ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
平成30年3月23日
評価年月日:平成30年2月9日
評価責任者:国別開発協力第一課長 岡野 結城子
1 案件名
1-1 供与国名
ミャンマー連邦共和国(以下「ミャンマー」という。)
1-2 案件名
ヤンゴン新専門病院建設計画
1-3 目的・事業内容
本計画は,ヤンゴンにおいて,第三次医療施設のヤンゴン総合病院の診療機能の一部を移設し,循環器系疾患に対応する専門病院の施設建設・機材整備等を実施することにより,循環器系疾患等に関する医療サービスの質と量の改善を図り,もって地域住民の健康改善に寄与することを目的としている。供与限度額は,86.61億円。
1-4 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
以下の事項がミャンマー政府により実施される必要がある。
- (1)プロジェクトサイトの確保と整地,インフラ接続工事(電気等),一部の医療機材調達,既存医療機材の移設,医療スタッフの確保等
- (2)維持管理・運営のための予算及び人材の確保
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)ミャンマー連邦共和国の保健医療セクターにおいては,感染症対策に依然課題が残っていることに加えて,非感染性疾患に起因する死亡が増加傾向にあることへの対応が課題となっている。同国における全死亡数(44万1,000人/年,出典: NCD Country Profiles,WHO,2014年)のうち,非感染症疾患による死亡率は59%を占め,そのうち循環器系疾患(虚血性心疾患,脳卒中等)による死亡率25%で,非感染性疾患の中でも最も大きい割合を占めている。また,同国の早期死亡の原因疾病を見ると,脳卒中は2005年から引き続き1位,虚血性心疾患(心臓病の一つ)は4位から2位になるなど,循環器系疾患は深刻化している。
- (2)ミャンマー最高位の第三次医療施設で,教育病院でもある国立のヤンゴン総合病院(1899年設立)は,ア 施設の老朽化・機材の不足,イ 度重なる増改築に起因する病院スタッフや患者にとって不便な動線,ウ 病床数不足,エ 患者の過度の集中により,診断・治療方法は限られ,治療を希望する患者数に対して受入可能な人数が不充分な状況にある。このため,ヤンゴン総合病院の診療機能の一部を移設し,専門病院を新設することで循環器系疾患に関する医療サービスの質と量の改善が緊急の課題となっている。
- (3)ミャンマーでは,「国家保健政策」及び「国家保健計画2017-2021」を策定し,「病院ケアの向上」,「保健システム強化」等に取り組んでおり,本事業は,これら政策及び計画を実現する方策として位置付けられている。
- (4)対ミャンマー連邦共和国経済協力方針(2012年4月作成)における重点分野「国民の生活向上のための支援(少数民族や貧困層支援,農業開発,地域の開発含む)」の中で,保健医療は中心分野として取り上げられている。また,日ミャンマー協力プログラム(2016年11月)の9分野のうち,「国民生活に直結する保健医療分野の改善」の中で,医療サービス改善が挙げられており,本事業はこれら方針に合致する。
- (5)本事業は,我が国の「国際保健外交戦略」(2013年策定),「平和と健康のための基本方針」(2015年9月),「国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョン」(2016年5月)等,重要政策に資する案件である。また,非感染性疾患に関する保健医療サービスの向上に資するものであり,SDGsゴール3.4に貢献すると考えられる。
2-2 効率性
保健医療サービスの向上に資する人材育成・管理体制強化を目的に,技術協力「2014年~2018年保健システム強化プロジェクト」(2014年~18年),技術協力「医学教育強化プロジェクト」(2015年~19年)の支援を実施中。本計画は,これら活動と相互補完するもの。
2-3 有効性
本計画の実施により以下のような成果が期待される。
【定量的効果】
基準年(2016年実績値:ヤンゴン総合病院の状況)⇒目標値(2024年(事業完成3年後):ヤンゴン新専門病院の状況)
- (1)循環器内科(入院患者数):4,436人/年⇒5,221人/年
- (2)循環器内科(外来患者数):19,762人/年⇒23,260人/年
- (3)心臓血管外科(入院患者数):947人/年⇒1,115人/年
- (4)心臓血管外科(外来患者数):4,826人/年⇒5,680人/年
- (5)脳神経外科(入院患者数):2,920人/年⇒3,437人/年
- (6)脳神経外科(外来患者数):1,180人/年⇒1,389人/年
- (7)脳神経内科(入院患者数):1,020人/年⇒1,201人/年
- (8)脳神経内科(外来患者数):7,115人/年⇒8,374人/年
- (9)心臓カテーテル検査・治療件数:1,761件/年⇒2,113件/年
- (10)心臓血管外科メジャー手術件数:374件/年⇒561件/年
- (11)血栓溶解治療件数:45件/年⇒90件/年
- (12)MRIを用いて評価した脳梗塞患者数:0人/年⇒304人/年
【定性的効果】
- (1)医療従事者と患者動線が明確に区分されることにより,医療従事者はより効率的に医療サービスを提供できる環境が整備される。特に,救急動線が整備されることにより,院内搬送から治療開始までの時間が短縮される。
- (2)心臓血管外科ハイブリッド手術室(注:同室内に血管撮影装置を設置し,カテーテル治療が無効な時,迅速に外科手術への切替えが可能な手術室)で高度な技術を用いた手技の実施が可能となる。
- (3)脳卒中,動脈瘤,脳静動脈奇形に対するカテーテル治療が実施可能となる。
- (4)患者にとって利用しやすいバリアフリーの施設設計により,術後のリハビリ中患者や車いす患者の施設利用時の安全性や満足度が向上する。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)ミャンマー連邦共和国政府からの要請書
- (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)