ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:平成29年9月4日
評価責任者:国別開発協力第三課長 大場 雄一
1 案件名
(1)供与国名
イラン・イスラム共和国(以下,「イラン」という。)
(2)案件名
テヘラン市大気汚染分析機材整備計画(以下,「本計画」という。)
(3)目的・事業内容
本計画はテヘラン市に対し,精緻な排ガス測定や粒子状物質等の化学分析を実施するための大気汚染分析機器を整備することにより,同市の大気汚染物質の発生源,排出量,生成メカニズム等の把握に関する測定・分析精度の向上を図り,もって同市の大気汚染の軽減に寄与するもの。供与額は12億4,200万円。
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
以下の事項がイラン政府により実施される必要がある。
- ア 本計画のための前提条件として,イラン政府負担事項(機材を設置する施設工事の実施,事業費の予算化,免税手続き等)が適切に実施されること。
- イ イランに対する制裁措置(資金送金等)が現状から悪化しないこと。
2 無償資金協力の必要性
(1)必要性
テヘラン市とその周辺を合わせた大テヘラン圏(人口約1,500万人。イラン国家統計2015)では,移動発生源由来の大気汚染と,それに伴う呼吸器疾患などの健康被害が深刻化しており,大気汚染に起因する大テヘラン圏での年間死者は約4,500人(保健衛生当局,2013年)と推計されている。
テヘラン市では,我が国による大気汚染対策に係る協力(開発計画調査型技術協力「大テヘラン圏大気汚染総合対策計画調査」(1994年~1997年)及び開発計画調査型技術協力「大テヘラン圏大気汚染管理強化及び改善調査」(2002年~2004年))が行われ,一酸化炭素濃度がイラン政府の定める基準値以下まで低減したが,大気汚染の原因とされるPM10やPM2.5,二酸化硫黄(SO2),二酸化窒素(NO2)については,依然としてイラン政府の定める基準を上回る値が観測されている。特にPM10やPM2.5は,発生源や汚染構造が十分明らかでなく,その解明と対策の検討が必要となっている。また,同市では,発がん物質の大気中濃度も高いものの,これらの物質は種類が多く発生源や測定法も複雑であるため,行政機関によるモニタリングにはほとんど未着手である。大気管理公社(Air Quality Control Company。以下,「AQCC」という。)が包括的な排出インベントリ(排出されている大気汚染物質の量及び排出源の一覧)の編さんを進めているが,必要な測定機材や分析機材が不足しているため,有効な対策を検討できる体制が整っていない。
本計画は,テヘラン市の「包括的運輸交通計画(2005年~2025年)」及び同計画下の「第2次5カ年アクションプラン(2014年~2018年)」における移動発生源対策を中心とした大気汚染対策強化の一部として位置付けられている。本計画によって大気汚染分析機器を整備することにより,大気汚染物質の発生源,排出量,生成メカニズム等の把握に関する測定・分析精度の向上を図ることが急務となっており,本計画は同課題に対応するものである。
我が国は,2015年9月の日・イラン首脳会談において,環境分野における協力の更なる拡大を図る旨表明しているほか,2016年1月にイランの核合意が「履行の日」を迎えたことに鑑み,2016年2月の日・イラン投資協定の署名に際し,核合意の着実な履行を働きかけつつ,政府として無償資金協力や円借款などを通じて日本企業の進出を支援していく旨表明している。本計画は対イラン事業展開計画の重点援助分野「持続可能な開発」に合致することから実施する必要性及び妥当性は高く,環境対策に強みを有する日本企業の今後の進出も視野に入れながら,本計画によるイランの環境保全の支援を通じ,二国間関係の強化を図ることは,外交上の観点から極めて重要である。
(2)効率性
- ア イラン政府との協議を通じ,選定機材を絞り込んだことに加え,エンジンダイナモメーター用ラボの整備,化学分析ラボの整備,大気環境測定局の局舎の調達等については先方負担事項とするとともに,機材据付のためのコンクリート基礎工事,盗難防止用フェンス,電気設備工事等については現地調達とすることにより,コスト縮減を図った。
- イ 本計画では,並行して実施するJICA技術協力プロジェクト「テヘラン市大気汚染管理能力向上プロジェクト」の能力強化の一環として活用する機材を整備対象とするなど,異なるスキーム間の連携に向けた工夫を講ずることとした。
- ウ 移動発生源由来の排ガス測定及び関連検査・規制勧告はAQCCが実施,他方固定発生源由来の排ガス測定及び関連検査・規制勧告は環境省テヘラン支局が実施,大気汚染モニタリングは両者で対象地区を分けて実施するなど役割分担を明確化した。
(3)有効性
本計画の実施により,以下のような成果が期待される。
- ア 定量的効果として,基準値(2015年実績値)から目標値(2022年:事業完成3年後)への推移として,(ア)エンジンダイナモメーターシステムを活用した排ガス測定は0回/年から6回/年,(イ)国際認証を受けた車載型排ガス測定装置を活用した排ガス測定は0回/年から5回/年,(ウ)化学分析機材を活用した大気汚染物質(微粒子状物質(PM),多環芳香族炭化水素(PAH),揮発性有機化合物(VOC),アスベスト)の解析は各物質0回/年から2回/年,(エ)大気環境測定固定局の測定時間は各測定局1,525~4,208時間/年から6,000時間/年になると見込まれる。
- イ 定性的効果として,テヘラン市における大気汚染の現況把握及び大気汚染軽減に向けた対策検討の促進が図られる。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)イラン政府からの要請書
- (2)JICAの協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)JICAの事業事前評価書
- (4)相対的に所得水準の高い国に対する無償資金協力の評価(2014年度)
- (5)「大テヘラン圏大気汚染総合対策計画調査」最終報告書要約
- (6)「大テヘラン圏大気汚染管理強化及び改善調査」最終報告書要約(PDF)
- (7)「テヘラン市大気汚染管理能力向上プロジェクト」詳細計画策定調査報告書(PDF)