2022年10月
1.国名・都市名
パプアニューギニア独立国(国際電話国番号675)
2.公館の住所・電話番号
Godwit Road, Port Moresby, National Capital District (NCD)
休館日:毎週土日曜日
電話:321-1800
3.医務官駐在公館
4.衛生・医療事情一般
パプアニューギニア(以下PNG)は、南緯6度、東経147度に位置する大洋州の島国で、ニューギニア島の東半分と周辺の島々から形成されています。
PNGは中央高地と南岸の一部を除き高温多湿の熱帯雨林気候で、1年は雨季(11~4月)とやや気温が下がる乾季(5~10月)に分かれます。年間を通じて湿度が高く、細菌やカビが繁殖しやすい環境です。電気・水道などは国民の数%ほどしか受益しておらず、都市部住民の多くは生活インフラの無い水上住宅やセトルメント(違法居住区)に居住しています。ポートモレスビー市内のホテルや一部住宅には電気や水道は設置されていますが、一般的に上水道は飲用に適していません。停電も頻繁に起こるため、滞在の際には滞在先の発電機の有無を前もって確認しておくことが必要です。
PNGの保健・衛生関係の指標は太平洋諸国の中でも低位に留まっています。国内の主要都市には国立病院が設置されていますが、資金・医療スタッフ不足・施設の老朽化などの問題があり、その大部分で標準的な医療が行われていない状況です。PNGにおける基幹病院として、首都のポートモレスビーにはポートモレスビー総合病院(Port Moresby General Hospital: POMGEN)がありますが、同病院でさえMRIといった高度な医療機器は無く、CTは技師が不在のためあまり稼働していません。故障した医療機器が混在した状態で使用されていることもあり、院内の衛生状態や医療スタッフの水準は極めて低いと言わざるを得ません。また、脳神経外科領域の手術は当国では行われておらず、悪性腫瘍や先天性疾患などの治療に関しても標準的な治療を望むことは困難です。日本では考えられないことですが、病院内に盗賊が押しかけて襲われるといった事件も発生しています。ポートモレスビー市内には一部富裕層や外国人を対象にした私立病院が数カ所あります。邦人はこれらの私立病院を受診せざるを得ません。外国人を対象にした病院においても任せる事ができる治療は応急処置程度です。もし邦人が手術等の高度な医療が必要となった場合は必然的に国外への移送となります。移送先としてはオーストラリアのケアンズもしくはブリスベンに移送されることが多いです。国外移送には多額の費用が必要となりますので、当地を訪れる際には加入している保険が十分な補償金額である事を必ず確認して下さい。
南太平洋地域にはPNGとフィジーに医師養成機関があります。パプアニューギニア大学では、毎年50名の医師を養成しています。PNG国内の総医師数は約500人(2015年)で、治安の悪さと低賃金のために英連邦内の国、特に豪州に移住する医師が多く、慢性的な医師不足の状態となっています。他方で、首都ポートモレスビーにおいては、近年私立病院を中心にインド・フィリピン・中国系の外国人医師が流入しています。
PNGには医療保険制度は存在しません。2014年より公立病院における医療費無料化政策が始まりましたが、そのために公立病院では救急を含めて受診の待ち時間が数時間以上と極めて長くなっています。医療レベルの問題もあり、邦人が公立病院を受診するのは特別な地域を除いて現実的ではありません。やむを得ず私立病院を受診することになりますが、私立病院では治療費が高額になります。また、治療前に多額の保証金を支払う必要があり、特に入院の場合は高額となります(10~50万円)。クレジットカードの支払限度額を超過することもありますのでご注意ください。
5.かかり易い病気・怪我
(1)マラリア:
クロロキン耐性(治療薬が効かない)のマラリアが流行しています。標高2000メートル以上の山岳地帯を除き、PNGでは1年中マラリアに感染する可能性があります。短期間の首都ポートモレスビーでの滞在や、地方でもリゾートホテルを利用する場合は、マラリア感染のリスクはそれほど高くないため、原則的に予防内服は必要ありませんが、旅行の目的地や期間によっては予防内服を行うことを考慮する必要があります。予防薬によってはマラリア流行地に入る前から内服を開始することが必要ですので、出発4週前までには熱帯病や旅行医学に詳しい医師に相談して対策を講じてください。
PNGのマラリアの80%は熱帯熱マラリアです。熱帯熱マラリアは重症化しやすく、生命にかかわる事があります。妊婦や乳児、脾臓の無い人はマラリアが重症化しやすいため、PNGへの旅行は十分な感染予防対策を講じてください。
マラリアを媒介する蚊は通常夕刻から明け方にかけて吸血行動をとりますので、日没後に外出する場合は皮膚の露出を避ける注意が必要です。蚊取り線香や防虫剤の使用、蚊帳の使用、長袖の着衣・靴下の使用など、蚊に刺されない工夫をすることが重要です。マラリアの症状は、まず悪寒・高熱ですが、頭痛や下痢といった感冒様症状で発症する事もありますので、異常を感じた場合は早めに医療機関で血液検査を受けて下さい。検査が陰性の場合でも、発熱が続く場合は繰り返し血液検査を受けてください。数ヶ月後にマラリアが発症する事がありますので、帰国後に異常があれば受診時には必ずPNGへの渡航歴を自ら申し出てください。
PNGにおいてはマラリアが歴史的に重大な病気であった背景もあり、発熱で受診した場合、かなりの確率で医師からマラリアと言われます。病院によっては十分な検査を行うことなく投薬されるケースも見受けられます。マラリアの症状に類似した熱帯性疾患は多数ありますので、病院を受診される際は信頼できる医療機関を選択することが重要となります。
(2)デング熱:
典型的な症状は、発熱、発疹、頭痛、関節痛などです。日中屋外で吸血行動をする蚊が媒介するウイルス性疾患であり、都市部で見られる事が多いです。重症化する場合もあり注意が必要です。マラリアと誤診される症例が多く、正確な患者数は不明ですが、診断技術の普及とともに患者数が増加する傾向にあります。
(3)結核:
PNGではマラリアに次いで患者数の多い疾患です。大部分の患者が治療を中断するため、感染が蔓延しています。地理的要因もあり、国内全土での正確なサーベイランスは行われておらず、一部報道では今後結核はPNGの国家の存亡に関わる問題になると言われています。多剤耐性結核菌の存在が国際的な懸念となっており、治療が益々困難になっているのも問題を大きくしている要因です。邦人が通常の生活で結核に罹患することは希ですが、免疫力の弱っている方や体力の低下している方の場合は注意が必要です。市中では排菌者(結核菌を排出している患者)が普通に生活していることを理解した上で、人混みを避けるようにしてください。
(4)腸チフス:
保菌者などが取り扱った汚染された飲食物から感染する細菌感染症です。症状は高熱、頭痛、下痢、便秘などで、初発症状はマラリアと類似しています。抗菌剤で適切に治療する必要があり、治療開始が遅れ腸穿孔を起こすと致命的になる事もあります。当地は高温・多湿であるため、チフス以外の病原体でも食中毒をおこしやすい環境にあります。生水や氷の摂取は控え、食物は冷蔵庫に保存してください。
(5)外傷:
ポートモレスビー市内は治安が劣悪で、「ラスカル」と呼ばれる武装強盗集団による被害が多発しています。車両走行中に投石を受け、停車したところを殴打されたりブッシュナイフなどの刃物で切りつけられたりする被害がほぼ毎日のように発生しています。単独行動は避ける、ホテルの敷地から出ない、日没後の外出は避ける、車両はかならずロックするなどの予防的行動が重要です。また、当地は交通法規が十分遵守されておらず、無謀な運転も多いことから、歩行中も含め交通事故には十分注意する必要があります。
(6)皮膚感染症:
小さな傷から進入した細菌が繁殖し腫れ物が大きくなり、切開・排膿が必要となることがあり、当地ではボイルと呼ばれています。皮膚を清潔に保つとともに蚊や昆虫類に刺されないようにすることが重要です。
(7)A型肝炎:
ウイルスが原因の経口感染症です。大部分は海産物などの生もの摂取で感染します。典型的な症状は、倦怠感、食欲不振、黄疸などです。旅行前にワクチンを接種しておく事をお勧めします。
(8)コレラ:
コレラ菌に汚染された水、氷、食品などを経口摂取することによって起こる、下痢を主症状とする病気です。潜伏期間は数時間から5日で、その後下痢や嘔吐などの症状が見られます。腹痛や発熱はほとんどみられません。コレラでみられる下痢は軽い場合もありますが、重い下痢(1日5回以上)の場合は脱水に十分注意し, 速やかに医療機関を受診してください。さらに重篤な場合は多量の水のような便(米のとぎ汁様)となり、重度の脱水症状から血液の循環量が減少するなどして、特に幼児や高齢者の場合は死亡に至る例もあります。
治療としては、水と電解質(塩分)の損失を補給するために、軽症の場合は経口補液、重症の場合は入院して静脈内輸液及び抗菌剤を投与します。生水の飲水、生ものの摂取を避けるなど、衛生に対する意識を高め予防対策を行うことが重要です。
(9)性感染症:
HIV/AIDSが近年蔓延しています。正確な統計はまだ得られていませんが、人口の2%ほど(大洋州では最も高い感染率)の感染者がいると推定され、増加傾向にあります。
(10)シガテラ毒素:
熱帯の珊瑚礁に生える有毒な藻を食する魚をさらに大きな肉食魚が食べることにより累積(生物濃縮)した毒素によって起こる中毒症状で、食後1~8時間後に、吐き気、下痢、腹痛といった消化器症状の他、めまい、麻痺、ドライアイスセンセーションと呼ばれるドライアイスに触ったような感覚の異常などの神経症状が出現します。加熱しても解毒されません。現地の人が食べていないような、熱帯の大型の魚を食べる事は避けるようにして下さい。
(11)ポリオ:
ポリオはポリオウィルスが経口感染することで発症する病気です。ほとんどは発症しませんが、小児で「麻痺」を起こし発症することがあります。2000年に「根絶宣言」がされましたが、2018年6月に感染者が確認され、再び「ポリオ発生国」となりました。当地を訪問する際は予防接種を受ける事をお勧めします。
6.健康上心がける事
当地での生活では下の2点に注意することでかなりの疾患の予防が可能になります。
(1)蚊に刺されないようにする(マラリア、デング熱、ボイルなど)
(2)食物に注意する(A型肝炎、腸チフス、コレラ、シガテラ中毒など)
(1)の対策としては、外出時の着衣はなるべく露出部分を少なくする、女性の場合スカートはなるべく避ける、昆虫忌虫剤を使用する、蚊帳を使用する、網戸を整備する、室内はクーラーをかけ温度を下げる、扇風機や天井のファンを利用するなど、各自の住居環境と生活様式に合わせた防蚊対策を施されることが重要です。
(2)の対策としては、十分加熱処理したものを食し、生水や氷の摂取は避ける、葉物野菜などは十分水道水で洗浄する、まな板や包丁などの調理道具の衛生状態に気をつける、食品の賞味期限や臭いに気をつける、信頼できないレストランでは生ものの摂取は控えるなど、常に口から摂取する物に対して気を配ることが大事です。また、外出後や食前の手洗いを十分に行うことも重要です。
その他
治安が悪いため、街中での行動が制限されます。早朝のビーチ沿いのジョギングや夜間の外出は標的にされやすく危険が伴います。外出が制限される当地での生活は、閉塞感や緊張感もあり精神衛生上も好ましくありません。各個人が適切な気分転換や趣味を持つことも、長期滞在の場合重要な要素となってきます。
当地には固有の毒蛇が複数生息しています。市内にも時折出没しており、小さい個体でも強い毒性を有します。蛇を見かけた場合は近寄らないようして下さい。
7.予防接種
現地のワクチン接種医療機関等についてはこちら(PDF)
(1)赴任者に必要な予防接種(成人・小児)
破傷風・A型肝炎・B型肝炎は、予防接種をお勧めします。
症例数は少ないものの日本脳炎の報告があります。滞在地によっては接種することも考慮して下さい。
腸チフスは、可能ならば接種を考慮してください。
PNG国内の狂犬病の報告はありません。
黄熱病流行地域からの旅行者には黄熱病ワクチンの接種証明が必要です。
それ以外は入国時に予防接種証明を要求されることはありません。
注)ポリオの予防接種に関しては、2018年7月のWHO緊急勧告により、当地を訪問する際にはポリオの予防接種を受けることを強く勧めます。
(2)現地の小児定期予防接種一覧
初回 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | |
---|---|---|---|---|
BCG/HepB | 生直後 | |||
ポリオ(経口生/不活化ワクチン) | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | 9ヶ月 |
DPT(三種混合)/Hib/HepB ※2 | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | |
MR(麻疹/風疹) | 9ヶ月 | 18ヶ月 | ||
ムンプス | 実施されていない | |||
肺炎球菌(PCV13) | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 |
※ 1 PNGではワクチン接種は制度化されていません。そのため、かなりの未接種乳幼児が存在しています。未接種児童が多いため、ポートモレスビー市内で麻疹の流行が散発的に見られます。参考までに麻疹ワクチンの接種率は50%ほどです。
※ 2 通常のDPT(三種混合ワクチン:ジフテリア・百日咳・破傷風)にインフルエンザb菌、B型肝炎の2種を加えて5種混合として接種されています。
(3)小児が現地校に入学・入園する際に必要な予防接種・接種証明
当地のインターナショナルスクールに入学するにあたり、ワクチン接種証明書を要求されたことはありません。
8.病気になった場合(医療機関)
◎ポートモレスビー市
- (1)Pacific International Hospital ( PIH )
- 所在地:Taurama 3 Mile, Po Box 6103, Boroko, Port Moresby NCD
- 電話:7998-8000
- Email:info@pihpng.com
- ホームページ:http://www.pihpng.com
- 概要:首都ポートモレスビー市にある24時間救急患者を受け入れる私立病院です。救命救急科をはじめ、一般外科、内科(家庭医)、循環器科、整形外科、泌尿器科、産科婦人科、小児科、耳鼻咽喉科、眼科、歯科の受診科かあり、CT・MRIが稼動しており、各種カテーテルを用いた検査や内視鏡検査が可能です。インド系の医師を中心に運営されています。ICUを含め100床の入院病床があります。邦人の入院実績もあり、病状が重篤でなければ入院治療は可能です。クレジットカードでの支払いが可能ですが、治療に際してはデポジットが必要です。入院になるとさらに高額なデポジットを支払う必要があります。VISA、MASTER CARD等のクレジットカードが利用可能です。現時点で邦人が入院治療可能と思われる唯一の施設です。
- (2)ASPEN Medical
- 所在地:Building 345, Champion Palade, Town, Port Moresby NCD
- 電話:321 0202 / 321 0187
- ホームページ:https://www.aspenmedicalharbourcity.com/
- 概要:2014年に開院した豪州医療企業によるクリニックです。豪州人とPNG人の総合診療医の2名体制で診療にあたっています。簡単な外科治療も可能な処置室があります。入院設備は無く、救急や時間外対応は行われていません。受付時間は、月~金曜日8:30-17:00、土曜日9:00-13:00、日曜日と祝日は休みです。
- (3)Paradise Private Hospital
- 所在地:Po Box 7112, Taurama Road, 3Mile, Boroko, Port Moresby
- 電話:325-6022 FAX 325-8212
- Email:info@paradiseprivatehospital.com.pg
- ホームページ:http://www.paradiseprivatehospital.co
- 概要:1983年に理事長のSios医師と豪州人でパプアニューギニア大学産婦人科教授のMola医師が共同で設立した国内最初の私立病院です。上記のASPEN Medicalと提携しています。
- (4)2K Medical Centre
- 所在地:Angau Drive Corner, Turua Street, Boroko, Port Moresby
- 電話:323-7730
- Email:medcare@2kmc.com
- ホームページ:https://2kmed.com/
- 概要:入院設備はありませんが、24時間対応です。
歯科
- (1)WR DENTAL CLINIC
- 所在地:Islander Drive, Waigani Drive, Port Moresby ホリディインホテル、グランドフロア
- 電話:303-2001, 76280780 (mobile)
- ホームページ:https://wrdentalclinicpng.webnode.page/
- 概要:在パプア歴10年近いポーランド人女性歯科医院長が診療しています。診療室は清潔です。
9.その他の詳細情報入手先
(1)在パプアニューギニア大使館のホームページ https://www.png.emb-japan.go.jp/j/index.html
(2)厚生労働省検疫所のホームページ https://www.forth.go.jp/destinations/country/png.html
(3)世界保健機構(WHO)のPNGに関するページ(英文) http://www.who.int/countries/png/en/
(4)米国疾病管理センター(CDC)のPNGに関するホームページ(英文) http://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/papua-new-guinea
(5)PNG保健省ホームページ(英文) http://www.health.gov.pg/index.html
10.一口メモ
PNGは英語が公用語で、 大部分の医療機関で英語による診療が可能です。主要言語版については「世界の医療事情」冒頭ページの一口メモ(英語)を参照願います。
11.新型コロナウイルス関連情報
PNG保健省は、新型コロナウイルス感染の可能性や症状(発熱、咳、呼吸困難等)がある場合、ホットライン(1800-200)に電話連絡し、滞在していた渡航先及び現在の所在地等を通報し、その後の病院での検査等について指示を仰ぐよう呼びかけています。
新型コロナウイルス陽性となった場合は、政府指定医療機関(Rita Flynn等)等に隔離されます。
なお、状況は今後変化する可能性がありますので、以下の新型コロナウイルス専用ページで最新の情報を確認して下さい。