ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
平成29年7月6日
評価年月日:平成29年2月10日
評価責任者:国別開発協力第三課長 大場 雄一
1 案件名
1-1 供与国名
スワジランド王国
1-2 案件名
包摂的な教育の推進のための中等学校建設計画
1-3 目的・事業内容
本計画は,中等学校建設及び機材整備を行うことにより,障害をもつ子どもに配慮した学習環境の向上を図り,もって障害を持つ子どもの中等教育への公平なアクセスとともに,人材育成と社会的弱者の基礎生活の向上に寄与する。供与限度額は17.23億円である。
1-4 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン(2010年4月)」上,環境社会配慮カテゴリーはCであり,環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)スワジランドは,高い失業率やHIV/エイズ罹患率,頻発する干ばつによる食料不足など多くの脆弱性を抱えている。貧困率は60%を超えており,国民の約3分の2が貧困層となっている。
- (2)同国の絶対的貧困の撲滅を目指し,スワジランド政府は「国家開発計画:ビジョン2022」(1997年)及び「貧困削減アクションプラン」(2007年)において,初等教育及び中等教育を始めとする人的資源開発への投資を重点戦略として設定した。また,「教育訓練セクター政策」(2011年)では性別,生活習慣,健康,障害の有無,学習能力,経済力等の条件によらず全ての子どもの就学ニーズに応じる教育を「インクルーシブ教育」とし,全ての教育段階において物理的に可能な限り全ての子どもが普通校で学ぶことを目標に小学校を中心としてインクルーシブ教育の普及に取り組んでいる。
- (3)一方,財政が逼迫した状況が続いている同国では,中等学校が十分に整備されておらず,人口流入の大きい都市部での教室不足や,地方部における遠距離通学が課題となっている。特に障害を持つ子どもにとっては受入れ先が見つからず,入学がより困難となっている。2015年時点でインクルーシブ教育モデル小学校は9校設立されているが,中等学校は1校のみであり,同モデル中等学校の増設が急務となっている。中等学校建設にあたっては,人間の安全保障の観点から,貧困など個人の尊厳,生命,生活に対する脅威への対応が必要であり,無償資金協力が適当である。
- (4)我が国は対スワジランド国別援助方針において,貧困削減に向けた開発への支援を基本方針として,「人材育成と社会的弱者の基礎生活の向上」のための支援を重点分野として定めており,本計画は右に沿ったものである。また,我が国は第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)において,平和と安定の実現に向けた基礎造りとして教育及び職業訓練に取り組む旨表明していることから,本計画はその支援策をスワジランドにおいて具現化するものである。
2-2 効率性
- (1)本計画においては,先方政府より当初12サイトの要請がなされたが,最も優先度の高い4サイトに絞り込んだ。また,機材についても,インクルーシブ教育に必要な機材に絞り込みを行い,当初の品目数から大幅に削減した。
- (2)インクルーシブ施設としての機能を保持しつつ,建設資材の選定,仕上げ工事に関するコスト縮減を図った。また,コンパクトな施設配置等により,外構施工数量の低減を図った。
2-3 有効性
本計画の実施により,以下のような成果が期待される。
- (1)インクルーシブ教育モデル中等学校の新設により,障害に配慮した基礎的環境を備えた教室数が事業完成5年後の2024年までに20室整備され,800名の生徒を収容可能にする。
- (2)障害のある生徒にとってバリアの少ない教育環境が整備され,学習の質と意欲が向上する。
- (3)対象校がインクルーシブ教育モデル中等学校として関係者によって参照・視察等されることにより,スワジランドにおける同モデル教育の普及に貢献する。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)スワジランド政府からの要請書
- (2)「インクルーシブ教育推進のための中等学校建設計画」協力準備調査報告書
(JICAを通じて入手可能) - (3)「日本の教育協力政策2011-2015」の評価(ODA評価室)