ODA(政府開発援助)

平成29年1月12日

評価年月日:平成28年12月16日
評価責任者:国別開発協力第三課長 大場 雄一

1 案件概要

(1)供与国名

イラク共和国

(2)案件名

電力セクター復興計画(フェーズ3)

(3)目的・事業内容

 「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の影響を受けたアンバール県や,バグダッド県とその周辺地域を中心に,主に132キロボルト変電所建設等,変電施設を整備することにより,電力供給の安定化を図り,もって同国の経済基礎インフラの強化に寄与する。

  • ア 主要事業内容
    • 土木工事,資機材調達
    • コンサルティング・サービス
  • イ 供与条件
    供与限度額 金利 償還(据置)期間 調達条件
    272.2億円 円LIBOR+5bp 15(5)年 一般アンタイド

    (注)下限金利は,年0.1%。また,コンサルティング・サービス部分の金利は0.01%を適用。

(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点

EIA(環境影響評価):「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2016年4月公布)に掲げる影響を受けやすい地域又はその周辺に該当せず,自然環境への望ましくない影響は最小限であると想定される。イラク電力省は132キロボルト変電所建設において初期環境調査(IEE)報告書を作成し、本体工事開始までに環境省より許認可取得予定。
土地収用及び住民移転:本計画の各サイト候補地はイラク政府の管轄の用地であり,新たな用地取得及び住民移転は伴わず,また,非耕作地から用地が選択される予定。
外部要因リスク:国内の一部地域はISILの影響を受けているものの,本計画の対象地はイラク政府が管轄する地域であり,実施においてイラク政府と連携し安全対策を行うことで,治安上のリスクに対応する予定。

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

開発ニーズ
 イラクでは,1980年代以降3度にわたる戦争と長年の経済制裁の影響により,発電所や送配電施設等の電力インフラの破壊と老朽化が進行した。2003年のイラク戦争終結以降,イラク政府は電力インフラの復旧を進めているものの,2016年現在,イラクでは国内電力需要約21,500メガワットに対して,約13,300メガワット程度の電力供給能力にとどまっており,1日10時間以上の停電も珍しくない。
 かかる状況の中,国内の電力供給は治安が比較的安定している中部・南部の発電施設に依存している。特に中部のバグダッド県とその周辺地域は,国内避難民の流入等による人口増加のため電力需要が伸びていることに加え,南部のバスラ県等の発電所で発電された電力を400キロボルト等超高圧送電線を通じてイラク各所に供給するハブ地点の役割も果たしており,電力施設整備のニーズが高い。
 また,過去の戦争で送配電網が破壊され,その整備が不足している状況に加え,ISIL侵攻の影響により,変電所を中心とする電力施設の被害も生じており,電力供給が一層困難な状況となっている。特に西部のアンバール県では,ISILからの奪還作戦により元の住まいを追われた住民の解放地域への帰還が開始しているが,公共施設等に十分な電力が供給されておらず,喫緊の対応が必要とされている。
我が国の基本政策との関係
 イラクの安定と発展は,中東地域及び国際社会の平和と安定にとって極めて重要であり,我が国として,国際社会の一員としてイラク支援に相応の貢献をしていくことが肝要であり,開発協力大綱の重点課題である「平和で安全な社会の実現」にも資するものである。
 我が国は,国別援助方針において,イラクに対し,「経済成長のための産業の振興と多角化」,「経済基礎インフラの強化」及び「生活基盤の整備」を重点分野として協力していくこととしている。国際秩序を揺るがすイスラム過激派対策にも取り組む一方で,破壊された電力インフラの復旧や電力需給ギャップの解消という課題を抱えるイラクを支援することは,国別援助方針の「経済基礎インフラの強化」に資するものであり,電力の安定供給が市民生活に直結している点とあわせ非常に意義深い。我が国は既に,送変電施設の整備等の有償資金協力「電力セクター復興計画」(2007年4月E/N署名),「電力セクター復興計画(フェーズ2)」(2015年5月E/N署名)を実施している。
 本件はインフラ整備を通じて,ISILから解放された地域への人々の帰還を促進する緊急対応の側面があるとともに,基礎的公共サービスの復旧への貢献として,地域の安定化にも資するものである。2016年のG7議長国として我が国が伊勢志摩サミットにおいて表明した中東安定化支援に含まれるものであり,本計画を着実に実施していくことは,外交上の戦略的意義が認められる。

(2)効率性

 2003年度以降,イラクに対して電力設備維持管理等に係る電力分野の技術協力(研修等)を実施しており,当該分野での相乗効果が見込まれる。

(3)有効性

 本計画の実施を通じ,変電所建設等,変電施設を整備することにより,電力供給の安定化を図り,もって同国の経済基礎インフラの強化に寄与することが期待される。(サブ・プロジェクト確定後に,ベースライン調査を実施し,基準値(2016年)及び目標値(2022年,事業完成2年後)を設定予定。)
 さらに,イラクの経済・社会の発展を通じた我が国との二国間関係の強化が期待される。

3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用

 要請書,国際協力機構環境社会配慮ガイドライン別ウィンドウで開く,債務免除の評価(2015年度),その他国際協力機構より提出された資料。
 案件に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース別ウィンドウで開く及び事業事前評価表別ウィンドウで開くを参照。
 なお,本計画に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。

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