世界の医療事情

令和7年4月24日

1 国名・都市名

 パプアニューギニア独立国(国際電話国番号675)

2 公館の住所・電話番号

Godwit Road, Port Moresby, National Capital District (NCD)
休館日:毎週土曜日、日曜日
電話:321-1800

4 衛生・医療事情一般

 パプアニューギニア(以下PNG)は、南緯9度、東経147度に位置する大洋州の島国で、ニューギニア島の東半分と周辺の島々から形成されています。

 PNGは中央高地と首都ポートモレスビーなどの南岸の一部を除き高温多湿の熱帯雨林気候で、1年は雨季(11~4月)とやや気温が下がる乾季(5~10月)に分かれます。年間を通じて湿度が高く、細菌やカビが繁殖しやすい気候です。現時点では電気・水道が供給されている地域は限られており、都市部においても住民の多くは生活インフラが十分整備されていないセトルメント(違法居住区)や水上住宅に居住しています。水質はほとんどの地域で世界保健機関(WHO)の基準を満たしていますが、ペットボトル飲料水や煮沸水を飲むことをおすすめします。また、停電が頻繁に発生しますので、滞在先の発電機の有無を事前に確認することをおすすめします。

 PNGの保健・衛生関係の指標は太平洋諸国の中でも低位です。主要都市には国立病院がありますが、資金・医療スタッフの不足や施設の老朽化などにより、適切な医療が提供されない状況が発生しています。基幹病院のポートモレスビー総合病院でさえMRIやCTが頻繁に故障し、検査を受けるまでに数週間を要することもあります。医療スタッフの水準についても未だ課題が多い状況です。医療施設内の警備にも問題があり、病院内での盗賊事件や暴力事件も発生しています。ポートモレスビー市内には裕福層や外国人を対象とした小規模な私立病院が数か所存在しており、邦人は通常これらの病院を受診していますが、高度な治療は受けられません。邦人に手術等の複雑な治療が必要となった場合には先進国への空路での移送が想定されますが、高額の移送費・治療費が必要となります。当地を訪れる際には保険に加入するとともに、緊急移送が保険対象に含まれている事を必ず確認して下さい。

 太平洋島嶼国地域ではPNGとフィジーに医師養成機関があります。パプアニューギニア大学医学部では、毎年50名の医師を養成しています。PNG国内の総医師数は約500人(2015年)ですが、より良い条件を求めて他国、特に豪州に移住する医師が多く、慢性的な医師不足となっています。他方、ポートモレスビーにおいては、近年私立病院を中心にインド・フィリピン・中国系の外国人医師が勤務するようになっています。

 PNGにはいわゆる国民皆保険制度は存在しません。2014年より公立病院における医療費無料化政策が始まりましたが、このため救急事案を含めて公立病院での受診の待ち時間が極めて長くなっています。医療レベルの問題もあり、邦人が公立病院を受診するのは現実的ではありませんが、私立病院の場合には治療費が高額になります。また、治療前に多額の保証金を支払う必要があり、特に入院の場合は事前に40~50万円相当の費用が請求されます。クレジットカードの支払限度額を超過することもありますのでご注意ください。

5 かかり易い病気・怪我

(1)マラリア

 薬剤耐性マラリア(薬が効かないマラリア)が流行しています。一部の山岳地帯を除き、PNGでは1年中マラリアに感染する可能性があります。旅行の目的地や期間によっては予防内服を考慮する必要があります。予防薬によってはマラリア流行地に入る前から開始することが必要ですので、出発4週前までには熱帯病や旅行医学に詳しい医師に相談して対策を講じてください。

 PNGのマラリアの約80%は熱帯熱マラリアです。熱帯熱マラリアは重症化しやすく、生命にかかわる事があります。妊婦や乳児、脾臓の無い人はマラリアが重症化しやすいため、十分な感染予防対策を講じてください。

 マラリアを媒介する蚊は通常夕刻から明け方にかけて吸血行動をとるので、日没後に外出する場合は皮膚の露出を避ける事が必要です。蚊取り線香、防虫剤、蚊帳、長袖の着衣、靴下の使用など、蚊に刺されない対策が重要です。マラリアの症状は、まず悪寒・高熱ですが、頭痛や下痢といった感冒様症状で発症する事もあります。異常を感じた場合は医療機関で血液検査を受けて下さい。検査が陰性の場合でも、発熱が続く場合は繰り返し血液検査を受けてください。数か月後にマラリアが発症する事がありますので、帰国後に異常があれば受診時には必ずPNGへの渡航歴を自ら申し出てください。

 PNGにおいてはマラリアが歴史的に重大な病気であった背景もあり、発熱で受診した場合、かなりの確率で医師からマラリアと言われます。病院によっては十分な検査を行うことなく投薬されるケースも見受けられます。マラリアの症状に類似した熱帯性疾患は多数ありますので、病院を受診される際は信頼できる医療機関を選択することが重要です。

(2)デング熱

 典型的な症状は、発熱、発疹、頭痛、関節痛などです。日中屋外で吸血行動をする蚊が媒介するウイルス性疾患であり、都市部で見られる事が多いです。重症化する場合もあり注意が必要です。マラリアと誤診される症例が多く、正確な患者数は不明ですが、診断技術の普及とともに患者数が増加する傾向にあります。

(3)結核

 結核はPNGの国家的な深刻な問題です。多くの患者が治療を受けないか、受けても途中で中断するため、感染が蔓延しています。国内全土での正確な調査は行われていません。多剤耐性結核菌の存在により、治療が益々困難になるのも問題を大きくしています。特に高齢者や免疫力や体力の低下している方の場合は注意が必要です。市中では結核菌を排出している患者が普通に生活していることを理解した上で、人混みを避けるようにしてください。

(4)腸チフス

 保菌者などが取り扱った汚染された飲食物から感染する細菌感染症です。症状は高熱、頭痛、下痢、便秘などで、初発症状はマラリアと類似しています。抗菌剤で適切に治療する必要があり、治療開始が遅れ腸穿孔を起こすと致命的になる事もあります。当地は高温・多湿であるため、チフス以外の病原体でも食中毒をおこしやすい環境にあります。生水や氷の摂取は控え、食物は冷蔵庫に保存してください。

(5)外傷

 ポートモレスビー市内は治安が劣悪で、「ラスカル」と呼ばれる武装強盗集団による被害が多発しています。車両走行中に投石され、停車したところを殴打されたりブッシュナイフなどの刃物で切りつけられたりする被害が発生しています。ホテルの敷地から徒歩で外出しない、単独行動は避ける、日没後の外出は避ける、車両はかならずロックするなどの予防的行動が重要です。また、当地は交通法規が十分遵守されておらず、無謀な運転も多いので、交通事故には十分注意する必要があります。

(6)皮膚感染症

 小さな傷から進入した細菌が繁殖し腫れ物が大きくなり、切開・排膿が必要となることがあり、当地ではボイルと呼ばれています。皮膚を清潔に保つとともに蚊や昆虫類に刺されないようにすることが重要です。

(7)A型肝炎

 ウイルスが原因の経口感染症です。大部分は海産物などの生もの摂取で感染します。典型的な症状は、倦怠感、食欲不振、黄疸などです。旅行前にワクチンを接種しておく事をお勧めします。

(8)コレラ

 コレラ菌に汚染された水、氷、食品などを経口摂取することによって起こる、下痢や嘔吐を主症状とする病気です。潜伏期間は数時間から5日で、典型例では米のとぎ汁様の激しい下痢が見られます。腹痛や発熱の頻度は低いです。幼児や高齢者の場合、血液量低下から死亡に至る例もあります。重い下痢(1日5回以上)の場合は脱水に十分注意し、速やかに医療機関を受診してください。

 治療として軽症の場合は経口補液、重症の場合は入院して静脈内輸液及び抗菌剤を投与します。生水の飲水、生ものの摂取を避けるなど、衛生に対する意識を高め予防対策を行うことが重要です。

(9)性感染症

 HIV/AIDSについては、人口の1%ほどの感染者がいると推定されており、増加傾向にあります。

(10)シガテラ毒素

 熱帯の珊瑚礁に生える藻が生産する天然毒を蓄積した魚によって起こる中毒です。食後1~8時間後に、吐き気、下痢、腹痛といった消化器症状の他、めまい、麻痺、ドライアイスセンセーションと呼ばれるドライアイスに触ったような感覚異常などの神経症状が出現します。加熱しても解毒されません。現地の人が食べていないような、熱帯の大型の魚を食べる事は避けるようにして下さい。

6 健康上心がけること

 当地での生活では下の2点に注意することでかなりの疾患の予防が可能になります。

  1. 蚊に刺されないようにする(マラリア、デング熱、ボイルなど)
  2. 食物に注意する(A型肝炎、腸チフス、コレラ、シガテラ中毒など)

 (1)の対策としては、外出時の着衣はなるべく露出部分を少なくする、女性の場合スカートはなるべく避ける、忌虫剤を使用する、蚊帳を使用する、網戸を整備する、室内はクーラーをかけ温度を下げる、扇風機や天井のファンを利用するなど、各自の住居環境と生活様式に合わせた防蚊対策を施されることが重要です。

 (2)の対策としては、十分加熱処理したものを食し、生水や氷の摂取は避ける、葉物野菜などは十分に洗浄する、まな板や包丁などの調理道具の衛生状態に気をつける、食品の賞味期限や臭いに気をつける、信頼できないレストランでは生ものの摂取は控えるなど、常に口から摂取する物に対して気を配ることが大事です。また、外出後や食前の手洗いを十分に行うことも重要です。

その他

 治安の悪さにより外出の機会が制限されますので、閉塞感や緊張感を感じることが多く精神衛生上も好ましくありません。各個人が適切な気分転換や趣味を持つことも、長期滞在の場合重要な要素となってきます。

 当地には固有の毒蛇が複数生息しています。市内にも時折出没しており、小さい個体でも強い毒性を有します。蛇を見かけた場合は近寄らないようして下さい。

7 予防接種

(1)赴任者に必要な予防接種(成人・小児)

 破傷風・A型肝炎・B型肝炎は、予防接種をお勧めします。

 日本脳炎・狂犬病は滞在地域や滞在期間等により接種を考慮してください。

 腸チフスは、可能ならば接種を考慮してください。

 黄熱病流行地域からの旅行者には黄熱病ワクチンの接種証明が必要です。

(2)現地の小児定期予防接種一覧

PNGの小児定期予防接種一覧
  初回 2回目 3回目 4回目
BCG/HepB 生直後      
ポリオ(経口生/不活化ワクチン) 1か月 2か月 3か月 9か月
DPT(三種混合)/Hib/HepB(注1) 1か月 2か月 3か月  
MR(麻疹/風疹) 6か月 9か月    
ムンプス 実施されていない      
肺炎球菌(PCV13) 1か月 2か月 3か月  

(注1)通常のDPT(三種混合ワクチン:ジフテリア・百日咳・破傷風)にヘモフィルスインフルエンザ菌b型、B型肝炎の2種を加えて5種混合として接種されています。

(3)小児が現地校に入学・入園する際に必要な予防接種・接種証明

 当地のインターナショナルスクールに入学するにあたり、ワクチン接種証明書を要求されたことはありません。

8 病気になった場合(医療機関)

ポートモレスビー市

(1)Pacific International Hospital(PIH)
所在地:Taurama 3 Mile, Po Box 6103, Boroko, Port Moresby NCD
電話:7998-8000
Email:info@pihpng.com
ホームページ:Pacific International Hospital(英語)別ウィンドウで開く
概要:ポートモレスビーにある私立病院です。救急外来、一般外科、内科(家庭医)、循環器科、整形外科、泌尿器科、産科婦人科、小児科、耳鼻咽喉科、眼科、歯科があります。CT・MRや各種カテーテルを用いた検査や内視鏡検査が可能です。ICUを含め100床の入院病床があります。邦人の入院実績もあります。クレジットカードでの支払いが可能ですが、治療に際してはデポジットが必要です。入院前にはさらに高額なデポジットを支払う必要があります。現時点で邦人が入院治療可能と思われる唯一の施設です。
(2)ASPEN Medical
所在地:Building 345, Champion Palade, Town, Port Moresby NCD
電話:321-0202、321-0187
ホームページ:ASPEN Medical(英語)別ウィンドウで開く
概要:2014年に開院した豪州医療企業によるクリニックです。豪州人とPNG人の総合診療医の3名体制で診療にあたっています。受付時間は、月曜日から金曜日8時30分から17時、土曜日9時から13時、日曜日と祝日は休みです。
(3)Paradise Private Hospital
所在地:Po Box 7112, Taurama Road, 3Mile, Boroko, Port Moresby
電話:325-6022
FAX:325-8212
Email:pphenquiries@pahgrp.com
ホームページ:Paradise Private Hospital(英語)別ウィンドウで開く
(4)2K Medical Centre
所在地:Angau Drive Corner, Turua Street, Boroko, Port Moresby
電話:323-7730
Email:medcare@2kmc.com
ホームページ:2K Medical Centre(英語)別ウィンドウで開く
概要:入院設備はありませんが、24時間対応です。

歯科

(1)WR DENTAL CLINIC
所在地:Islander Drive, Waigani Drive, Port Moresby、ホリディインホテル、グランドフロア
電話:303-2001, 7628-0780 (mobile
ホームページ:WR DENTAL CLINIC(英語)別ウィンドウで開く

10 一口メモ

 PNGは英語が公用語で、大部分の医療機関で英語による診療が可能です。主要言語版については「世界の医療事情」冒頭ページの一口メモ(英語)を参照願います。

世界の医療事情へ戻る