ODA(政府開発援助)

平成29年11月9日

評価年月日:平成29年10月25日
評価責任者:国別開発協力第一課長 岡野 結城子

1 案件概要

(1)供与国名

フィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)

(2)案件名

カビテ州産業地域洪水リスク管理計画

(3)目的・事業内容

 カビテ州において,分水路の建設及び排水路・河川改修等の洪水対策を実施することにより,産業集積地を中心とする同地域の洪水被害の軽減を図り,もってフィリピンの脆弱性の克服及び持続的経済成長に寄与するもの。

  • ア 事業内容
    • 分水路建設
    • 排水路・河川改修
    • コンサルティング・サービス(詳細設計,入札補助,施工監理等)
  • イ 供与条件
    供与限度額 金利 償還(据置)期間 調達条件
    159.28億円 年0.30% 40(10)年 一般アンタイド

    (注)コンサルティング・サービス部分は金利年0.01%を適用。

(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点

  • ア 本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)に掲げる影響を及ぼしやすい特性に該当するため,カテゴリ分類はA。
  • イ 877世帯の移転が想定され,住民移転及び用地取得はフィリピン国内手続き及びJICAガイドラインの要件を満たすフィリピン政府による住民移転計画に沿って実施される。
  • ウ 外部要因リスクは特になし。

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

  • ア 開発ニーズ
    • (ア)フィリピンは台風や暴風雨による洪水が頻繁に発生し,財産や人命,経済活動に甚大な被害をもたらしている。マニラ首都圏南部に隣接するカビテ州(面積1,447.5平方キロメートル,人口3.7百万人)は,国内で最も人口が多く経済成長が著しい州の一つであるが(同州には,32の工業団地(933社)が存在し,うち186社(約20%)は日系企業である),同州を流れるサンファン川等の下流域が低地で河川や排水路の洪水流下能力が低く,近年では2年に一度の頻度で洪水による家屋や工業団地における浸水被害が発生している。このため,分水路や排水路等のインフラを整備し,災害などのリスクに対する脆弱性を克服することは,同国が今後持続的かつ力強い成長を続けていく上で,喫緊の課題となっている。
    • (イ)フィリピン政府は,フィリピン中期開発計画(2017年-2022年)において,自然災害に係るリスクに対する脆弱性の低減や自然災害に対し安全かつ安心な地域社会の構築を主要施策の一つとして掲げている。また,フィリピン気候変動適応戦略(2010年-2022年)において,気候変動への適応のため,適切なインフラ整備によるリスクと脆弱性の減少を掲げている。本計画は,これら政策に合致する優先事業として,政府の公共投資プログラム(2017年-2022年)等に位置付けられている。
  • イ 我が国の基本政策との関係
    • (ア)我が国の対フィリピン共和国国別援助方針(2012年4月)は,「脆弱性の克服と生活・生活基盤の安定」を重点分野として「災害・環境問題に対応するためのソフト面を含めたインフラ整備」に対する支援の実施を掲げている。この方針を受けたフィリピン共和国JICA国別分析ペーパー(2014年11月)でも,「脆弱性の克服」を重点課題としており,本計画はこれら方針・分析に基づく案件である。
    • (イ)2017年1月,日フィリピン首脳会談において,安倍総理大臣は今後5年間でフィリピンに対する1兆円規模の官民支援を表明しており,本計画はその着実な実施に寄与するものである。また,本計画による洪水リスク軽減効果により,脆弱性の克服とともにカビテ州に進出している日本企業にも直接裨益するとともに,同州への一層の投資拡大が期待されるものであり,本計画を実施する必要性は高い。

(2)効率性

 我が国は,1970年代以降,マニラ首都圏や大河川を中心に洪水対策計画策定・事業実施を支援しており,専門家派遣による中央官庁の治水・砂防技術者の能力強化支援等を通じて,本計画の計画段階から助言を行っている。また,カビテ州においては,2009年にJICAによる「カビテ州ローランドにおける総合的治水対策調査」により,カビテ州を流れるイムス川,サンファン川,カナス川流域の洪水対策マスタープラン策定及び優先事業のF/S調査を実施しており,本計画との連携が見込まれる。

(3)有効性

 本計画の実施により以下の成果が期待される。

  • ア サンファン川流域の年最大浸水戸数7,032戸,マリマンゴ排水地域の年最大浸水戸数1,207戸が,いずれも0戸(2026年(事業完成2年後))に減少し,地域住民の生活環境が改善される(注:サンファン川流域は25年確率規模,マリマンゴ排水地域は15年確率規模の降水量を前提とする。確率規模降水量とは,25年あるいは15年に一度起きると考えられる降水量を過去の大雨データから統計学的に推定し算出した数値。)。
  • イ 洪水リスクが軽減され,カビテ州に進出する企業の投資環境が改善される。
  • ウ 気候変動の影響による台風被害等の甚大化が想定される地域の洪水対策事業であり,気候変動への適応に貢献する。

3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用

  • (1)フィリピン国別評価報告書(2010年度),フィリピンの防災分野における日本のODA評価(被援助国との合同評価)(2015年度),国際協力機構(JICA)環境社会配慮ガイドライン,その他国際協力機構(JICA)から提出された資料。
  • (2)案件に関する情報は,交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構(JICA)のプレスリリース及び事業事前評価表を参照。
  • (3)なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構(JICA)が行う予定。
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