世界の医療事情
シエラレオネ
1 国名・都市名(国際電話番号)
シエラレオネ共和国(国際電話番号232)
2 公館の住所・電話番号
- 在ガーナ日本国大使館 兼轄国
- Embassy of Japan in Ghana, Dr.Hideyo Noguchi Street, West Cantonments, Accra, Ghana(金曜日午後、土曜日、日曜日休館)
- 電話:+233(0)302765060、+233(0)302765061
3 医務官駐在公館ではありません。
在ガーナ日本国大使館医務官が兼轄
4 衛生・医療事情一般
シエラレオネの気候は平均気温26.1度と高温で多湿の熱帯性の気候です。年間の降雨量は2,990mmで5月から10月の雨季と11月から4月の乾季があります。電気は停電が多く、発電機を備える必要があります。上水道使用率は20.9%(2020年)、下水道使用率は16.4%(2020年)と衛生水準は極めて低くなっています。
当国の医療水準は先進国と比べ、多くの点で異なります。1つ目は、医療機関についてです。一般的に公立の医療機関は老朽化し、設備や医療機器の整備は十分でなく、衛生水準は高くありません。加えて、人口あたりのベッド数や医療従事者数は常に不足しています。例えば、毎年医学部を卒業し国内で医師となる人数は30から40人であり、その多くは、数年で国外へ流出しています。また、人口10万人あたりの医師数は、日本238.7人に対して、シエラレオネ1.67人(総医師数130人前後)となっています。これらの事から、教育病院や総合病院等の公立病院は常に多くの受診待ちの患者とその家族で溢れています。
2つ目は、外科治療含めた集中治療についてです。医療技術自体も医師数の不足に伴った指導医の不足から診断技術や外科治療技術は先進国のレベルとは大きく異なります。このため富裕層や外国人は、脳卒中や心臓病及び手術が必要な場合には、欧米もしくはガーナ、南ア等国外で治療を受ける為に緊急移送を利用しているのが現状です。また、集中治療に関して使用する血液製剤は、十分な感染症検査をしていない事が多々ありますのでHIVや肝炎等への罹患リスクがあります。この為、万一の場合に備えて、医療先進国で治療を受けられるレベルの旅行傷害保険(搬送費用も十分に考慮すること)に加入することを忘れないでください。
3つ目は、救急医療体制についてです。日本の様な救急医療体制は機能していません。多くの人がタクシーか自家用車を利用して患者を病院へ搬送しています。日頃から健康に留意し予防接種や予防薬についても、当国入国前にかかりつけ医と相談してください。
5 かかり易い病気・怪我
(1)感染性下痢症
食べ物等を介して感染するサルモネラ、大腸菌、コレラ、腸チフス等多くの経口感染症がみられます。ウイルス性の胃腸炎も多く、発熱や嘔吐することもあります。ホテル内を含むレストラン等で食事をする場合は十分加熱した物を食べ、生野菜やカットフルーツも注意してください。飲料水は蓋のされたミネラルウォータを使い水道水や氷等は避けてください。渡航前に腸チフスワクチンの接種を勧めます。また、整腸剤等については、日本で多めに入手してからの渡航を検討してください。
(2)マラリア
最も注意すべき病気です。年間約2.5万人以上が罹患しています。統計に加えられていない症例数も数多く推測されます。一年を通じて感染者は発生しており、首都フリータウンでも日常的に感染が確認されています。当国のマラリアは致命率の高い熱帯熱マラリアですので最大限の注意が必要です。予防として、ハマダラ蚊が活動する夕方から明け方の外出を控え、外出する際には長袖・長ズボンを着用し、虫除けスプレー等蚊の忌避剤の使用を勧めます。近年、日本においても蚊よけ成分であるDEET30%の皮膚用の忌避剤が市販されており、持参を推奨します。さらに室内への蚊の侵入を防ぐために、窓に網戸を張り、窓を閉めてエアコンを使用してください。蚊取り線香、電気式蚊取り器や蚊帳も有効です。万一、38度以上の発熱があれば、マラリアを疑い最寄りの医療機関を遅滞なく受診してください。受診の際には、検査が行われますが、簡易キットだけで無く、顕微鏡下での血液検査を依頼してください。1度目の検査で陰性とされても、症状が継続する限り、数日後2回目の検査をする必要があります。また、当国での滞在の期間や形態を勘案し、予防薬服用の要否とその種類を日本国内の旅行医学専門の医師に相談してください。予防薬は当国内の薬局でも購入することができますが、偽薬の報道もあり信頼の出来る薬局で購入して下さい。また、帰国後に発熱があったときはマラリアを考慮し、感染症専門医のいる病院、もしくは地域の基幹病院を受診し「西アフリカへの渡航歴」があることを伝えることが重要です。
(3)交通事故
交通渋滞が頻発し、特に夜間は運転マナーが悪いことに加え街灯も少なく非常に危険です。停電等で信号機が消えていることも多いので交通事故に注意してください。特にバイクは交通ルールを無視する傾向があるため注意が必要です。唯一の公共交通機関である値段交渉式タクシーは整備不良車が多く安全面に難があります。運転手付きレンタカー等の利用を検討してください。また、交通事故における軽度の外傷を負った場合、整形外科、一般外科の専門医に最初から受診できるのは一般的ではなく、総合診療医による診療となります。この為、専門外による見逃しや十分な初期治療がなされない場合が多々あります。加えて、複数部位の外傷の場合は、当国内では対応ができないのが現状であり、国外への緊急移送が必要となります。
(4)外傷
道路インフラが整備されていない場所では転倒等のリスクが伴います。前述の医師不足に伴う指導医不足により軽微な骨折の場合は、整形外科専門医であっても見逃され易い傾向がありますので注意が必要です。破傷風等のリスクもあるため、日本での事前の破傷風予防接種をお勧めします。
(5)精神の不調
当国に滞在する方の中に精神の不調を患う方が散見されます。当国の生活環境や国民性の違い、マラリア感染や下痢症への不安、ストレスを発散できるレジャーが少ないことなどが原因として挙げられます。しかし、精神の問題は複合的な要因である場合が殆どで周囲の状況を改善しても精神的な問題解決に至らないケースが見られます。同僚や知人の異常な言動や行動は放置せず、早めに関係者と連携しながら治療もしくは帰国の可能性を検討することが大切であるといえます。また、不眠症や自律神経失調症に罹患する事も散見されます。精神科治療は発達していないため、先進国での治療が必要です。加えて、睡眠導入剤や精神安定剤は、入手できる種類が限られているため、渡航前に日本の医院等での入手を検討してください。
(6)アレルギー疾患
通年高温多湿の環境のため、室内にカビが生えやすい状況です。そのため喘息等アレルギー体質をお持ちの方は日当たりの悪い部屋を避ける必要があります。またホテルやアパートメントでは小型タンク式のボイラーが多いため、シャワーを使用する際はゴミや細菌で汚染されている可能性があるため一旦排水することを推奨します。また、12月から3月頃まではハマターンと呼ばれるサハラ砂漠からの季節風が吹くため大気汚染が悪化します。咳き込みや目の痒みの症状が多くなる季節です。喘息体質の方は渡航前に内服薬を準備するか、発作時に受診する病院について事前に確認する必要があります。
(7)熱中症
当地では、体感する以上に発汗し脱水に陥ることが多いです。特に、炎天下での作業やスポーツは気付かないうちに脱水や熱中症に陥る危険性があります。熱中症は頭痛・めまいに繋がり、さらに放置すると致命的になる事さえあります。外出時や運動をする際は、帽子や長袖等の日焼け対策、水分補給をしてください。
6 健康上心がけること
- 初めて当国に渡航する場合は、慣れない環境から精神的また肉体的な負担が、強いられため、疾病にかかるリスクは高くなります。
- 当地の医療水準は日本と比べて異なるため、疾病の予防に重点をおくことが重要です。当地では公共交通機関が未発達のため、自動車での移動が多くなります。運動不足による肥満となりやすいため、日常的な運動を心がける必要があります。
- 具体的な対応
- 渡航前に十分な体調管理、予防治療、予防接種を行う
- 渡航後は、十分な睡眠、休養、適度な運動を心がける
- 食事は、価格よりも衛生状態に配慮する(特に粗悪な油を大量に使用したローカルフードに注意する)
- 一時帰国時等に健康診断(人間ドック、脳ドック含む)を受診する
- 頻度は低いものの生活上留意すべき病気
ア 黄熱
当国は黄熱の汚染地域となっており、散発的に報告されています。シマ蚊類が媒介し、初期症状は激しい頭痛、腰痛と発熱で始まる死亡率の高い病気です。
イ 狂犬病
主に犬、猫、コウモリ、ネズミ、山羊などの動物が媒介します。当国では動物に咬まれたり、引っ掻かれたりすると感染する危険があるため、動物と一定の距離をおいてください。かまれた事により感染し、発症するまでは1から2か月となっています。狂犬病は一度発症すれば、致死率はほぼ100%といわれています。受傷後は創部を5分以上流水で洗浄・消毒し、すみやかに医療機関で狂犬病ワクチンの追加接種を検討してください。しかし、同国内では、信頼できるワクチンの入手が困難ですのでガーナ等国外での接種を検討してください。
ウ A型肝炎
A型肝炎はウイルスが人から人あるいは食べ物や飲み物を介して経口的に感染し、稀に劇症化します。不衛生な環境では感染する危険があるので、渡航前の予防接種を勧めます。
エ 髄膜炎
髄膜炎当地はアフリカ髄膜炎流行ベルト地帯に位置し、北部を中心に乾季に流行します。特に集団生活での感染が多く、感染者と接触すると感染する危険があります。予防として予防接種が有効です。地方に長期滞在する方は接種を考慮してください。当地では四価(A、C、W、Y)ワクチンの接種を勧めます。
オ 住血吸虫症
住血吸虫症は淡水から寄生虫が直接皮膚に侵入することで感染する疾患です。ビルハルツ住血吸虫の感染は河川や湖沼等で水浴中に皮膚より感染し、素足やサンダル等での入水は感染の機会となります。ビルハルツ住血吸虫症は膀胱壁の障害に基づく血尿、排尿障害、腎尿路系の二次感染などが主症状で、さらに慢性期には膀胱癌をともなうことが問題となっています。また、マンソン住血吸虫も全土の河川に分布しており皮膚より感染するため、安易に河川に入ることは避けるべきです。
カ デング熱
都会の汚れた水でも増殖するネッタイシマ蚊が媒介し日中に活動するので旅行者が感染する可能性があります。症状は急性の頭痛、関節痛、筋肉痛を伴う発熱で発疹をみることもあります。急性症状は10日程続き、回復には2から4週間程かかります。出血傾向を示すものはデング出血熱と呼ばれ重症です。
キ HIV/AIDS、B型肝炎、C型肝炎
国民(15歳から49歳)の1.4%(2021年)がHIV感染者と報告されています。HIV、B型肝炎、C型肝炎は主に血液、体液を介して感染します。当国では肝炎を多く認めますので、輸血を要する事態が発生すればこの点に十分な注意が必要となります。B型肝炎は抗体の有無を確認のうえ渡航前のワクチンの接種を勧めます。
ク 結核
人口10万人あたり298人(日本12人)の罹患数となっています。依然として結核蔓延国であることに変わりはなく、職員・運転手・メイドなど雇用する際には健康に留意する必要があります。感染者と接触してもすぐに感染することはありませんが、密閉した空間で感染者と長時間滞在していると罹患する可能性が高くなります。
ケ ラッサ熱
ネズミ等齧歯類が媒介する死亡率の高いウイルス病です。患者からのヒトからヒトへの感染もあります。大流行はありませんが、ネズミを見かけるような不潔な住環境を避けることが必要です。また、近隣で患者発生の情報があれば体調の悪い人と接しないようにしてください。
コ エボラウイルス感染症
エボラウイルスが引き起こす、致命率が非常に高い感染症です。2014年に西アフリカで大流行しました。以前はエボラ出血熱と呼ばれていましたが、必ずしも出血の症状を伴わないためエボラウイルス病と呼ばれるようになりました。ギニア、リベリア、シエラレオネで大流行し、マリ、ナイジェリアやセネガルにも波及しました。自然宿主はフルーツコウモリと考えられており、コウモリから直接あるいはチンパンジーや小動物を介し人間に感染するとされています。ヒトからヒトへの感染は患者やご遺体の血液、分泌物、排泄物などの直接接触を介し、皮膚の傷口や粘膜などからウイルスが侵入することで感染します。また、患者のいる家庭や医療施設での感染率が高いとされています。潜伏期が2から21日と幅が広く、初期には発熱、頭痛、嘔吐、下痢など他の感染症の症状と見分けがつかないことが多いとされています。感染予防のためには頻回に石けんと流水で手洗いを行うとともに、エボラを疑う患者やご遺体の血液・体液・嘔吐物や野生動物の死体に直接触れないようにすることが重要です。消毒用エタノール、70%イソプロパノールを含む手指消毒剤や0.05%次亜塩素酸ナトリウムでの清拭もウイルス感染予防に有効です。
サ 脳卒中及び脳神経外科疾患
脳神経外科専門医数(2022年)は、当国では0人(2022年)、日本7927人となっております。この為、脳神経外科分野の治療が必要になった場合は、国外への飛行機移送が必要となります。しかし、緊急かつ安静を要するような疾患(くも膜下出血、脳出血、脳梗塞、重症頭部外傷)の場合は、飛行機での移送自体がリスクとなり、また、移送準備までの日数により治療可能となる時期を逸する可能性が高いです。この為、発症した場合十分な治療を受けれない可能性が高いといえます。予防が中心となる為、これらの疾患の原因(外傷以外)となる生活習慣病(高血圧、脂質代謝異常症、糖代謝異常症等)に対しての十分な治療や脳ドック等での検査を日本又は先進国で検討してください。
シ 急性冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)
当国内でのカテーテル治療可能な施設はありません。また、前述の医師不足や救急医療体制の不備から治療までたどり着かないケースがほとんどです。また、国外への移送を計画しても、移送準備の日数がかかることから治療可能となる時期を逸する可能性が高いです。この為、これらの疾患の原因となる生活習慣病(高血圧、脂質代謝異常症、糖代謝異常症等)に対しての十分な治療や人間ドック等での検査を日本で検討してください。
7 予防接種(ワクチン接種機関含む)
現地での信頼できるワクチン接種医療機関はありません。このため、渡航前の予防接種をお勧めします。
(1)赴任者に必要な予防接種
- 成人:黄熱、A型肝炎、B型肝炎、破傷風、腸チフス、髄膜炎菌性髄膜炎、狂犬病
- 小児:日本の定期接種、黄熱、A型肝炎、B型肝炎、腸チフス、髄膜炎菌性髄膜炎、狂犬病
(2)現地の小児定期予防接種
十分な情報がありません。ガーナの情報を参考にしてください。
(3)小児が現地校に入学・入園する際に必要な予防接種・接種証明
十分な情報がありません。ガーナの情報を参考にしてください。
8 病気になった場合(医療機関)
- (1)IGPC/Sierra Tropical Medical Center in Sumbuya ,Sierra Leone(NPO法人)
- 電話番号:090-900-999
- HP:https://igpc.jp/
- 診療時間:24時間
- 診療科:産科、小児科、救急医療(24時間)
- 医療設備:一般病床7床、手術室、超音波、新生児集中治療室他
- コメント:産科と小児科以外にも一般的な疾病(マラリア等)にも可能な限り対応しています。日本人の助産師または看護師が常駐しています。国際緊急移送サービスであるインターナショナルSOSにも同クリニックは登録されていますので、国外への緊急移送サービスにも対応しています。フリータウンからは車で4から5時間の距離にあります。
(首都)フリータウン
- (2)AMI clinic
- 所在地:18A Mudge Farm, off the Aberdeen Road, Freetown, Sierra Leone
- 電話番号:+232(0)99500800
- HP:AMI clinic(英語)
- 診療時間:(一般外来)平日8時から17時、土曜日9時から13時、日曜日・祝日休診
- 診療科:一般内科、小児科、救急医療(24時間)、感染症科、神経内科
- 医療設備:一般病床8床、個室2床
- コメント:マラリア等の感染症治療、内科的治療がメインです。また、国外緊急移送の際の中継としても利用可能です。
- (3)Choithram Memorial Hospital
- 所在地:Hill Station, Freetown, Sierra Leone
- 電話番号:+232(0)76980000
- HP:Choithram Memorial Hospital(英語)
- 診療時間:(一般外来)平日8時から17時、土曜日9時から13時、日曜日・祝日休診
- 診療科:一般内科、小児科、救急医療(24時間)、感染症科、神経内科,循環器内科、整形外科、麻酔科、歯科
- 医療設備:CT、X線検査、上部消化管内視鏡設備、手術室、ICU4床、一般床70床
- コメント:総合病院であり、国外緊急移送にも対応しています。
- (4)Emergency Hospital
- 所在地:Peninsular Road, Goderich
- 電話:+232(0)78624737
- HP:Emergency Hospital(英語)
- 診療時間:24時間
- 診療科:外傷を中心とした救急医療救急医療
- 医療設備:X線検査、超音波検査、血液検査、手術室、入院ベッド60床前後
- コメント:イタリアのNGO団体が無料で医療を提供しています。複数の外国人医師が常駐していますが、16時以降の時間外診療はシエラレオネ人医師の対応になる可能性が高いです。24時間緊急対応可能ですが、現地の住民が主に利用するため待ち時間が非常に長くなる傾向があります。また、郊外にあるためフリータウン市内からは移動に時間がかかります。
9 その他の詳細情報入手先
10 一口メモ(もしもの時の医療英語)
公用語は英語ですので、医療機関を受診する際は英語になります。英語版については、「世界の医療事情」冒頭ページの一口メモ(もしもの時の医療英語)を参照願います。