ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:平成29年11月5日
評価責任者:国別開発協力第三課長 大場 雄一
1 案件名
(1)供与国名
イラン・イスラム共和国(以下,「イラン」という。)
(2)案件名
テヘラン市医療機材整備計画
(3)目的・事業内容
テヘラン市東部に位置するイマーム・フセイン総合病院及びアラシュ女性病院において,がんと循環器系疾患に関する早期発見と早期治療に必要な機材を整備することにより,同疾患に対する診療機能の強化を図り,もって同市の医療サービスの質の改善を通じたイランの経済・社会基盤の強化に寄与するもの。供与限度額は15億3,400万円である。
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- ア 本計画の実施条件として,機材到着までに先方負担事項である施設改修及び新棟建設工事がイラン政府により着工されること。
- イ イランに対する制裁措置(資金送金等)が現状から悪化しないこと。
2 無償資金協力の必要性
(1)必要性
イランでは,近年,非感染性疾患(Non-Communicable Diseases。以下,「NCD」という。)による死亡者数が増加の傾向にあり,死亡原因に占めるNCDの割合は76%と世界平均(65.5%)よりも高く,上位二つの死亡原因は,循環器系疾患(46%)及びがん(13%)となっている。この状況を踏まえ,イラン保健・医科教育省は,2015年に「NCD及び関連危険因子の予防と対策のための国家活動計画2015~2025(以下,「NCD国家活動計画」という。)」を策定し,平均余命の延伸に伴い増加するNCDを早期に発見し治療できる医療サービス体制の強化に取り組んでいる。
また,同国の医療サービス体制は,1979年以降,感染症の予防と管理を中心とした一次医療レベルは順調に発展したが,長期の外貨不足により経済発展が停滞していたため,診療を中心とする都市部の三次医療レベルの医療施設では,医療機材の老朽化と不足が常態化している。そのため,診療を行うために必要な医療用画像を提供できない,循環器系疾患の診療サービスの提供が難しい,患者の病態に応じた負担の少ない適切な内視鏡下手術が実施できないなどの問題を抱えている。特に,貧困層の多いテヘラン市東部では,医療費の自己負担率が低い(入院時6%,外来診療時15%)公的医療施設による医療サービスの需要は高い一方,これらの施設では,がんと循環器系疾患に関する診療サービスを十分に提供できる医療機材の環境が整っていない状態であり,がんと循環器系疾患の早期発見・治療に必要な医療機材の整備が喫緊の課題となっている。
本計画は,テヘラン市東部の三次医療レベルの医療施設であるイマーム・フセイン総合病院及びアラシュ女性病院において,がんと循環器系疾患に関する早期発見・治療に必要な機材の整備を通じ,同疾患に対する診療機能の強化を図るものであり,NCD国家活動計画においても,同疾患に対して適切な診療サービスを提供するために不可欠な優先度の高い事業として位置付けられている。
また,対イラン事業展開計画(2017年)では,「経済・社会基盤の強化」を重点分野としており,その中で「レジリエントな社会の形成プログラム」を定め,保健医療分野に関しては質の高い医療機器やサービス整備に寄与することを掲げている。
2013年9月の日・イラン首脳会談において,医療を含む人道分野での協力を拡充することが合意されており,以降,累次の機会にその重要性が確認されてきている。我が国は,2016年2月の日・イラン投資協定の署名に際し,核合意の着実な履行を働きかけつつ,政府として無償資金協力や円借款などを通じて日本企業の進出を支援していく旨表明しているほか,2017年9月の日・イラン首脳会談において,医療分野における協力を更に推進する旨表明しており,本計画はこれら方針に合致しており,医療分野に強みを有する日本企業の今後の進出も視野に入れながら,本計画によるイランに対する医療分野の支援を通じ,二国間関係の強化を図ることは,外交上の観点から極めて重要である。
(2)効率性
- ア イラン政府との協議を通じ,要請機材のうち,現地代理店によるメンテナンスが実施できない機材(直線加速器,サイバーナイフ,リニアック,トモセラピー,小線源治療装置)は本計画から除外するなど,コスト縮減を図った。
- イ 本計画では,JICA技術協力プロジェクト「日本式医療マネジメントによる医療サービス改善プロジェクト」と連携してハード面,運営管理面の双方から日本の技術優位性を活かすことを想定するなど,スキーム間の連携を図った。
(3)有効性
本計画の実施により,以下のような成果が期待される。
- ア 定量的効果として,基準値(2017年実績値)から目標値(2022年:事業完成3年後)への推移として,イマーム・フセイン総合病院において,冠動脈撮影を行った年間症例数が1,400件から2,100件,心臓超音波検査の年間検査数が16,959件から25,000件,内視鏡超音波検査の年間検査数が0件から600件,アラシュ女性病院においては,MRI検査の年間検査数が0件から2,400件,CT検査の年間検査数が0件から3,600件,上部・下部消化器内視鏡の年間検査数が469件から600件,腹腔鏡を用いたがんの手術数が1,896件から2,700件になると見込まれる。
- イ 定性的効果として,テヘラン市東部市域を中心に,医療サービスへのアクセスが改善するほか,早期発見・治療が図られ,医療サービスの質の改善に繋がる。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)イラン政府からの要請書
- (2)JICAの協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)JICAの事業事前評価書
- (4)相対的に所得水準の高い国に対する無償資金協力の評価(2014年度)