世界の医療事情

令和6年10月1日

1 国名・都市名(国際電話番号)

モルディブ共和国(国際電話番号960)

2 公館の住所・電話番号

在モルディブ日本国大使館
住所:Embassy of Japan in Maldives
   5th and 8th Floor, Aage Building, 12 Boduthakurufaanu Magu, Henveiru,
   Male, 20094, Republic of Maldives
電話:330-0087
Fax:330-0065
ホームページ:在モルディブ日本国大使館別ウィンドウで開く

3 医務官駐在公館

在スリランカ日本国大使館医務官が担当

4 衛生・医療事情一般

 首都マレはインド洋上に位置し、気候は年間を通じて高温多湿なため、消化器系の感染症に注意する必要があります。飲料水は水道水を煮沸するか市販の飲用水が勧められます。マレの医療水準は一般的な疾患には対処できますが、国内の専門医数は非常に限られているため、いつでも緊急の処置に対処可能とは限りません。特に、循環器救急、脳外科救急、胸部心臓外科、脊椎外科、重症外傷には十分に対応できません。このためバンコク、シンガポールや日本への緊急移送が必要になる場合に備え、十分な補償額の海外旅行保険への加入が必要です。また、国民に対し公立病院の医療費は無料ですが、外国人は治療費の支払いに保証がない限り、公立病院を含めどの医療施設でも治療は受けられないこと、医療費が高額なことからも海外旅行傷害保険の加入が必要です。また、ほとんどの医療従事者・医療資源がマレに集中しているため、地方の環礁の医療レベルは大きく低下します。

 医師はモルディブ人も含め、パキスタンやバングラデシュ、インド、中東などで資格を取得した医師がほとんどで、マレにある国立大学医学部は2019年に稼働を始めたばかりで周辺国で教育を受けている状態です。医師数は1万人口あたり23人と日本と大きく変わりませんが、知識、技術は個人差が大きく、母言語ではない英語でのコミュニケーションエラーや宗教(イスラム)に基づく習慣や考え方などの問題もあり、診療・治療方針等に関してコミュニケーションが取りづらいことがあります。

 なお、モルディブには狂犬病の発生がなく、マラリアは2016年にWHOが根絶宣言を発表しました。

 緊急を要しない手術や侵襲的な検査・処置、そして出産は、日本または他の先進国で行なうことを強く推奨します。

5 かかり易い病気・怪我

(1)デング熱、チクングニア熱、ジカ熱

 これらは蚊(ネッタイシマカ等のヤブカ)に刺されることによって感染します。いずれも、最も効果的な予防策は、防蚊対策で、虫除けスプレー、蚊取り線香、蚊帳などの対策が必要です。虫除けスプレーは現地でも購入できますが、使い慣れた物を日本から持参することをお勧めします。2015年にはデング熱の大流行がありました。

ア デング熱

 一過性熱性疾患の症状から始まり、頭痛、関節痛や、時に目の奥の痛みなどを起こし、発症3日から4日後に発疹が出現、通常は1週間から10日ほどで軽快します。重症化するとデング出血熱となり死亡する場合もあるので、血小板数の減少や尿などを頻回に診る必要があります。特に昨今のCovid-19蔓延により、これら熱性疾患との鑑別が難しく、PCR検査結果を見ないと治療が始まらないなど、治療が遅れる場合があり、問題となっています。2023年は3223例の発症がありました。

イ チクングニア熱

 デング熱と同じ種類の蚊によって媒介されるチクングニア熱は、チクングニアウイルスによる熱帯感染症です。潜伏期間は通常3から7日で、不顕性感染も多いものの、チクングニア熱を発症すると39度を越える間欠性の悪寒を伴う高熱と全身の関節痛が見られ、多くに発疹が見られます。その他、全身倦怠、頭痛、筋肉痛、リンパ節腫脹などを呈し、ときに血小板減少などによる出血傾向や悪心・嘔吐などをきたし、脳炎や劇症肝炎をおこすこともあります。ほとんどの症状は3から10日で消失しますが、関節炎は数週間から数か月持続することがあります。発症3から6日の患者のウイルス量は多く、この患者を吸血した蚊を媒介して家族内などで流行する可能性があります。治療は対症治療しかなく、やはり防蚊対策が重要になります。

ウ ジカ熱

 デング熱や日本脳炎、黄熱などと同じフラビウイルス科に属するジカウイルスにより、デング熱と同じネッタイシマカなどのヤブカが媒介します。蚊に刺されて2日から7日後に発症し、発熱、頭痛、関節痛、結膜充血、皮疹が3から12日間程度持続しますが、デング熱より軽症で入院が必要なことは稀です。有効な治療はなく、対症療法のみです。妊婦に感染した場合、胎児に小頭症を起こす可能性があり、性交渉で感染者の体液から、また輸血での感染も報告されています。治癒2か月後でも体液にウイルスが認められた例があり、米国CDCでは性感染症とも位置づけられています。

ホームページ:Zika Virus(英語)別ウィンドウで開く

 モルディブでは、アウトブレイクの報告例はありませんが、年に数例の報告例があり、ジカウイルスを媒介するネッタイシマカなどのヤブカが発生している地域であり、注意が必要です。

(2)消化器系感染症

 肝炎(主にA型)、腸チフス・パラチフス、赤痢、アメーバ赤痢等生水の飲用や加熱不十分な食事等から感染するリスクは常に存在します。食中毒や経口感染症予防のためよく加熱調理された食べ物をとるよう心がけて下さい。

(3)減圧症(潜水病)

 モルディブはレジャーダイビングのメッカです。ダイビングに関わる事故は頻発しており、特に減圧障害(減圧症(潜水病)、動脈ガス塞栓症)には注意が必要です。ダイビング中に急浮上や減圧停止を行うような潜水を行った後、浮上の数時間以内に手足の関節部の痛み、筋肉痛(1型減圧症ベンズ型)、皮膚のしびれ、かゆみ、痛み(1型減圧症皮膚型)、息が詰まる、体が動かなくなる(2型減圧症)等の症状を引き起こすことがあります。重症では、痙攣や手指の麻痺、下半身麻痺、めまい、吐き気などを起こし、重い後遺症を残したり、死亡したりすることもあります。治療には、再圧チャンバーを使用した高圧酸素療法が唯一の治療となり、全身管理が必要となります。モルディブでの再圧チャンバーはマレ島の私立ADK病院及び後述するリゾートにある5つのほか、マレにある軍病院に日本から寄贈のものがありますが稼働していません。費用が高額になるので、十分な補償のあるダイバー保険等に加入しておくことをお勧めします。その際、ダイビングなどの事故が補償除外項目になっていないかも十分にチェックして下さい。また、ガイド任せにせず、潜水機材は必ず自分でもチェックし、必ずダイビングコンピューターを使用しバディを組んで無減圧潜水を心がけ、浮上前の安全停止なども励行し、無理のない潜水計画を立てて下さい。

6 健康上心がけること

(1)熱中症

 高温多湿であり、気づかないうちに脱水状態になっていることがあります。現地の人達も水を持ち歩いています。とくに昼間外出時は、熱中症予防のため十分な水分補給を欠かさないで下さい。

(2)紫外線・日焼け

 赤道に近く紫外線が強いため、日焼けに十分注意をして下さい。屋外に出かけるときには日焼け止めを塗り、日傘の利用や長袖・長ズボンを着用し、直射日光をできる限り避けましょう。サングラスの使用もお勧めします。

(3)防蚊対策

ア 蚊に刺されないように、
  ・外出時に、イカリジンまたはDEET含有の虫よけ剤を使いましょう。
  イカリジン15%、ディート30%含有の製品をお勧めします。日本でも各社からこの濃度の様々なタイプの虫よけ剤が入手できます。現地でも購入は可能です。
  ディートの方が幅広い虫に対して効果がありますが、イカリジンより肌に刺激が強く、30%のものは12歳未満には使用できません。またプラスチックを腐食する性質があります。
  ・当地ではビジネスではダークスーツが基本となりますが、蚊の対策には白など色の薄い色の服装でできる限り肌を隠すことが大事です。

イ 蚊の発生場所をなくすために、
  ・住居の周りを定期的にチェックしてください。
  ・蚊の幼虫(ボウフラ)が発生しそうな水たまりを除去・清掃します。除去できない観賞用植物等の水たまりについては、メダカなどを入れることも一案。

(4)食中毒

 常に高温多湿のため、少し時間が経てば細菌などが繁殖します。旅行者や短期滞在者のサルモネラ菌などの食中毒の発生は毎日のように発生しています。食料品のコールドチェーンも必ずしも守られておらず、たとえ火を通したものでも、食中毒になる恐れがあります。食品の管理に気をつけて下さい。

シガテラ中毒

 バラフエダイ、カマス、ギンガメアジ、イシガキダイ、ヒラマサなどサンゴ礁でとれた魚が生体濃縮した渦鞭毛藻類の毒(シガテラ毒)を持つことがあり、摂食後数時間で発症し、嘔気、下痢、腹痛など消化器症状から、頭痛、関節痛やそう痒感、またクーラーや冷水に触れると電気刺激のような痛みを感じる温度感覚異常(ドライアイス・センセーション)などの症状がでて、数か月続く場合もあります。加熱でも防ぐことができず、煮汁にも溶け出します。危険性の高い魚を認識し、その摂食をできる限り避けるようにしましょう。

(5)スノーケリング・ダイビング、海洋生物による外傷

 潮の流れが速く、離岸流が強いところがあるので、ガイドやインストラクターのブリーフをよく聞いて、無理のないよう心がけ、漂流事故等に注意してください。

 これらマリンスポーツに伴う外傷・溺水・海洋生物咬傷刺傷などの事故も発生しています。観光客が多いリゾート島地域は設備の整ったマレの医療機関から遠く離れた場所が多く、迅速な医療的対応がおくれることがあります。サンゴや岩による切創などの外傷や、オコゼなどの魚類、ヒョウモンダコ、ウミヘビ、クラゲ、ウニなどの海洋生物には十分気をつけましょう。

 減圧症については上述。

7 予防接種(ワクチン接種機関含む)

(1)赴任者に必要な予防接種(成人、小児)

 長期滞在する場合、成人にはA型肝炎、B型肝炎、破傷風、腸チフスの予防接種が推奨されます。狂犬病ワクチンは不要です。

(2)現地の小児定期予防接種一覧

略語 予防できる病気 接種時期
BCG 結核 出生時
HepB B型肝炎 出生時
Pentavalent ジフテリア、破傷風、百日咳、インフルエンザ菌、B型肝炎 2か月
BOPV(生、経口) ポリオ 2から6か月
IPV(注射) ポリオ 6か月
MR 麻疹、風疹 9か月
MMR 麻疹、風疹、おたふく風邪 18か月
DPT Booster ジフテリア、破傷風、百日咳 4歳
HPV 子宮頸がん 10歳
Td 破傷風 15歳

(3)小児が現地校に入学・入園する際に必要な予防接種・接種証明

 特に必要ありません。

8 病気になった場合(医療機関等)

(首都)マレ

(1)IGMH(インディラガンディーメモリアル病院)
所在地:Kan’baa Aisaarani Higun, 20402, Male
電話:333-5335、FAX:331-6640
ホームページ:IGMH(英語)別ウィンドウで開く
概要:399床、21診療科と歯科をもつ国内で最も大きな国立総合病院。X線、CT、MRI、超音波、上部消化管内視鏡検査室、マンモグラフィーなどを揃え、手術室8、カテーテル検査室2、ICU11、NICU、精神科閉鎖病棟等がある。心血管インターベンション治療は心臓内科医4名が所属しているため、国内では最も対応が早く、救急部も37名の医師で24時間救急診療を行っている。ただし、緊急時以外はモルディブの保険未加入の外国人は基本的には私立病院に受診するようトリアージされます。
(2)ADK Hospital
所在地:Sosun Mgu, Henveiru, Male 20040
電話:331-3553、FAX:331-3554
ホームページ:ADK Hospital(英語)別ウィンドウで開く
概要:外国人にも対応可能な私立病院。1996年に建てられ、現在245床。ICU6、CCU5、NICU10、医師100名。心臓外科、脳外科は私立病院ではこの病院のみ治療可能。20年以上前から、マレ島で邦人の入院可能な唯一の病院で、病室は十分な機能と快適性はありますが、マレ島内ということもあり、やや狭く暗い印象。内科、小児科、呼吸器、循環器科、腎臓内科、一般外科、整形外科、脳外科、産婦人科、皮膚科、耳鼻科などをもち、心血管外科では症例数は少ないものの低侵襲開心術もおこなっています。2022年IGMHから救急部長が移籍したため、救急・外傷治療も盛んになってきています。マレ島初の高気圧酸素治療装置が2台稼働しています。
(3)Tree Top Hospital
所在地:Lot 10608, Dhumburi Magu, Hulhumale’, 23000
電話:335-1610
Email:care@treetophospital.com
ホームページ:Tree Top Hospital(英語)別ウィンドウで開く
概要:2015年に国際空港のあるフルレ島側にできた210床、手術室4室をもつ24時間対応の新しい私立病院。30診療科、医師90名で、公立病院との掛け持ちが少なく、英語は十分に通じます。内科、小児科の他、一般外科、乳腺外科、整形外科、脳外科、産婦人科、耳鼻科、外傷、眼科、歯科、透析クリニックなどをもっています。ADK病院よりやや小さいが、医師やコメディカルはアジア・中東・欧州20カ国以上から集まり、リゾートホテル並の設備と接遇を目指し、より欧米よりの医療を展開。フルマレ島にあるため、マレ島からはやや遠いですが、救急車ならマレ島のどこからも15分程度でアクセス可能で、外来や救急、入院病棟のスペースも広く清潔です。マレ近辺在住日本人はこの病院を利用する事が多いようです。モルディブでは死体処理ができる唯一の病院となっています。

バンドス島(カーフ環礁)

(1)Bandos Clinic and Hyperbaric Center
所在地:Bandos Island Resort, Bandos, North Male Atoll 08480
電話:777-2783、799-8675、777-1392
Email:clinic@bandos.com.mv
概要:Bandos島リゾート内にあるクリニックで、数人が同時に治療できる2種高気圧酸素治療装置があり、欧米人の専門医とGP(総合診療医)の2名の医師と看護師が常駐しています。マレからスピードボートで10分。

クラマティ島(ラスドゥ、アリフアリフ環礁)

(1)Kuramathi Medical Center
所在地:Kuramathi Maldives, Rasdhoo Atoll
電話:763-5009、778-1096
Email:medicalcenter@kuramathi.com
ホームページ:Kuramathi Medical Center(英語)別ウィンドウで開く
概要:アリフアリフ環礁に隣接するラスドゥ環礁のリゾート内にある有床クリニック。2000年よりモルディブで最も大きい2種高圧酸素治療施設(定員6名)を設置。ドイツの大学と提携しドイツ人のGPと専門医2名24時間体制。一般内科、外傷治療なども行っています。

クレドゥ島(ラヴィヤニ環礁)

(1)Kuredu Clinic and Hyperbaric Centre
所在地:Kuredu Island Resort, Lhaviyani Atoll
電話:790-1754
Email:clinic@prodivers.com
ホームページ:Kuredu Clinic and Hyperbaric Centre(英語)別ウィンドウで開く
概要:ラヴィヤニ環礁のリゾート内にあるクリニック。2種高圧酸素治療施設を設置。医師2名24時間体制で減圧症だけでなく、内科・外科系一般診療も行っています。

カンディマ島(ダール環礁)

(1)Kandima Medical Center
所在地:Kandima Maldives, Dhaalu Atoll
電話:796-7703、732-5181
Email:medicalcenter@kandima.com
ホームページ:Medical Clinic at Kandima Maldives別ウィンドウで開く
概要:ダール環礁の大きなリゾート内にあるクリニック。2011年11月から2種高圧酸素治療施設が稼働し、ドイツ人医師(GP)1名、歯科医、他スタッフが24時間体制で減圧症だけでなく、内科・外科系一般診療、歯科治療も行っています。アリフアリフ環礁以南の減圧症発生時に。

9 その他の詳細情報入手先

10 一口メモ

 医療機関の受診は英語で問題ありません。世界の医療事情冒頭の「もしもの時の医療英語」をご参照ください。

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