世界の医療事情

イラン

令和2年10月

1 国名

イラン・イスラム共和国(テヘラン、イスファハン、マシュハド)(国際電話国番号98 )

2 公館の住所・電話番号

在イラン日本国大使館
Embassy of Japan in Iran
No.162 Moghadas Ardebili Street, Tehran
電話:(021) 22660710(毎週金土休館)

4 衛生・医療事情一般

 首都テヘランは、標高1,000~1,800メートルの高地に位置し、年間を通じて乾燥し寒暖の差が大きい内陸性気候です。夏季には気温が40℃を超える一方、冬季には市街でも降雪があります。年間降水量は約200ミリと少なく、そのほとんどが12月から3月にかけての冬季に集中します。

 テヘランの水道水は、無菌で良質と言われていますが、日本と比べてカルシウムやマグネシウムを多く含む硬水で、下痢を起こすこともあるため注意が必要です。特に妊婦や乳幼児には、市販のミネラルウォーターの利用をお勧めします。また、テヘラン以外の水道水は飲用に適さないものもあります。

 自動車の排気ガスなどの影響で、テヘランなどの大都市では大気汚染が深刻な問題となっており、特に冬場に悪化して学校が休校になることもあります。

 テヘランなどの大都市の医療水準は比較的高く、CTやMRI等の高度医療機器を備えた病院も多くあります。しかし、各診療科の連携が不十分で適切な治療が行われない例もあり、プライバシー等に関する習慣の違いや言葉の問題等もあることから、詳しい検査・手術・入院等が必要な場合は、先進国の医療機関を受診されることをお勧めします。出産についても、およそ半数が帝王切開で行われていることや、赤ちゃんに異常があった場合のケアに不安があることから、本邦等の先進国での出産が安全です。

5 かかり易い病気・怪我

 テヘラン周辺に特別な風土病はありません。

(1)大気汚染の影響、持病、常用薬

 大気汚染が常態化しており、気管支喘息などの呼吸器疾患、アレルギー性疾患、高血圧症や心臓病などの循環器疾患が悪化したり、新たに発症したりする可能性があります。持病がある方は、渡航に際し主治医によくご相談ください。また、日本と同じ医薬品を購入することは困難ですので、常用薬は予め十分な量を日本からお持ちください。

(2)交通事故

 毎年、交通事故による死者は約2万人(日本約3,200人)、人口10万人あたりでは約25人(日本 約2.5 人)に上るなど、イランの交通事情はよくありません。

(3)マラリア

 発生地域は、イランの南東地域のシスタン・バルチスタン州および隣接するホルモズガン州とケルマーン州の農村部に限られていて、2018年時点ではパキスタンなどの隣国からの輸入症例が601例、輸入症例からハマダラカを媒介して偶然に感染した導入症例が20例のみになります。2017 年の統計によると、「三日熱マラリア」が90 %強、「熱帯熱マラリア」が数%でした。2010年の全国の患者数(輸入症例を除く)は1,800人以上でしたが、2017年には57人、2018年には0人と大きく減少しています。テヘラン、イスファハン、シーラーズなどの主な観光地では、マラリア予防薬は必要ありません。

(4)HIV/AIDS(エイズ)

 宗教戒律の厳格なイランにおいても、従来の麻薬中毒患者の注射器等の再使用による感染に加え、性行為によるHIV / AIDS(エイズ)感染が増える傾向にあります。新規感染者では、女性の割合が30%強まで増えており、その大半は性的感染が原因になっています。厚生省の報告によれば、2014年までに28,663人が確認されていた累計患者数は、2019年には40,735人と増加傾向にあります。さらに、2019年の現感染者数は21,635人ですが、未診断の者も含めると現感染者数は約6万人と見積もられています。

(5)コレラ

 夏季を中心に発生があり、2005年にイラン国内で約1,100人が発症、11人が死亡し、テヘラン地域でも217人の患者が確認されました。2011年に1,000人超、2013年にも約250人の患者の発生がありましたが、それ以外の年は数十人程度で推移しています。

(6)中東呼吸器症候群(MERS)

 アラビア半島諸国(サウジアラビア、アラブ首長国連邦など)を中心に発生が報告されており、2014年から2015年にかけてイラン国内で6人の患者が確認されました。ラクダとの接触や、未殺菌のラクダの乳など加熱不十分な食品を避けてください。

(7)その他

皮膚リーシュマニア症

 パキスタン国境に近い地方やペルシャ湾岸を中心に、テヘランを含むイラン全土において発生があります。サシチョウバエが媒介し、感染のあるイヌとの接触や咬傷によってもヒトに感染します。

クリミア・コンゴ出血熱

 家畜に付くダニが媒介し、初夏から秋にかけて、イスファハン、ホラサーン・ラザヴィ、シスタン・バルチスタン各州を中心に26の州において散発的に報告されています。

レプトスピラ症

 ネズミの尿等から感染する病気で、カスピ海沿岸地域で発生が報告されています。

狂犬病

 毎年、数名の死者が報告されています。万一、狂犬病にかかっているおそれのある動物に咬まれた場合には、創部の十分な洗浄と速やかな狂犬病ワクチンの接種が必要になります。

腸チフスやA型肝炎等の経口感染症

 夏季を中心にイラン全土で報告されています。

6 健康上心がける事

(1)夏季

 高温環境下での野外活動やスポーツでは、脱水症状を呈しやすいので、水分とミネラルの補給に気をつけてください。日本から粉末のイオン飲料を持参すると便利です。紫外線が強いので、日焼け止めを使用し、炎天下での長時間の活動は控えましょう。

(2)冬季

 テヘラン市など各地で大気汚染が深刻化します。当局から呼吸器や心臓の弱い人は外出を控えるよう勧告が出されることもあり、学校も閉鎖されます。なるべく外出は控え、やむを得ず外出する時は、マスクを着用し、帰宅後にうがいを励行してください。空気清浄機の設置も効果的です。最低気温が氷点下となり、積雪や道路の凍結があるので、外出時は防寒対策とすべり止め等の転倒防止対策を準備してください。暖房により皮膚が乾燥して荒れたり痒くなったりしますので、保湿クリームなどを使用してスキンケアに気をつけてください。加湿器も有効です。

(3)ストレス

 宗教上の戒律(飲酒の禁止、女性の服装規定など)が外国人にも課せられ、大気汚染による外出の制限や娯楽施設が少ないこと等から、精神的ストレスを感じる方が多く見受けられます。ストレス解消法として、テニス、ゴルフ、登山、スキーなどのスポーツや、絨毯織り、ペルシャ書道、民族音楽、ペルシャ語などの習い事などがあります。

(4)交通事故

 ひっきりなしに猛スピードで車が往来し、歩行者を優先することがなく、歩道には段差や途絶があり、安心して歩くことができない(特にベビーカーの使用は極めて危険)状況にあります。一方通行の逆走、無理な割り込み、急な車線変更、夜間の無灯火運転、信号無視、バイクの歩道走行等の違反が日常的に発生しているため、注意する必要があります。また、乗車中は後部座席であっても、シートベルトの装着を心がけて下さい。

(5)不眠など

 テヘランは高地にあるため、到着後しばらく、軽い頭痛やめまい、疲労感、不眠を訴える方がいます。多くは一時的で自然に改善しますが、症状が強かったり、つらくて不安に感じたり、数週間以上続く場合は、医療機関を受診して相談してください。

(6)飲料水

 北部のアルボルズ山脈からの伏流水を水源とするテヘランの水道水の水質は比較的良好で、直接飲んでもよいとされていますが、飲用水としては、市販のミネラルウォーターや煮沸後の水が安全です。日本の水と比較すると、マグネシウムやカルシウム等のミネラル分を多く含む硬水であるため、下痢や腹痛の原因となることがあります。おなかが弱い方や腎臓の機能が未熟な乳幼児は、ミネラル分の少ない(硬度の低い)ミネラルウォーターを選ぶと良いでしょう。

7 予防接種

 現地のワクチン接種医療機関等についてはこちら(PDF)別ウィンドウで開く

 有害事象発生時の医療機関の対応に不安があり、イラン政府の救済策は期待できない上、ワクチンの入荷状況が不安定である等の理由から、日本で接種を完了してから渡航されることを強くお勧めします。

(1)赴任・渡航者に必要な予防接種(成人、小児)

 日本から入国する場合には必要ありませんが、黄熱の感染リスクのある国を経由して入国する旅行者には、黄熱ワクチンの接種証明書が要求されます。

成人 破傷風、A型肝炎、B型肝炎、腸チフス、季節性インフルエンザ

小児 日本の定期接種、A型肝炎、B型肝炎、腸チフス、ロタウイルス、ムンプス(おたふくかぜ)、季節性インフルエンザ

 狂犬病ワクチンについては、(イラン国内での)渡航先や勤務先、滞在期間等により必要性が異なりますので、旅行医学に詳しい医師にご相談ください。

(2)現地の小児定期予防接種一覧

イランの小児の定期予防接種
予防接種の種類 出生時 2ヶ月 4ヶ月 6ヶ月 12ヶ月 18ヶ月 6歳
BCG(結核) 1回目            
ポリオ(OPV経口) 1回目 2回目 3回目 4回目   5回目 6回目
ポリオ(IPV)     1回目        
5種混合(注)
(DTwP + Hib + HepB)
  1回目 2回目 3回目      
DTP(DTwP)           1回目  
B型肝炎(HepB) 1回目            
MMR         1回目 2回目 3回目

(注) D ジフテリア、T 破傷風、wP 百日咳、Hib インフルエンザ菌b型、HepB B型肝炎

イランの百日咳ワクチンwPは、日本で使用される百日咳ワクチン aP と比べ発熱などの副反応が高頻度で起きます。

その他

Td(破傷風+ジフテリア) 14~16歳および成人(10年毎)、妊婦、軍人

髄膜炎菌         軍人、ハッジ巡礼者

注意:上記の小児定期予防接種のワクチンは、ほとんどがイラン国内あるいはアジア、欧州などの近隣国で製造されたもので、米国製ワクチンは入手不可能です。また、1)ポリオワクチンは不活化ワクチンではなく経口生ワクチンである、2)5種混合(日本では4種混合)にはポリオワクチンではなくB型肝炎ワクチンとHibワクチンが入っている、3)5種混合に含まれる百日咳ワクチンの種類が違う、4)はしか・風疹・おたふくかぜの3種類が入ったMMRワクチンが使用される、などの点が日本の定期接種と異なっています。

(3)小児が現地校に入学・入園する際に必要な接種証明

 現地校に入学・入園する際は上記のワクチン接種証明の提出を求められることがあります(公立校は必須)。渡航前に確認し、必要であれば医師に依頼して母子手帳などを基に英文(可能であればペルシャ語)の接種証明書をご準備ください。

(4)予防接種の費用

 定期予防接種は無料ですが、定期接種以外は、薬局でワクチンを購入して医療機関で接種(有料)する必要があります。また、在庫は流動的です。

8 病気になった場合(医療機関等)

  • 緊急時には、イラン各地の24時間対応の診療所や、すべての州にある総合病院の24時間対応の救急室を利用することができます。救急車:115番(ペルシャ語での対応)。
  • 病院勤務医の多くは、午前中は病院で勤務し、午後は各自のクリニックで診療するため不在となるので注意が必要です。
  • 医師の多くは英語を解しますが、看護師や受付職員は全く英語が話せないことが多いので、ペルシャ語が分かる人に同行してもらうことをお勧めします。
  • 医薬分業が徹底しており、注射や点滴の薬であっても、患者や家族が薬局まで行って購入して病院の処置室に持参しなければなりません。血液検査やレントゲン撮影なども、別の施設で受けて、検査結果をもらってクリニックを再度受診しなければならないこともあります。
  • 支払いは基本的に現金前払いで、受付(診察料)や検査室(血液検査やレントゲン費用)などで、その都度支払います。現在イラン国内ではクレジットカードは使用できません。

◎テヘラン

 邦人が利用する事の多い総合病院と歯科クリニックを紹介します。いずれの総合病院も24時間救急患者に対応しています。

(1)Bahman Hospital(バフマン ホスピタル)
所在地:Shahrake gharbNorth Iran Zamin St.
電話:(021)-8857- 5901 to 10
概要:市北部の私立総合病院。心臓部門に特化し、多くの外国人患者を受け入れています。
(2)Atieh Hospital(アティエ ホスピタル)
所在地:Shahrake gharbFarahzadi Blv. & Shahid dadman Cross
電話:(021)-82721
概要:市北部の私立総合病院。24時間、心筋梗塞等の患者受け入れ体制をとっています。
(3)Kasra Hospital(キャスラ ホスピタル)
所在地:Arjentine SquareAlvand St. No.23
電話:(021)-8888-7744 / (021)-8211-1000
ファックス:(021)-8878-1235
概要:日系企業等が多いArjentine Square地域にある私立総合病院です。アラブ諸国を中心に、多くの外国人患者を受け入れています。
(4)Pars General Hospital(パールス ホスピタル)
所在地:Vali-asr Sq. Keshavarz Ave. (エスピナスホテル向側)
電話:(021)-8896-0051 to 59
ファックス:(021)-8896-6052
概要:私立総合病院。CCU(心筋梗塞などの集中治療室)があり、心臓血管カテーテル検査を行っているほか、人工透析や腎移植の施設もあります。小児科や産婦人科、耳鼻科、整形外科などに多くの医師を揃えています。
(5)Day General Hospital (デイ ホスピタル)
所在地:Vali-asr Ave., Abbaspoor St.
電話:(021)-8879-7111 to 19
ファックス:(021)-8879-7353
概要:私立総合病院。一般外来を受診する際、初診・再診とも予約は受け付けていないため、受付順で診察を待つことになります。
(6)Tehran Clinic (テヘラン クリニック)
所在地:Ghaem Magham Farahani St.
電話:(021)-8871-2931 to 40
ファックス:(021)-8872-4543
概要:古くからある私立総合病院です。
(7)Mofid Children’s Hospital(モフィド小児病院)
所在地:Shariati Ave. Before Mirdamad Blvd.
電話:(021)-2222-7021 to 9
概要:公立小児総合病院。外国との学術交流があり、海外からの患者も受け入れています。
(8)Dr. V. Aboyans(歯科)(ドクトル アブヤンズ)
所在地:No.9Sam St.East 14 St.Beihaghi St.Arjentine Square
電話:(021)-8874-7609
概要:英国で学んだ歯科医。原則予約が必要です。

○イスファハン

(1)Alzahra Hospital(アルザハラ ホスピタル)
所在地:Sofeh Street, Isfahan
電話:(031)-3668-5555
ファックス:(031)-3668-4510
概要:イスファハン医科大学の教育病院で、24時間の救急外来があります。外国人用VIP病棟があり、一般のイラン人とは分けられた形で診療を受けることができます。

○マシュハド

(1)Razavi Ultra Specialized Hospital(ラーザーヴィ ホスピタル)
所在地:After Qaem Bridge, Azadi Highway, Mashhad
電話:(051)-3666-8888
概要:ほぼ全科(内科、外科、耳鼻咽喉科、眼科、整形外科、救急科等)を備え、約700人の医師が勤務するマシュハドで一番大きな総合病院です。特に心臓外科、脳神経外科に力を入れています。宗教都市マシュハドで1,200年前から続くイスラム教財団のアスタン・コッズ・ラーザーヴィ財団の厚い資金的サポートのもとで、2007年から診療を開始し、人種・宗教を問わず広く国内外から患者を受け入れています。

9 その他の詳細情報入手先

大使館ホームページ:https://www.ir.emb-japan.go.jp別ウィンドウで開く

 大使館領事部に「テヘランの医療機関案内」を用意しておりますのでご利用ください。

10 現地語一口メモ

  • 医師: ドクトル、ペゼシュク
  • 飲み薬: ダールー
  • 注射: アンプール、タズリーク
  • 頭痛: サルダルド
  • 胸痛: スィネダルド
  • 腹痛: デルダルド
  • 下痢: エスハール
  • 発熱: タブ
  • 吐気: タハッヴォ
  • 傷: ザフム
  • 具合が悪い: ハーレ マン フーブ ニースト
  • 病院へ連れて行って欲しい: ロトファン マン ラ ベ ビーマーレスターン ベレスニッド
  • 救急車: アンボランス

11 新型コロナウイルス関連情報

  • 2020年8月末時点で、イラン国内の累積感染者数は37万人超、累積死亡者数は2万人超となっていて、入国にはPCR検査陰性証明書を求められる場合があります。
  • 多くの医療機関でPCR検査を実施しており、感染が疑われた場合には直接医療機関に連絡して検査を手配する必要があります。陽性であった場合でも、強制的な入院や施設隔離などの措置は取られていません。
  • 渡航の際には最新の情報をご確認下さい。

Get Adobe Reader(別窓が開きます) Adobe Systemsのウェブサイトより、Acrobatで作成されたPDFファイルを読むためのAcrobat Readerを無料でダウンロードすることができます。左記ボタンをクリックして、Adobe Systemsのウェブサイトからご使用のコンピュータに対応したソフトウェアを入手してください。

このページのトップへ戻る
世界の医療事情へ戻る