ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
平成29年9月15日
評価年月日:平成29年9月11日
評価責任者:国別開発協力第二課長 寺田 広紀
1 案件概要
(1)供与国名
インド
(2)案件名
コルカタ東西地下鉄建設計画(第三期)
(3)目的・事業内容
西ベンガル州のコルカタ都市圏において,大量交通輸送システムを建設することにより,増加する輸送需要への対応を図り,もって同都市圏の交通混雑の緩和と交通公害減少を通じた地域経済の発展及び都市環境の改善により,産業競争力の強化に寄与するものである。
- ア 主要事業内容
- 地下区間の土木工事,信号・通信システム,自動料金収受システム,車両調達,トンネル換気システム,駅環境管理システム
- コンサルティング・サービス(基本設計・入札補助・施工監理等)
- イ 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 259.03億円 1.2% 30(10)年 一般アンタイド (注)コンサルティング・サービス部分は金利0.01%を適用。
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- ア EIA(環境影響評価)
本計画は,「環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン」(2002年4月制定)に掲げる鉄道セクターに該当し,影響を及ぼしやすい特性を伴うため,「国カテゴリAに該当する。本計画に係る環境影響評価(EIA)報告書は,インド国内法上作成が義務付けられていないが,実施機関によりEIA報告書が作成され,西ベンガル州規定に基づき2006年11月に同州環境局より承認済みである。その後,2007年9月及び2017年2月に修正版EIA報告書が作成されている。(修正版EIAの承認は不要。) - イ 用地取得及び住民移転
本計画に必要な用地取得面積は19.5ヘクタール。本計画により移転が必要な住居及び構造物は490戸となる。KMRCLは,用地取得・住民移転対象者との協議を開催してきており,用地取得法及びコルカタ交通公社(KMRCL)が作成した住民移転計画に基づき,2017年12月までに用地取得・住民移転の手続きが完了する予定である。なお,ステークホルダー協議では事業に対する特段の反対意見は確認されていない。 - ウ 外部要因リスク:特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア 開発ニーズ
インドでは近年急速な都市化が進み,自動車及び二輪車の登録台数が急激に増加している一方で,公共交通インフラの整備が進んでおらず,デリー,ムンバイ等の大都市では,道路交通需要の拡大に伴う交通渋滞が重大な問題となっており,経済損失並びに大気汚染・騒音等の自動車公害による健康被害が深刻化している。このため,交通渋滞緩和及び都市環境の改善を図るための公共交通システムの整備が必要となっている。
インド政府は上記の課題に対応するため,近年の経済成長に伴う輸送需要に対応することに加え,安全性・エネルギー効率・社会環境保全の観点から,公共交通システムの整備を重視しており,2012年から2017年の都市鉄道事業への投資額を1兆3千億ルピー(1ルピー=約1,70円(2017年9月現在))と見込んでいる
コルカタ都市圏においては人口が過密であることに加え,公共交通が道路交通に大きく依存している。一方,市内における道路面積率が極端に小さいことにより,交通混雑が激化し,大気汚染・騒音など自動車に起因する問題が深刻化している。2001年に策定した「コルカタ都市圏交通改善マスタープラン」(Kolkata Metropolis Traffic Improvement Master Plan)の中で,増大する交通量と深刻化する環境問題に対応するため,道路交通から軌道交通へのシフトを促す目的で,大量輸送システムを建設することが大きな柱となっており,本計画は,これら計画・政策を実現する優先事業と位置付けられている。
本計画を実施することは,西ベンガル州のコルカタ都市圏において,大量交通輸送システムを建設することにより,増加する輸送需要への対応を図り,もって同都市圏の交通混雑の緩和と交通公害減少を通じた地域経済の発展及び都市環境の改善に寄与するものであり,インドの開発政策との高い整合性を有している。 - イ 我が国の基本政策との関係
2016年3月に策定された「対インド国別援助方針」においては,今後の対インドODAの重点目標として,(ア)連結性の強化,(イ)産業競争力の強化及び(ウ)持続的で包摂的な成長への支援を掲げている。本計画は,連結性向上に資する案件であることから,上記(ア)に合致する。
我が国の対インド国別援助方針(2016年3月)では,「連結性の強化」を重点分野の一つとして定め,開発課題に「地域ネットワークの整備」を位置付けており,本計画はこれに合致する。また,インドは,日本と価値観を共有するアジアの主要国の一つであり,「自由で開かれたインド太平洋戦略」においても,同国との二国間関係は高い相乗効果を生むことが期待されており,同国への支援は,外交政策上重要である。
(2)効率性
本計画において,財務面の強化のためには利用率の向上が不可欠であり,地下鉄路線がバス路線と競合しないように西ベンガル州交通局が調整を行い,バス路線は本事業のフィーダー輸送の役割を担うことになっている。また,更なる財務体質強化のために,コルカタメトロは広告・不動産開発の関連事業を実施する。
(3)有効性
運用・効果指標(いずれも事業完成2年後(2022年)見込み)として,車両稼動率(89.4%/年),運行数(213本/日・1方向)等を設定している。
また,本計画の実施により,西ベンガル州のコルカタ都市圏において,大量交通輸送システムを建設することにより,増加する輸送需要への対応を図り,もって同都市圏の交通混雑の緩和と交通公害減少を通じた地域経済の発展及び都市環境の改善に寄与することが期待される。
3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用
要請書,インド国別評価報告書,国際協力機構環境社会配慮ガイドライン,その他国際協力機構から提出された資料。
案件に関する情報は,交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。