実施)
- (オ)外部電源供給ラインの敷設
- (カ)コンサルティング・サービス(概略設計,詳細設計,入札補助,施工監理,環境管理計画,環境モニタリング計画の実施促進,実施機関の能力開発・経営改善に係る計画策定・実施支援,住民の意識向上活動支援)
- イ 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 300.00億円 1.5% 30(10)年 一般アンタイド (注)コンサルティング・サービス部分は金利0.01%を適用。
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- EIA(環境影響評価)
本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)に掲げる影響を及ぼしやすいセクター・特性及び影響を受けやすい地域に該当せず,環境への望ましくない影響は重大でないと判断されるため,カテゴリBに該当する。本計画に係る環境影響評価(EIA)報告書は,環境森林気候変動省により承認予定。 - イ
- 用地取得及び住民移転
本計画では更新可能な30年間のリース契約により空地を借り受け用地確保するため,用地取得及び住民移転を伴わない。 - ウ
- 外部要因リスク:特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
インドでは,国家水政策(2012年)において,インド全人口に対する飲料水へのアクセスの確立を政策目標として掲げているが,都市部においても十分な飲料水を確保できる世帯は90%弱であり,人口増加や経済発展に伴う水需要量の増加に対し,水源開発及び上水道整備が追い付いていない。配水網が整備されていても断水や給水量の制限が日常的に行われるため,主要都市においても1日平均給水時間は1~6時間程度に留まる。また上水道サービスを担う事業体は,慢性的な人材不足に加え,高い無収水率や低い料金設定のため,運営・維持管理面で技術的・財務的な課題を抱えている。
本計画の対象地域であるインド南部タミル・ナド州の州都チェンナイ都市圏は,2011年の人口約890万人であり,2035年には1,500万人を超える見込みとなっているが,人口増加や経済発展に上水道整備が追い付いていない。同都市圏周辺には日本企業を含め海外企業も数多く進出しており,深刻な水不足は投資環境にも大きな影響を与えている。
かかる状況を踏まえ,チェンナイ市は上下水道マスタープランを策定し,同都市圏において安全かつ安定的な水資源の確保に向けた取組みを行っている。この中で,大規模な表流水源開発には長期間を要し,地下水からの取水では膨大な需要を満たすことが困難であり,また表流水は乾期の渇水の影響も受けやすいことから,海水淡水化の計画を策定し,既存の海水淡水化プラント(計200MLD;20.0万立方メートル/日)に加えて給水能力の増強を図るため,本計画による海水淡水化プラント及び送水・配水施設の建設・改善を計画している。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
インドの人口の約3割が依然として貧困状態にあること,電力,運輸等の経済インフラが絶対的に不足していることなどの開発ニーズを踏まえて2016年3月に策定された「対インド国別援助方針」においては,今後の対インドODAの重点目標として,(ア)連結性の強化,(イ)産業競争力の強化及び(ウ)持続的で包摂的な成長への支援を掲げている。
本計画は,タミル・ナド州チェンナイ都市圏において,海水淡水化プラント及び送水・配水施設の建設・改善を行うことにより,安全かつ安定的な上水道サービスの向上を図り,もって地域住民の生活環境の改善及び投資環境改善に寄与することから,上記(ウ)に合致する。また,本件は,チェンナイ・ベンガルール間産業回廊(CBIC)構想における広域の経済開発構想の具体化に資することから,上記(ア)にも合致し,インドの開発政策とも高い整合性を有している。
また,2017年9月の安倍総理大臣のインド訪問時には「両国のパートナーシップを新たな次元に引き上げるべく協力することを決定」するとともに,日本の「自由で開かれたインド太平洋戦略」とインドの「アクト・イースト政策」の連携に向けた取組の強化を誓うなど両国の関係強化が着実に進んでいる中,円借款を始めとするODAを通じて,経済・社会開発を進めるインドの取組を支援することは,こうした日印二国間関係の更なる強化につながる。
(2)効率性
上水道事業においてサービスに対する需要と住民の支払い意思額・能力を的確に予測することで,最大限の受益者負担を可能とする料金体系及び水道メーターの普及についての現実的な計画を検討することが重要である。実施機関であるチェンナイ都市圏上下水道公社において水道料金の改定が順次進められていること,チェンナイ市における水道メーター設置率を2026年度内に100%とする目標が定められていることを確認しており,本計画のコンサルティング・サービスにおいては,住民の支払い意思額・能力の把握や水道メーターの普及に向けた広報活動,並びに実施機関の財務計画策定を支援する。
(3)有効性
運用・効果指標(いずれも事業完成2年後(2027年)の見込み)として,チェンナイ市の給水人口が,2016年の約710万人から約820万人へ約110万人増加する見込みである。また,定性的効果として,水質満足度及び水圧満足度の向上,住民の健康状態の改善等といった生活環境の改善,さらには,チェンナイ都市圏の経済成長や投資促進等といった経済的・社会的発展の促進に寄与することが期待される。
3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用
要請書,インド国別評価報告書(2009年度),国際協力機構環境社会配慮ガイドライン,その他国際協力機構から提出された資料。
案件に関する情報は,交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。