ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
平成29年9月15日
評価年月日:平成29年9月11日
評価責任者:国別開発協力第二課長 寺田 広紀
1 案件概要
(1)供与国名
インド
(2)案件名
ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道整備計画
(3)目的・事業内容
- ア 目的
インドのマハラシュトラ州ムンバイからグジャラート州アーメダバード間において,日本の新幹線システムに基づき,高速鉄道及び研修施設を建設することにより,大量かつ高頻度な旅客輸送のシステムの構築を図り,もってインド国内の広範囲における効率的な旅客輸送システムの実現を通じて,連結性の強化に寄与するもの。 - イ 主要事業内容
本件は,日本の新幹線システムの導入を日印首脳間で合意した「ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道」を整備するためのセクター・プロジェクト・ローンであり,(ア)ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道建設計画(第一期),(イ)ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道研修施設建設計画の2つの案件(サブ・プロジェクト)から成る。
(ア)ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道建設計画(第一期)
- a 事業内容
- マハラシュトラ州ムンバイからグジャラート州アーメダバード間において,日本の新幹線システムを利用して高速鉄道を建設するもの。
- b 供与条件
供与限度額 金利 償還期間 調達条件 895.47億円 0.1% 50年(うち据置期間15年) タイド - c 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- (a)EIA(環境影響評価)
本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)に掲げる大規模な鉄道事業に該当し,カテゴリAに分類される。本計画に係る環境影響評価(EIA)報告書は日印共同調査によって作成され,実施機関の承認を得て外部に公開されている。 - (b)用地取得及び住民移転
日印共同調査では,本計画のための用地面積は16,890ヘクタールであり,これに伴い2,757世帯が影響を受けると予測されている。現在,実施機関が詳細移転計画作成のための調査を実施しており,JICAによる今後の審査を通じて詳細を確認する。 - (c)外部要因リスク
日印共同調査において,特段の外的要因リスクは想定されていない。今後,別途実施する調査にて詳細を確認する。
- (a)EIA(環境影響評価)
(イ)ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道研修施設建設計画
- a 事業内容
- グジャラート州において,ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道に係る研修施設を建設するもの。
- b 供与条件
供与限度額 金利 償還期間 調達条件 104.53億円 0.1% 50年(うち据置期間15年) タイド - c 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- (a)環境社会配慮
本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)上,環境への望ましくない影響は最小限であると判断されるため,カテゴリCに該当する。 - (b)用地取得及び住民移転:特になし。
- (c)外部要因リスク:特になし。
- (a)環境社会配慮
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア 開発ニーズ
インドの人口は,1991年には8億4,400万人であったのに対して,2011年には12億1,000万人に達し,2022年には約14億人となり世界第一位となることが予想されている。かかる人口増加に加え,近年の年率7%を超える急速な経済成長に伴い,国内の旅客及び貨物輸送量は急増しており,既存の輸送システムでは,これら旅客・貨物輸送の需要を満たすことができないため,安定した大量輸送システムの構築は急務である。 - イ 我が国の基本政策との関係
2016年3月に策定された「国別援助方針」においては,インドの人口の約3割が依然として貧困状態にあること,電力,運輸等の経済インフラが絶対的に不足していることなどの開発ニーズを踏まえ,今後の対インドODAの重点目標として,(ア)連結性の強化,(イ)産業競争力の強化及び(ウ)持続的で包摂的な成長への支援を掲げている。本案件は,連結性の強化(上記(ア))に対応した支援であり,我が国の基本政策に合致する。
我が国の対インド国別援助方針(2016年3月)では,「連結性の強化」を重点分野の一つとして定め,開発課題に「地域ネットワークの整備」を位置付けており,本計画はこれに合致する。また,インドは,日本と価値観を共有するアジアの主要国の一つであり,「自由で開かれたインド太平洋戦略」においても,同国との二国間関係は高い相乗効果を生むことが期待されており,同国への支援は,外交政策上重要である。
(2)効率性
高速鉄道建設にあたり,高速鉄道研修施設の建設を並行して進めることにより,事業実施の迅速化・効率化を図る。
(3)有効性
現行の在来線特急では,ムンバイ-アーメダバード間約500キロメートルの移動に約7時間かかるところを,事業完成後の2023年には,高速鉄道を利用すると約2時間に短縮される見込みである。
また,日本の新幹線システムに基づき,高速鉄道を建設することにより,大量かつ高頻度な旅客輸送システムの構築を図り,もってインド国内広範囲における効率的な旅客輸送システムの実現が期待される。
さらに,高速鉄道の建設に並行して,研修施設を建設することにより,日本の新幹線システムの運営・維持管理に係る人材育成に必要な研修実施体制の充実を図り,もってインドにおける高速鉄道の円滑な運営・維持管理及び安全で快適な旅客輸送システムの実現が期待される。
3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用
要請書,これまでの国際協力機構環境社会配慮ガイドライン,平成21年度インド国別評価報告書,その他国際協力機構より提出された資料。
案件に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース及び事業事前評価表を参照。
なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。